第17話 技能確認終了
「とうとう、《火炎吐息1》になったな……! お揃いだぞ、キャス」
俺がキャスにそう話しかけると、彼女は、
「にゃにゃ」
分かっている、とでもいうように頷き、祝うように猫パンチを何発かお見舞いしてきた。
もちろん、軽くであるから俺はノーダメージだ。
キャスはこれで結構強い魔物であるから、本気で攻撃されれば俺は死ぬ。
だから普通の猫レベルの衝撃しか感じない時点で、かなり手加減してくれているのがよく分かる。
「それにしても、やっぱり借りた技能ってのは使い続ければ本当に自分の技能になるらしいな……」
《従属契約》の説明文にそんなことが書いてあったが、どこか半信半疑だった。
他人の技能を自らのものにできる。
そんな技能は今まで確認されたことがない。
もちろん、これが一般技能であるのなら話は別だ。
一般技能は修練すれば身につけることができる技能であって、誰が身につけてもおかしくはないものだ。
才能の有無は当然あるし、俺の魔術の適性のように、技能の適性というものが少なからずあると言われている。
ただ、絶対に身につけられない、とまで言い切れることはない。
けれど、派生技能に関しては別だ。
派生技能は根源技能から生まれるもので、根源技能を持っていなければ手に入れることは通常、できない。
通常、というのは多少の例外はあるからだが、基本的には無理だと考えて差し支えない。
それなのに、だ。
俺はキャスの派生技能を普通に手に入れてしまったのだ。
しかも、百歩譲って人間の持つ根源技能に基づく派生技能なら理解できるが、俺が手に入れたのはキャスの持つ根源技能《魔猫2》に基づくものである。
これは極めておかしい。
魔物の技能を真似した武術とか魔術とかそういうものはあるが、それそのまま使えるということは普通ないはずだ。
《火炎吐息》と言った、吐息系の技能などまさにそうで、魔物しか使えないと言われているくらいだ。
それなのに……。
だからこそ、俺は最初、一応そんなことが《従属契約》の説明文に書いてはいるものの、何か制限があるとか、余程の問題があるとか、そういう可能性を考えていた。
文章そのままには受け取れなかった。
しかし現実にはまさに書いてある通りだった。
俺は《火炎吐息1》を習得し、キャスのステータスを確認するも彼女の《火炎技能2》も消えていない。
借り受けた技能を修練し、ある程度を超えると自分の技能と出来る。
そんな力を俺が持っているらしい、ということがはっきりした。
これはこの森で生活するために、大いなるアドバンテージとなるだろう。
というか、この森で生きるためにはこれくらいでなければすぐ死ぬと言い換えてもいい。
「希望が見えてきたな、ほんと……」
捨てる神あれば拾う神あり、というやつだ。
俺をこの森に捨てたのは父上とバッハだし、拾ってくれたというか共にいてくれるのは魔猫のキャスだけれども。
ちなみにだが、俺が《火炎吐息1》を得る前、つまり借りている時には、技能名の後に《仮》がついていたが、あの状態で他の技能を借りたり、また技能を返してみると、俺のステータスから《火炎吐息《仮》》は消えた。
つまり、同時に二つ以上の技能を借り受けることは出来ないらしいということと、《仮》がついている技能は、あくまでも借りている状態だから、《仮》に俺の技能になっているに過ぎない、という意味らしい。
まぁ、それくらいの制約がなければこの技能はあまりにも便利すぎる。
複数借りれたら、それこそ《従属契約》相手がたくさんいたら、すぐにバケモノにでもなんでもなれてしまいそうだしな。
そういえば……。
「今、この状態でキャスの他の技能を借りたらどうなるんだ? 消えるのかな……?」
そう思ってキャスの《猫闘術》を借りてみた。
それからステータスを見ると、
「……おっ。《火炎吐息1》……消えてないな。その上、《猫闘術《仮》》が表示されてる。やっぱりそうか」
つまり、自分の技能にまでなった後は、借りている状態にはもはやない、と判断されるらしい。
まぁさもありなんという感じだが。
加えて気になったのは、
「さらに《火炎吐息》を借りれたりはしないのかな……?」
俺はすでに《火炎吐息1》を持っているわけだが、そこにさらにキャスの《火炎吐息》を借りたらどうなるのか、ということだ。
軽い検証だな。
すると……。
「お? 《火炎吐息1(+2)》? これはどういう……どれどれ」
《カード》の表示部分をタップし、説明を呼び出す。
すると、
火炎吐息1(+2):……(+2)と加算された技能分については、消費魔力を倍にして使用可能。
火炎吐息自体の説明のあと、そんな説明が加えられていた。
「消費魔力が、倍……だいぶきついが、ただそうすれば今の自分の能力を超えた攻撃力を出せる、か。悪くないな」
いざというときの切り札に使える。
ちなみに後で魔物の気配のほとんどない森の中で威力を試してみたが、相当なものでこれは気軽には使えないな、と円形に燃やし尽くされた木々を見ながら思った。
最後の一つは《火属性魔術3》だが、これについてはただ魔術の腕が上がった感じだった。
魔力も増えているが、制御力が上昇し、さらに上のランクの魔術も扱えるようになっていた。
技能が上がったから知識も増えた、とかではなく、魔術については大半、学院で学んで呪文やら構成やらは知ってはいた。
ただ技術も魔力もまるで足りておらず、また理解も出来ていなかったので使えなかったのだ。
それが技能が上がったことで使えるようになった。
そういうことだ。
「この調子で技能をたくさん身につけていけば……」
いずれこの森を出て、どこかの街に流れ着く、くらいのことは出来るかもしれない。
「夢が広がるな、キャス」
「にゃっ!」
そう笑いあった俺たちだった。
元貴族にしては、慎ましやか過ぎるかもしれないが、人間的な生活を営めるなら、もうそれが目標で十分だった。
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