第22話 食料
「……よし、いいぞ! リベルは右! マタザは左だ!」
《煉獄の森》、集落近くで俺がそう叫ぶと、コボルトソルジャーの二人が駆け出す。
結構な速度で、当然のこと通常のコボルトに出せるようなものではない。
けれど二匹は普通のコボルトではなく、コボルトソルジャーなのだ。
彼らのステータスを見たが、総じて全ての技能のレベルが高くなっていた。
さらに根源技能欄には《犬魔精10》以外に《犬魔足軽1》がそれぞれあった。
魔物の進化、というのはどういうものかと今まで考えたことがあるが、この根源技能のレベルを高めていくことによって得られる、新たな根源技能によって促進されるもの、と考えるべきなのだろう。
人間の場合、この部分に《剣士10》などになり、さらに《大剣士1》とかになったところで別に種族や見た目が変わったりするわけではない。
けれど魔物の場合は違うようだ。
実際、二匹の種族はコボルト……犬魔精ではなく、コボルトソルジャー……つまりは犬魔足軽なのだから。
そしてそんな二人に俺が一体何を指示しているのかというと、彼らが向かっていく先を見ればそれは簡単に分かることだ。
そこには俺やキャス、コボルトたちと比較して数倍はあろうかという巨大なオークがいた。
一般的な成人男性の倍はあろうかという巨体だ。
しかしオークの中だと平均的な体格で、種族としての存在の違いを感じる。
ただ魔物の中ではあまり強い方でもない。
体が大きいが、その体を支え切れるほどの強度がないのかあまり素早くなく、また力はあるもののそれをしっかりと操れる知力にも欠けているからだ。
上位種になってくるとまた、話は違ってくるが……こうしてたった一体だけで、いわゆる《はぐれ》と呼ばれるような個体は、そこまでの強敵ではないのだ。
もちろん、あくまでも鍛えられた戦士にとっては、とか、よく連携の取れたパーティーからしてみれば、という限定はつくが。
その点、俺たちはどうなのかというと……人間に、魔猫、それに犬魔足軽二匹というちょっと凸凹パーティーであり、その連携も正直まだ知り合って間もないのでよく取れているとも言えない。
だからオークに挑むのは時期尚早かもしれなかった。
にも関わらずこうして挑んでいるのは、コボルトたちの……というか、今は俺たちの、か。
俺たちの集落の食料状況が怪しいからだ。
俺とキャスだけなら、最悪森の虫とか植物とかを食べていけばなんとかなる。
しかし、コボルトたちはかなり痩せ細っていて、このままだと皆、餓死しかねないような雰囲気があった。
まだコボルトの子供たちも三人いるのだが、彼らは特に深刻な栄養不足を感じさせた。
俺が集落を襲った時姿を見せなかったが、見せられなかったのだ。
あのコボルトたちが作った粗末な家屋の中で横になっていたから。
それを見て、俺は決心した。
まず食い物をとってこよう、と。
そして彼らにしっかりと食わせてやって……そこから先のことはその後考えることにしようと。
いつまでそんな生活をするかは分からないが、俺は彼らと一緒にこの森で生きていくと決めたのだから、集落を支配する者としての義務がある。
それは食わせてやることだ。
領主だってそういうものだ。
まぁ、元俺の国の領主にその義務を真摯に果たそうとしていた貴族がどれくらいいたのかは疑問だけどな。
少なくとも父上はちゃんとやる派だった。
その息子として、恥じぬことをしようと思う。
なんでここまで思っているかというと、ステータスだな。
コボルトたちのそこには、一人残らず、称号の欄に《ノアの民》の文字があった。
タップすると、
ノアの民:ノアに従属を誓い、保護を約束された民のこと。
と書いてあった。
確かにコボルトたちは俺に従属を誓ったのかもしれないが……俺は保護まで約束したのか?という気分に一瞬なった。
もしかして《従属契約》の効果かもしれない。
キャスの称号にはなく、彼女とコボルトたちは何かが違うのかもしれないとも思った。
キャスにあるのは《ノアのペット》で、
ノアのペット:ノアに従属を誓い、ノアも一部従属するもの。ノアに優先して保護される。
と記載してあり、優先度の問題かな?
という感じだ。
あとは俺も従属する?
ある程度、対等ということだろうか。
いつも通りあまり信用できないファジーな記載なので、どの程度これが信頼に値するかは今は分からないが……まぁ、キャスかコボルトたち、どちらかを取らなければならないかとなったら、確かにキャスの方を取るだろう。
それはコボルトたちを見捨てていいと思っているわけではなく、キャスこそが俺が今、ここで生きていられる一番の理由だからだ。
彼女がいなければ俺はのたれ死んでいたのだから。
彼女もまた、俺がいなければあのゴブリンたちに殺されていたかもしれず、お互いの存在あってここまでなんとかやってこられている。
そういう意味では確かに対等だろうな。
そんなことを考えながら戦っていると、コボルトソルジャーの二匹が俺に、
「わふっ!(殿! トドメを!)」
「わふわふ!(今です!)」
と言ってきた。
確かにそろそろいいだろう。
オークは俺たちの攻撃に息が切れ始めていて、そろそろ急所を狙えそうだった。
その割にはあまり傷ついていないが、それはあまり傷つけると使える部分がなくなってしまうから、余裕があれば可能な限り、少ない手数で倒そうと話していたからだ。
俺は二匹の言葉に従い、二匹にオークが気を取られている瞬間を見逃さず、背後に回って、その首を短剣で切り裂いた。
血が吹き出し、オークはしばらくの間、腕を大きく振って暴れる。
しかし、それも徐々に弱くなっていき……そして最後には、ドォン、という音と共に、地面に倒れ臥したのだった。
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