第3話 ステータス
死ぬしかない。
それ以外に道はない。
そうとしか思えない。
ーーだとしても、だ。
「本当に完全に諦められるほど、覚悟が決まってもいないんだよなぁ……」
俺は魔境、《煉獄の森》のどこかに置き去りにされ、途方に暮れつつも、ふと我に返ってそうつぶやいた。
独り言である。
こんな森の中でそんなことを呟けば、耳のいい魔物が聞きつけて来そうだな、とは思ったものの、何か喋っていないと精神の平衡が保てそうもなかった。
だって、国軍すら諦める危険な魔物が跋扈すると言われる超危険地帯に、一人きりで置いていかれたんだぞ?
もう死ねって言っている以外に考えられないじゃん。
でも死にたくないじゃん。
じゃあどうするかって、どうにか頑張るしか……。
……まずは荷物の確認からか。
そういえば食料は置いていってくれたとか言ってたし、その言葉通り、馬車の去ったがらんとした場所に、一応それなりの大きさの布袋が置いてある。
大体、俺の体の大きさの半分くらいかな。
十四歳の少年の、半分の大きさの袋……あんまり大きくはないが、まぁ、確かに数日分の食料くらい入りそうな大きさだ。
実際中を確認してみると……。
「干し肉に、塩、パンに……まぁ野菜とか果物の類はないか……おっ、一個だけリンゴが……まぁ日持ちしないからこれだけなのかな。他もほぼ保存食か……水はあんまりないぞ……現地調達しろって言いたいのか。この森で? ふざけてるな……」
正直、水は生命線だ。
他の食べ物より優先して欲しかったのだが、あまり量はない。
今日明日中に水源を見つけないと死ぬだろう。
それくらいの量しかない。
食料は……数日分というが、水さえあれば一週間くらいは生きられそうである。
保存食は本当、先人の知恵だな。
塩はそこそこの大きさの岩塩が入っていたから、自分で獲物を狩れば味に飽きることなく生活できそうだが……そもそも俺が自分で獲物を狩るのか?
ある程度、人の手の入った管理された森でうさぎを狩るとかそれくらいのことはしたことがあるが、それ以上のことは……魔物との戦いもまだ未経験だ。
対人戦では悪くない手応えを感じられるくらいには、剣術を学んだのだが、一端とは言い難い程度の技量しかない。
そこまで考えて俺は思い出す。
「そうだそうだ、カードは……おっ、あった」
服をペタペタと触って確かめると、麻のズボンの右ポケットにそれは入っていた。
追い出される時に一度奪い取られているので、戻って来ていない可能性も考えたが、流石に父上でもそこまではやらないだろうと期待した通りだった。
というか、これはもう俺に最適化されてしまっているので、他の誰かが持ってても無駄というか、素材代くらいにしかならないものだ。
それでも結構な価格にはなるにはなるが、公爵家からすれば端金だろう。
それは、銀色の材質……いわゆる魔銀と呼ばれる素材で作られたカードで、一般的に《ステータスカード》と呼ばれているものだった。
高度な魔導技術の集合体であり、いわゆる《神の頭脳》に擬似的に接続することによって、本人の知り得ない様々な情報について表示する機能が……とか、色々と説明されたことがかつてあるが、正直正確なところは分からない。
というか、俺にそれを説明した魔導師もよくわかっていなかったからな。
元は古代の技術であり、それを流用して限定的に機能を使えるようにしているものに過ぎないからだ。
ほぼ解析はできていないと言ってよく、その魔導師の説明も大幅に間違っている可能性もある。
だからそれは気にしなくていい。
しかし、それでもなぜこれを探していたのかといえば、今の俺にとって非常に重要な情報を与えてくれるものだからだ。
俺はステータスカードに魔力を注いでみる。
すると、そこにぼんやりと文字が表示され始めた。
そこにはこんなことが書いてあった。
名前:ノア
種族:普人族
称号:元オリピアージュ公爵家公子、背教者《アストラル教》、使命を負う者
根源技能:《聖王》
派生技能:なし
一般技能:《剣術3》、《風属性魔術2》、《火属性魔術2》……
「……あんまり変わって……いや、なんだこれ。《使命を負う者》? こんなの洗礼の前にはなかった……」
不思議に思ってその部分をバスバス押してみる。
カードは項目を押すと、その部分の詳細がある程度、説明文の形で現れる、という機能があるからだ。
誰が説明しているのかというと、それは《神の頭脳》がやっている、という話だが……そんなに親切な存在かどうか俺には疑問なのであまり信じていない。
では誰が?
と聞かれると正直分からないが、古代技術だ。なんでもありなんじゃないのか?と思ってもいる。
しかし、残念なことに《使命を負う者》の部分はいくら押しても何の反応もなかった。
これ以上は解説が不可能、という時にはこういうことになるらしい。
特に称号の部分はよくあることで、その理由は、神々も市井の人間がつける称号については関心がないのではないかとかいった説明がされる。
だったら俺の《背教者《アストラル教》》にも無関心であってくれよと心底思うのだが、そこをため息を吐きつつ押してみると、
「背教者:アストラル教の教えに背いた者。ノアについては《聖王》を所持したことがその原因となった……くそっ、ご丁寧に!」
そう書いてあったのだった。
そうだ、全てはそこからだ。
俺が洗礼で根源技能《聖王》を与えられたことが全ての始まりだったのだ。
そのせいで俺はこんなところに置き去りにされるまでになってしまった。
「……でも、今はそれを言っても仕方ないか……とりあえず水場探しだ……それが出来たら、まぁ……色々考えることにしよう……」
俺はそう独り言を呟きながら、森の方、僅かに水の匂いを感じるところへと進んでいく。
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