第15話 食事とステータス上昇
「……はぁ、美味い。美味いなぁ、キャス……」
若干、鼻の中に痛みが走るような感覚がした。
これは別に傷が傷んだとかそういうことではない。
オークの肉のあまりの美味さに、涙が出てきたからだ。
今、俺たちは昼間狩ったオークの肉を焼いて食しているところだった。
キャスもまたオークの肉を食べているわけだが、彼女は基本的に魔物なので、生の方がいいかな、と最初は気を遣った。
そして生肉を一切れ、切って渡したら、自分の《火炎吐息》で焼いて食い出したので、なるほど、焼いた方がいいのだなと分かったため、今は焚き火に二人分の肉を枝で作った即席の串に刺して焼いている。
焼けたものから次々に口に運ぶが、全く口が止まらないほどにうまかった。
オークの肉を食べたことがないというわけではないのだが、やはり、久しぶりの肉だからだろうか。
それとも、これほどまで新鮮なオーク肉をあまり食べた記憶がないからか。
まぁ、オークを狩り倒した直後の肉など、それこそ冒険者とか騎士とかしか食べれないような品である。
だから当然と言えば当然か。
それにしても本当にうまいな……何か体の奥底から力が湧き上がってくるような気がしてくるくらいだ……。
……?
いや、なんかこれ、本当に湧き上がっていないか?
なんかすごく、力が溢れてくるような気がするんだが。
ふと感じた違和感に、俺はピンと来てポケットから《カード》を取り出して見てみた。
すると……。
名前:ノア
種族:普人族
称号:元オリピアージュ公爵家公子、背教者《アストラル教》、使命を負う者、狩猟者
根源技能:《聖王》
派生技能:《従属契約》《火炎吐息1》《血と肉》
一般技能:《剣術3》、《風属性魔術2》、《火属性魔術3》……
「お、おおっ! せ、成長してる……! 一年ぶりだぞ、こんなの……」
俺が驚いたのは、四つある。
まず一つ目。
称号の部分に《狩猟者》の文字があったことだ。
これの内容はわざわざ確認せずとも実は知っているのだが、一応タップしてみる。
そうすると、《カード》にはこう表示された。
狩猟者:魔物を自らの手で狩った者。魔物に対する攻撃ダメージが1%上昇する。
えっ、と初めて俺は驚いた。
なぜなら、本来ない表示がそこには記載してあるからだ。
狩猟者とは、魔物を自らの手で狩猟した者につく称号であり、別に誰かから噂されたりする必要はないタイプの称号だ。
そのため、こんな森でキャスと一人と一匹で狩りをしているだけの、噂など広がりようがない状態の俺でもつくのだ。
ともあれ、この《狩猟者》の称号には特段効果などなく、せいぜい、魔物を倒すことに貢献したことが、一度以上あるということが証明されるに過ぎなかった。
なんだ、無意味じゃないか。
そう言いたくなるような称号だが、実際にはそこそこ有用だ。
特に、俺たちのような貴族にとっては。
その理由は、貴族というのは見栄で生きている存在だからだ。
魔物を倒したことがある貴族と、ない貴族では勇気の質が違う、と見られるのだ。
もちろん、それでも危険を負いたくないと一切魔物など倒さずに死ぬまで過ごす貴族というのはいる。
それに貴族令嬢や貴婦人についてはそのようなことは大半がしない。
しかし男となれば、魔物の一匹や二匹、倒したことがあることは求められる。
貴族というのは有事には国を守る剣となり盾となることを要求されるからだ。
そうであればこそ、普段の特権が認められる。
そういう建前にある。
だから、もしも魔物を倒したことがなければ、この《狩猟者》の称号がなければ、平民にすら舐められるということもありうる。
そのため貴族子弟は、少なくとも成人するよりも前には、どうにか《狩猟者》を得るために騎士たちと一緒にそれなりの魔物に挑むのが普通だった。
実はこの称号、ゴブリン一匹倒したくらいではつかないのだ。
オーク程度の相手を倒して、やっとつく。
その理由についてはやはりあまりよくわかっていないが、概ね言われている仮説としては、ゴブリンは人間より弱い生命体であり、狩猟、と言えるほどの価値がないからではないかということだ。
ただ、本来狩猟とはそういうものであることが大半で、ウサギなど狩っても狩猟になるだろうに、どうして魔物の場合は人間より強くなければならないのか、という有力な批判もある。
俺はこちらの批判の方に理があると考えており、ではなぜこういうことになるかといえば、神だかなんだか分からないが、そいつが勝手に基準を決めただけではないかと思っている。
神の存在は信じない俺だが、それに準ずるような高位な何かはある、とは思っている。
だからこその答えだった。
実際、《カード》の表示はそういうものがないととてもではないがありえないような作りをしている。
こんな誰も来ないような森に一人でいる俺の行動など、一体誰が確認できるというのか。
いるとすれば、それは神のような存在だけだ。
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