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第11話 聖騎士と聖女

 オラクルム王国、聖都ジューディス、その中心にはアストラル教会本部《聖王庁》が居を構える巨大な聖堂、《アルカ大聖堂》が存在する。

 オラクルム王国建国より以前にこの地に建っていると言われ、それがために王都から少しばかり距離をとった位置にありながらも、王都に匹敵するほど栄えている聖都。

 ただ、その栄えかたは王都のそれとは異なって、硬質な美と洗練された落ち着きが街全体を覆っている。

 そんな街の中心地にあるアルカ大聖堂は、この街の多くの民が、いや、アストラル教を信じる信徒たちがその人生において一度は必ず訪れたいと願ってやまない聖地であり、またアストラル教会の中枢を担う機関でもあった。

 そんなアルカ大聖堂の奥の院の廊下を、二人の人物がピリピリとした雰囲気をお互いに飛ばし合いながら、余裕を持って歩いていた。

 向かう場所は、この大聖堂において最も権威ある者がいる場所……聖王執務室である。


「……ロスギモスさま、本日、聖王さまからお呼びがかかったのは、貴方様もでしたのね」


 柔らかで包み込むような、それでいてどこか蠱惑的で魔的なものを感じさせる声で、二人のうち、女性の方がそう口を開いた。

 全体的に白を基調とした、ひらひらとした衣服に身を包まれていて、神秘的な空気感を帯びている女性だ。

 薄い金髪に、夢見るような瞳は人間ならざる気配を持っているように思われ、今にも空気の中に溶けていってしまいそうな、そこにいるようでいないような、奇妙な存在感を持っている人だった。

 彼女こそが、アストラル教会の中でも数えるほどしかいない《聖女》の一人であり、その中でも最も力を持っていると言われる《剣の聖女》アト・ヘレシーに他ならなかった。

 そんな彼女に話しかけられた方は、アストラル教会の武力の体現とも言われる聖騎士団の団長である、ロスギモス・レグラである。

 一見して精強であることが理解できる美丈夫であり、顔の作りは女性と見紛うほどに甘く整っている。

 けれどそこに宿る精神の厳しさもまた、一目見ただけで誰でも理解するに違いなかった。

 彼はその青く厳しい瞳でチラリ、と《聖女》アトに視線を向けると、彼女の言葉に応える。


「……それについては私も意外だ。私だけ、もしくは君だけならともかく……二人ともが呼ばれるとは。何か大きな問題でも起こったのか……?」


「どうでしょう。ただ、私の耳にはある噂が入ってきておりますが……お聞きになりますか?」


「なんだ?」


「……根源技能《聖王》なるものを得た者が出たと」


「それは……本当なのか?」


 驚いたように目を見開いたロスギモス。

 これにアトは頷き、


「さぁ? しかし放置するわけにはいかないのは間違いないでしょう。どのような方法で行ったかはともかく、《聖王》は我らがアストラル教会を支える唯一無二の方。そのような方の名称を僭称されては……」


「僭称か……そうなのだろうな。アストラル教会には聖下がいらっしゃる。他に《聖王》などいるはずもない……」


「その通りです。おそらく、聖下から貴方さまには、件の人物の追跡命令が下されるものかと」


「追跡……ということは逃げているのか」


「私の情報では、それはさる公爵家の御子息のようなのですが……数日前に差し出すように命令を出したとのことですが、その時にはもうすでにいなかったようです。どこに行ったのか尋ねても、追放したから行方はわからないとのことで」


「……逃したということか?」


「そうとも言い切れません」


「というと?」


「洗礼式において、その少年に根源技能《聖王》が降りたことは、その場にいた大司教が確認しておりますが、その際にこれは聖王に対する冒涜だとはっきり口にしたようなのです。聞いている者の数は少数だったようですから、その場にいた者たち以外には私の手のもの程度しかその事実は知りませんが……ともかく、その大司教がその場において教会からの破門の可能性まで告げたようで……」


「つまり、父親の方は家族に対してもその処置がされることを恐れたわけか。それで、さっさと処理しようとしたと……」


「ええ。家に置いておいて、のちに我々に差し出すことでは教会に対する忠誠を示せないと考えた可能性はあります。かといって、家に置き続ければ破門された者の生活の世話をし続けることになるわけですから、その行為すらも咎められるかもしれないと思ったとか……」


「ありうる話だ。やはり私に追跡命令が出ると考えた方が良さそうだな。しかし、根源技能《聖王》、か。そんなものをどうやって得たのか……」


「それを尋ねることも、貴方の仕事になるでしょう」


「では君が呼ばれたのはなぜ?」


「おそらくは保険ではないでしょうか。それくらいに、聖下は今回の件を重く見ている。そういうことでしょう」


「ふむ……わかった。では、そろそろ着く。あとは聖下から話を聞くとしよう」


「ええ」


 *****


 そうして、二人は聖下……つまりはアストラル教会の最高権力者である《聖王》に謁見し、命令を受けた。

 それは予想通り、根源技能《聖王》という、けしからぬ技能を得たものを捕縛し、連れてくるというものだった。

 ロスギモスは早速それを成すべく動いたのだが……目的の人物、ノアの行方は杳として知れず、追跡は暗礁に乗り上げた。

 これはロスギモスの能力が低かったわけではなく、ノアの父、セトの情報操作が非常によく練られたものであったからに他ならない。

 また、オリピアージュ家の騎士や使用人たちの口も極めて堅く、聖騎士たちの詰問に対しても、ノアの行方の手がかりとなるものは何も出てこなかったことによる。

 これで普通なら、もはやノアの安全は保証されたも同然……なのだが、アストラル教会が恐れられるのはそれだけでは決して終わらないからだった。


 聖女が呼ばれた理由、それこそまさに、通常の方法によらない情報収集が彼女には可能だからなのだった。


 ノアが彼女にその居場所を探知される日は、それほど遠くない。

これにて第一章は完結となります。


出来ればここまでで、面白かった、これから面白くなりそうと思われましたら、

一旦、評価していただければと思います。

可能でしたら下の☆☆☆☆☆を全て★★★★★にしていただければ感無量です!


ブクマ・感想・評価、全てお待ちしておりますのでよろしくお願いします。


二章も休みなど挟まず更新していくつもりですので、続きもどうぞよろしくお願いします。


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追放貴族は最強スキル《聖王》で辺境から成り上がる ~背教者に認定された俺だけどチートスキルでモフモフも聖女も仲間にしちゃいました~1 (アース・スターノベル)」 本作が書籍化しました! 2月16日発売です! どうぞご購入いただけると幸いです。 どうぞよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[一言] 父は見つからない様にしてくれたのかな
[一言] 「それは予想通り、根源技能《聖王》という、けしからぬ技能を得たものを捕縛し、連れてくるというものだった」 技能は、神から与えられるものだと言う考え方ではないと言うことなのかな。身に着いた技…
[一言] ん~何だろうね色々な背景読んで居ると、こう《聖王》どころか人族詐称しているかも?と邪推してしまう俺ガイル てか人化は無くとも転化(動植物で且つ非可逆)は有りそうw
感想一覧
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