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第24話 異変

「……わふっ!」


 川の中で、先ほどまで格闘していたコボルトの子供……確かあの子の名前はフィーだったな……が、俺に向けて採れた魚を示して、その顔を微笑ませた。

 コボルトたちは思った以上に感情豊かで、俺に対して親愛を示してくれる。

 魔物であるから凶暴であるだろうとどこかで先入観を持っていたが、コボルトはむしろ高い社会性と知性を持つ存在だった。

 魔物というより亜人に近い気がするな。

 亜人、というのは普人族に類するが、それとは異なる特徴を持つ人々の総称である。

 ただこの言葉自体、差別的意味を含んだ使い方をすることが多いので、使用するのは主に普人族、それにそんな普人族に阿るような者達ばかりだ。

 亜人たちは普通に人類、とか、人、と言った単語を使う。

 彼らの立場からしてみれば当然の話だろう。

 人に次ぐもの、などという不名誉な呼び方を許すなど、種族の誇りが許すはずがない。

 そもそも、普人族以外の種族から見ると、むしろ普人族の方が下等種族に感じられるはずだ。

 寿命が短く、魔力も弱く、際立った特徴もなく、ただ繁殖力だけは比類するものがない。

 いや……闘争に対する執着心というか、他者を排除する魂というか、そういうものもそうかな、というのは皮肉が過ぎるかもしれないかな。

 しかし、それが事実だ。

 だからこそ、俺は故郷を追い出された。

 そして、魔物達と一緒に暮らしながらも、普人族達と暮らしていたときよりもずっと穏やかに暮らせているのだ。

 これは笑い話なのか、それとも俺にとって救いなのか……なんとも言えない話だ。

 今、戻ってこないか、と故郷に言われたら、俺はなんと答えるのだろう。

 迷うのか、即答するのか、即答するとして、どう答える意味での即答なのか。

 考えても俺がどう答えるのかは、全く自分でも予想がつかなかった。


 ただ……。


「わふっ!」


「おぉ、そうだな。でかいのが採れた。今日はご馳走だな」


「ワオーン!」


 俺が魚をとってきた子供コボルトを撫でると、それを羨ましがったのか、他の子供コボルトも一生懸命、川に挑み始める。

 先ほどまで少し諦め気味だったのにな。

 現金なものだ。

 まぁ、報酬があると頑張る気になれるのは人間と同じか。

 コボルト達の方が反応が素直で可愛い。

 人間の場合は、求める報酬が撫でられるとかじゃなくて、金とか権力だからなぁ……度し難いものだ。

 ま、今の俺には関係ない話だけどな。


「さぁ、みんな。そろそろ戻ろう。他のコボルト達も、この調子ならみんな大漁だろうからさ」


 俺は子供達だけと連れ立ってきていた。

 他のコボルト達は、彼らの漁場があるらしく、しきりにそちらに行きたがったからだ。

 俺たちも一緒に行ってもよかったのだが、そこそこ危険な場所らしく、慣れていない子供達を連れて行くのを嫌がっていた。

 主に彼らの親達だな。

 仕方ないので俺が子供達のお守りを引き受けて、漁場に行くコボルト達の安全についてはキャスに頼むことにした。

 もちろん、この《煉獄の森》での安全はたとえキャスだろうと完全に確保することなどできない。

 けれど、彼女の力はあまり強い魔物が出ないこの辺りでは結構なもので、ここでしばらく過ごしている間で勝てないような相手に出会ったことはまだ、ない。

 まぁ、もしそのような存在に遭遇したら即座に逃げるように伝えてあるし大丈夫だろう。

 リベルとマタザにもそれは伝えておいたが、彼らはキャスを死んでも逃すとか言っていたので、キャスが死ぬ心配はさらに下がっているが、もちろん二人にも、そして他のコボルト達にも死んで欲しくなどない。

 可能な限り全員で逃げられるように、周囲の警戒は怠らないようによく注意しておいた。

 それなのに……。

 あんなことになるなんて、俺は予想してもいなかったのだ。

 甘かった。


 ******


「……これは。キャス……それにリベルとマタザ! どういうことなんだ……!?」


 子供コボルト達を連れて、俺たちの集落に戻ると、そこには怪我をしたコボルト達が数人、横たわっていた。

 大きな傷ではないものの、決して軽症というわけでもない。

 魔物の回復力なら死にはしないだろう、とは思うが、病気などにかかれば命も危ういほどの傷だ。

 どうにか応急処置……森を歩く中で見つけた薬草の類を使って作った薬剤などを丁寧に塗り付けながら、俺は訪ねた。

 するとキャスが、


「にゃ……」


 と、自分を責めるような顔で顔を下げた。

 それから、リベルが、


「わふ……(主、キャス様は頑張ってくれました。それどころか、私たちを逃すために、ギリギリまで……)」


 と言ってくる。


「どういうことだ?」


 これにはマタザが、


「わふわふ(突然、森が爆発したのです。眩い光が襲いかかってきて、その直後に周囲の森が焼き尽くされました)」


「それで……よく無事だったな……幸い、全員生きてはいるようだが……」


「わふ、わふわふ(キャス様のお陰です。何か……防御壁のようなものを張ってくれて)」


 言われてキャスのステータスを《カード》で見ると、新しい技能が追加されていた。

 一般技能欄に《魔法障壁2》と書いてある。

 一般技能は修練や何かのきっかけで身につくものだが……キャスは、危機を前にして新しい力に目覚めた。

 そういうことなのだろう。

読んでいただきありがとうございます!

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