第28話 仕える理由
どうやら、この少女は本気で言っているらしい。
そう考えるのにさほど時間は掛からなかった。
この少女、つまりは《剣の聖女》アト・ヘレシーについてだ。
彼女は俺に出会うことが運命だったと、そう導かれてここに来たのだと言って憚らなかった。
どう聞いても怪しい話だ。
誰が聞いても美人局か何か……罠にしか思えないと、そう言いたくなるような上手い話だ。
けれど、彼女の瞳の奥にあるのは、半ば狂信に近いような、俺に対する強い信頼の光だった。
こんな目をしているものを、俺は何度か見たことがある。
教会の狂信者たちはもちろんのこと、実家の……オリピアージュ家に仕える父の《陰》たちもこんな目をしていた。
死ねと言われれば即座にその場で死ぬ。
そういう者たちが持っている、およそ人として持つべきではない信仰を胸に抱いた者。
彼らが持っている、悪魔的な光だった。
ただ、勘のところではそう確信に近く感じていたとしても、それに頼ったら危険であることは俺もよく分かっている。
そう見えるからといって、完全に信じるということは出来なかった。
だからまず、色々と質問をしていくことから始めた。
「……どうして俺に仕えよう、なんてするんだ? そもそもさっき森を破壊してたところからして……俺を炙り出すために、そして捕まえるか殺すか何かするために、あんなことをしていたわけだろう?」
まずは基本的なところ。
彼女の目的についてだ。
これにはっきりと答えないようであれば、怪しむべきで間違いない。
しかし、そんな俺の予想とは異なり、アトは俺の質問に深く頷き、
「尤もな疑問です。おっしゃる通り、私は教会から命じられて、《聖王》技能を得たノア様の捕獲、もしくは殺害を目的としてここに参りました。暴れていたのは、この辺りにノア様がいらっしゃると確信していたために他なりません。騒ぎを起こせば、様子くらい見に来るだろう、と。それにそうでなかったとしても、この辺り全体を更地にしてしまえば見通しも良くなるだろうと、そんな感覚でした」
そう答えた。
あまりにも物騒な答えだが……嘘を言っているような感じはない。
正直、全て嘘か冗談であって欲しいところだが。
やはり俺を殺しにきたのかという点が特にな。
別に何も悪いことはしていないだろうに、なぜ教会からこうも狙わなければならないのか。
聖女は聖騎士団と並んで、教会の最高戦力の一つだ。
そんなものを惜しげもなく送って暗殺するほど、俺の《聖王》技能は危険だというのか?
出来ることなんて、とりあえず意思が合致した者同士で《従属契約》を結べるくらいだっていうのに。
まぁ、《従属契約》技能は非常に便利で、技能を借りれたり出来るから最終的に俺も結構強くなれるかもしれないが、そうなるためには修練や努力が必要だし、そんないきなり殺しにかかるほどかという気もする。
《血と肉》については……あれは正直よくわからない。
魔物の血肉を摂取すると、だいぶ地力が上がるっぽい、というくらいだ。
でもそれだって、普通の人間が魔物の血肉を食べたら少しくらいは魔力とか上がるし、その割合が少し高いくらいじゃないのか。
いや、そういうところが、将来の危険を予感させるわけか?
でもなぁ、そんなんだったらある程度有用な技能を持ってる奴はみんな殺しにかからないとならないことになるだろう。
流石の教会でもそこまではしないだろうと思うのだが……。
そんなことを考えつつ、俺はアトに質問を続ける。
「それで、そんなお前が俺に仕えようとする理由は?」
「簡単ですわ。貴方様にお会いした瞬間、運命を感じたのです。今まで仕えていた聖下は……仮の、いいえ、偽りの主でしかなかったのだと確信しました。私がこの世に生まれ出でたのは、そして聖女としての力をいただいたのは、貴方様に仕えるためだったのだと」
「出会った瞬間って……」
俺はそんなにカリスマ性に溢れているか?
そんな疑問が頭の中に浮かんだが、はっきりと言える。
確実に否だ。
まぁ、これでも公爵家に生まれた人間だ。
帝王学の教育は受けてきたし、それなりのカリスマ性はもしかしたらあるかもしれない。
生まれつき、人を使うべく教育を受けてきた人間には、それ相応の雰囲気というのが教育によって後天的に宿る。
これは別に才能があるとかないとかじゃない。
そう扱われ、そう振舞ってきたが故につく癖のようなものだ。
だから俺にもそういうものがあるかもしれない。
けれど一度しか会ったことのない人間を、一目で強烈に吸引できるほどのものがあるかというと……どう考えてもあり得ないだろう。
昔話とかには良くあるけどな。
有能な流浪の騎士が、運命の主人と出会い、家を盛り立てていくとかそういう夢のある話が。
なかったとは言わない。
確かに元となった話はあるのだろう。
けれどそういう場合、ちゃんとした事情が本来はあって、ただ後世に伝えるときに色々と脚色した結果、そんな話になっているだけだ。
だから今回の場合とは明確に違う……じゃあ、どうしてこいつは俺にここまで……。
そこまで考えて、あっ、と思う。
これと同じような状況を、俺はここまで何回か経験しているのではないか?
そうだ……つまりは。
「……やっぱり、か……」
俺は《カード》を取り出して、その記載を見た。
項目は《従属契約》の部分だ。
そこにはこう書いてあった。
従属契約:魔猫(幼)、犬魔精(10)、犬魔足軽(2)、普人族(1)
と。
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