第14話 VSオーク
のっしのっしと歩いていくオークを追いかけていく。
その巨体は鈍重なように見えて、意外に素早い。
あの体は脂肪の塊ではなく、筋肉の方が多いからだ。
それでいて肉として食べる時は筋張った感じがしないのだから、まるで人間に食われるために生まれてきたような魔物だが……まぁ、そういう見方は良くないかもしれない。
魔物とて命は命である。
人間にとって危険だから狩って倒すのだが、本来は自由に生きて然るべきだろう。
今回は残念ながら俺に目をつけられた時点で、その命の保証は全くできないが。
せいぜい俺の体の一部となって、永遠と生き続けてもらうことくらいしか。
それもこれも、あのオークが群れを作っていない、という前提が正しかった場合にだけ成立する話である。
果たして……。
どれくらい追いかけただろう。
一時間は経っていないが、結構歩いたな。
水辺で水を飲んだり、木の実を取ったりと、思いの外、人のような動きをしている。
形も人型だし、生活様式は人に近いのかもしれない。
食性も雑食であると言われているしな。
問題があるとすれば、その「雑」の中に人間すらも含まれてしまうことだが……。
そうでなければ害獣扱いで食われたりはしないな。
ちなみに人間すら食べているかもしれないとわかっているのに、その肉を食べることに忌避感はないのか、と思うかもしれないが、大抵の者は気にしない。
そんなこと言い出したらキリがないからな。
海に生息しているエビの仲間だって、水死体の類に張り付いていることはよくあるわけだし、漁師が取ってくるそれも人間の死体でぶくぶく太ったものかもしれない。
けれど美味いのだから……。
流石に目の前で人間を食っているオークを狩って自分が食べる気になるのかと言われたらそれはちょっとねとはなるけれど。
人間の価値観というのはその程度だ。
「……お、ついたか……よしよし、どうやら群れなんか作ってないみたいだぞ、キャス」
「にゃ」
オークがたどり着いたのは、人為的に掘られたと思しき穴のような場所であり、それほど深くはなくここからでも内部がある程度見えるところだ。
おそらくあのオークお手製の巣穴なのだろう。
巣穴、というにはしょぼいが、一匹で作れるのはあの程度だろう。
オークもある程度以上の群れになってくると木々で要塞のようなものを作ったりもするが、そういう場合は指揮する上位個体がいる場合が大半だ。
通常のオークはそこまでのことが出来る計画性や知識がないため、あの程度の巣を作るのが限界なのだった。
どすり、と巣穴の入り口辺りに腰掛けるオークの姿は、ただの寛いでいる人間のようだった。
見た目は豚、もしくは太った人間のようだが、事実は人間に敵対する魔物だ。
だから……。
「狩るぞ、キャス」
俺がそう言うと、キャスは、
「にゃっ!」
そう頷いたのだった。
******
やり方は簡単だ。
トドメはキャスが刺す。
これは決まっている。
なぜと言って、俺が扱えるのは短剣だけであり、これだけではとてもではないがオークの分厚い皮膚を断ち切ることなどできない。
まぁ、《風属性魔術2》を活用すれば、短剣の刃部分の攻撃力を強化するということも出来ないではないのだが、俺の技術では確実性がない。
飛びかかって、けれど間近で見るオークの恐ろしさに威圧されて魔術が発動しなかったとか中途半端な強度しか発揮出来なかったとかなったら取り返しがつかない。
その点、キャスの風属性魔術の刃は、遠くから放てるものだ。
緊張して外す、ということは俺が短剣で攻撃するよりも低いだろう。
さらに、俺が囮となってその的を絞れるように動けばさらに可能性は上がる。
「キャス、合図出したら一撃で決めるんだぞ?」
「にゃあ!」
「じゃあ、行くぞ!」
そう言ってから、俺は茂みから体を出す。
すると、オークはすぐに気づいてこちらに向かってきた。
俺はキャスの存在を気づかせないよう、すぐに左の方に走って、オークの視線の向きを横にずらす。
そして飛びかかってくるオーク。
それをギリギリまで引きつけて……。
「キャス、今だ!」
そう叫んだ。
直後、右側に魔力の強力な集約が感じられた。
低級であるとはいえ、魔物であるオークにもその気配はある程度感じられたのかもしれない。
ハッとして自分の左側を見たようだが、もう遅い。
しゅっ、と空気を切り裂く音がしたと思うと、その時にはもうオークの首筋に綺麗な線が入っていて、そこからピッ、と血飛沫が噴き出していたのだった。
オークの首はそして、数秒後、時間の進行を思い出したかのように、すすす、とずれて落ちていき、キョロキョロと事態を把握せずに動く自らの目を尻目に、地面に向かってぼとりと墜落した。
その段階でも恐ろしいことにオークの体の方もまたまだ動いていたが、こうなった以上は別にオークの攻撃をそのまま受けてやる義務は俺にはない。
スッと横に避けてやると、俺の回避行動を認識できないオークの体はそのまま真っ直ぐ、ずざりと俺が先ほどまでいた地面に崩れ落ちたのだった。
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