第13話 大物に狙いをつけ
拠点をいつまでもあそこにしてはいられない。
そこまでは、はっきりとしているのだが問題はどこを新しい拠点にするかだ。
あの恐ろしい巨人……確か、昔学んだ魔物学を思い出すに、スカテネという種族だったと思う。
巨大なフクロウの姿に変化することが出来る巨人系の魔物。
その強力さは、戦うためには高位冒険者が何人も必要とされるくらいで、俺やキャスではまるで相手にならないで終わるだろう。
だからあの洞窟を泣く泣く後にする……つもりであるのだが、この《煉獄の森》のどこを歩いてもあんなものがそこら中にいるというのなら俺たちがどれだけ良さげな拠点を見つけたところで同じことになってしまうだろう。
それではいつか餌になって死ぬ未来しかなく、それを避けるために俺たちはどうしても安住の地を探さなければならないのだった。
それ以前に、そもそも前提として《煉獄の森》の魔物はあんなものばかりなのかどうかの確認が必要だった。
キャスをいじめていた通常のゴブリンがいたくらいなのだから、普通の魔物もその辺に生息していると考えて間違いないはずだが、少なくとも今のところ俺たちは、それにあの時以来、遭遇していない。
まぁ、ほとんど洞窟から出ないで外出を避けていたから、という理由は大きい。
けれど、洞窟近くまで魔物が近づけば、スカテネほどの圧力は感じないにしても、何かいる、と気づけるはずだ。
俺についてはそういう気配察知に怪しいところは沢山あるけれども、キャスはこの森で生活していた魔物らしく、かなり敏感だ。
必ず気付くはずだ。
けれど、そのようなことは今まで一度もなかった。
これはつまり、この辺りにはああいう、弱い魔物はあまりいないのではないか、という仮説が成り立つ。
スカテネのような化け物が闊歩しているから、弱い魔物たちはこの辺を住処とすることを避けて、別の場所に巣を作ったりしているのではないか。
だからこそ、あんなに住みやすい場所であるにもかかわらず、俺たちが拠点にしていた洞窟は無人だったのではないだろうか。
ありそうな話である……。
「……にゃっ!?」
森の中を歩き始めて結構な時間が経過した。
主に先導しているのはキャスで、一応この森を庭としているのか比較的歩きやすい道を通ってくれている気がする。
そんな彼女がふと、そんな声を上げた。
そしてささっと、横に曲がり、茂みに隠れ、俺にもそうするようにという感じで見た。
慌てて俺もそうする。
「何かあったか……あっ」
茂みに隠れてしばらくすると、何かがこちらに近づいてくる。
見ればそれは、直立した豚であった。
つまりは……。
「……オークか。よく分かったな」
小さな声でそういうと、キャスは「……にゃ」と小声で返答した。
やはり言葉は結構分かってはいるらしい。
もっとはっきり喋れたらいいな、と思わないでもないが、今の状態でも意思疎通は十分に出来ている。
だからこれでいいのかもしれなかった。
しかしオークか……。
かなり一般的な魔物で、魔物の強さとしては弱い部類に入るだろう。
ただそれはあくまでも単体の話であって、人間のように群れることが少なくない存在だ。
ゴブリンやオークといった、人型の魔物が場合によっては竜のような超越的な存在よりも恐れられることがあるのは、その群れた時の被害の大きさからだった。
五匹、十匹ならまだなんとかなる。
五十匹、百匹でも力のある冒険者や騎士ならなんとかなるだろう。
しかし、五百匹、千匹、一万匹、となっていったらどうだろう。
流石にそこまでともなれば、軍隊が必要になってくる。
小さな町や村なら、そんな数のゴブリンやオークが襲いかかってくれば瞬く間に殲滅されてしまうだろう。
大きな街であったって、防衛が精一杯かもしれない。
もちろん、隔絶した力を持つ戦士や魔術師がいればそんな群れとて簡単に倒してしまうことはある。
だが、そんな英雄がそこらにゴロゴロ転がっているわけもない。
だからこそ、人型の魔物というのは、そうではない魔物よりも怖い。
知恵の持つ力を、知っているから。
果たして、そこにいるオークはそのような巨大な群れを築いているような奴らなのか。
それとも、ただのはぐれ個体に過ぎないのか……。
わからない。
群れのオークだった場合、下手に倒して復讐のために俺たちを探されるようなことがあると面倒なことになる。
オークはその体には捨てるところがないと言われるほど有用な魔物で、肉は大変美味しく食えるし、その他の部分も魔道具の素材や薬品に使われたりしている。
革だってなめして鞄や小物、靴などに使われるのだ。
だから結構いい儲けになるのだが……今の俺にとっては食料になるということが大事だな。
それ以外の用途に使うには、道具や設備がないので残念ながら意味がない。
しかし食料になる、そして干し肉ではない、焼いて美味しく食べられる肉である、ということが最も重要だ。
出来ることなら、狩りたい。
俺一人だと厳しいだろうが、キャスと一緒ならなんとかなる……と思う。
彼女には《風属性魔術3》があり、あれの威力は結構なものだったからだ。
一撃でオークの首を落とせそうなほどに。
俺が言って使ってくれるのか、という問題がありそうに思えるが、それについては洞窟にいる間に、ゴキブリを的に何度か練習したから大丈夫だ。
俺が合図すれば、キャスは目的に向かってあれを放ってくれる。
だが、やはり群れのオークかどうかを確かめてからにしないと、怖い……。
この森に住むとかそういうつもりじゃないのならいいんだけどな。
森で生活しなければならない以上、追われる可能性はどうしても考えなければならないから……。
そこまで考えてから、俺はキャスに言う。
「キャス、あのオーク、追跡するぞ……寝床に戻ったところを狙うんだ」
そういうと、彼女も俺の意図を理解したのか、
「にゃっ」
そう言って同意を示したのだった。
読んでいただきありがとうございます!
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出来れば1位まで……と思うのですが、あまりにも山が高すぎるので……。
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