第25話 守る決意
キャスが新たな技能に目覚めている。
見てみると、他のコボルト達もだ。
特に、犬魔足軽の二人は様々な技能のレベルが軒並み上がっていた。
なぜそういうことになるのか。
こういうことが起きる原因というのはいくつかに限られる。
そして今回については……。
「何かと戦ったわけか……」
そういうことになる。
裁縫とか家庭料理とかそういうタイプの技能については、何かと戦闘を重ねたところで上昇することはない。
まぁ、料理系は刃物の扱いを含むから、魔物の解体とかに習熟してくるとついでに上がったりすることもあるようだが、それはあくまで例外ということだ。
しかし、戦闘系の技能……キャスでいうところの《猫闘術》とかコボルト達の《引っ掻き》とか、そういったものは戦闘を重ねれば重ねるほど、そのレベルは上昇していく。
特に強敵と闘い、生き残った時の上がり幅は凄まじく、今の彼らに見られる上昇は、おそらくそういうことなのだと理解した。
俺の言葉にリベルが、
「わふ……くぅん……(光の後に、白い服を着た人間が近づいてきました……)」
続けてマタザも言う。
「わう……わうわふ、わふ(おそらく女で、何かぶつぶつと独り言を言っていました。内容は確か……『ここら辺にいるはずなのですけど、見つかりませんわね、全て焼き払えば見通しも良くなるかしら』と)」
その言葉の内容に、俺がピンと来ないわけがなかった。
彼らが襲われたのは、きっと俺の責任だとも悟った。
追ってきたのだ。
俺を、奴らが。
白い服ということはアストラル教会のやつだろう。
あの教会は白を純粋な、汚れなき色と規定していて、高位の聖職者に近づけば近づくほど、服の色が白に近づいていく傾向がある。
それでいて、白を纏っているやつということは……かなりの地位にある者だということになるだろう。
アストラル教会はもちろん、そのメンバーには事務方とか戦闘をしない者も大勢いる。
というか、聖騎士などを除けば、大抵がそうだ。
一般信者の数の方が明らかに多いのだから当然だろう。
けれど、それはかの団体が武力を大して持ってないということを意味しない。
むしろ逆だ。
一般信者全員が反抗を企てたとしても、少数の高位聖職者のみで制圧し切れるだけの力を持っているということだ。
つまり、高位聖職者のうち、戦闘能力を持つ者は押し並べて強いと言っていい。
そんな奴が、この森に……。
だが、疑問はある。
一体どうやって、俺の位置を判別したのか、ということだ。
父上を信じるのなら、俺の位置について情報が漏れたということはありえないだろう。
父上個人だけでなく、オリピアージュ公爵家全体に、父上の指示は通っているはずだ。
あれでこの国の屋台骨を支える大貴族家の家長である。
それくらいのことが出来なければ、家を維持していくことなど出来ない。
だからそこについては信じてもいいはずだ。
にもかかわらず、俺を発見できたというのは……。
俺の方が何か失敗したということか?
だが、ここというか、《煉獄の森》に来るまでの足は、基本的にオリピアージュ家の馬車だ。
それに加えて、新たな拠点としてのコボルトの集落にたどり着いたのは、無計画な森歩きの結末に過ぎない。
そんなものを見つけることなど、通常なら不可能に近い。
普通の森なら百歩譲って、森をうまく歩ける狩人などが、人間が足を踏み入れた痕跡などを探すことも可能だろう。
しかしここは《煉獄の森》なのだ。
一般的な狩人が足を踏み入れるなどまず出来ることではないし、仮に足を踏み入れられたところで、人間の痕跡など、この森では砂漠の砂山の形よりも簡単に消えていってしまうものだ。
事実、俺は定期的に森の木に目印として傷をつけたり、特定の木の枝を折ったりとか、迷わないようにしているが、そんな目印も二日も経てば完全に消滅してしまう。
木の傷は修復され、木の枝からは新たな枝が這い出して俺の腕くらいの太さになっているのだ。
どんな成長をすればそんなことが可能なのかという気分になってくるが、この森のものはたとえその辺に生えている見慣れた木々であっても、普通のものとは違うということだろう。
結構、木の実とか見るので、種類を知っているものは採取して食べたりもしているから、そういうことを考えるとちょっと不安だが。
毒とかはなさそうなのだが……腹の中で種からいきなり芽が出てきて成長し、腹を壊したりとかしないよなとか思ったりするから。
ともかく、そんな森の中でどうやって俺がここにいると分かったのか。
これこそが教会の恐ろしさ、その根源という奴なのだろうか。
何にせよ……。
「……キャス、みんなを頼む」
「にゃっ……!?」
俺の言葉に、キャスは驚いた顔をし、カリカリと俺の腕を掻いて止める。
けれど。
「多分、その人間は俺を追ってきたんだ。俺が出ていけば……とりあえず皆のことは探さないはずだ。ただの森の魔物だと思ってるだろうしな。もしもこっちにきたら、皆を連れて逃げてくれ。俺は……後から必ず行くから」
俺の言葉にキャスは納得しかねる、という顔をしていたが、しばらく黙っていると俺の決意は固い、と見たらしく、不服そうにだけれど、
「……にゃ」
ぽん、と前足で俺を叩いて、行ってくるように促してくれたのだった。
持つべきはいい友達だよな、ほんと。
そう思った俺は、そのまま目的の場所……強力な魔力と、爆音が響いているところへと走り出したのだった。
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