12,相撲は尻を取る競技ではないぞ!!
本日は二話更新です。
「よっ。おはよう」
朝、龍助は教室に入ってすぐの席に座る女生徒に挨拶をした。
特別、その女子に気があるとかではなく。
ただ単に、龍助は誰にだって挨拶をする男子と言うだけだ。
まぁ、友好的な感情がある事は間違い無い。
しかし、挨拶と言うものは双方向。
一方に友好的な感情があっても、もう片方がどうかと言うと?
「……お、おお、おは……ょ、…………」
挨拶をされた女子――大金袋狸那は真っ赤に茹で上がった顔を俯け、しばらくプルプルと震えた後――
「ぅ、あああああああああああああああああああああ!!」
スカートごとお尻を押さえながら、全力疾走で廊下へと飛び出して行った。
「…………………………」
挨拶のために挙げた手を下ろす事もできず、龍助は寂しそうに固まる。
「相変わらずか?」
「……紅蓮……」
龍助の親友、赤鬼こと紅蓮が心配そうに駆け寄ってきた。
「……俺は一体……大金袋に何をしちまったんだ……?」
龍助と狸那は元々、特に問題無く挨拶を交わしていた。
だのに数日前から唐突、一切原因不明、突然に狸那の態度が急変した。
龍助と言葉を交わすどころか、目が合うだけで、逃げる。何故か尻を押さえて。
龍助にはもう何が何だかサッパリわからない……。
そしてクラスメイトの一人から露骨に避けられてメンタル無事でいられるほど、龍助は大人ではない。
「うぅむ……オレが知る限り、おまえと大金袋の間で何かあった感じは無かったのだが……」
学校にいる間、紅蓮はほぼずっと龍助と行動を共にしている。
そして龍助は校外で狸那と接触した記憶は無い。
つまり――二人には原因がさっぱりわからないのだ。
「このままじゃあ、良くねぇよなぁ……」
「うむ。それはそうだが……」
クラスメイト同士、仲良くしていたいのは勿論。
もし、自分に嫌われる理由があったのなら、それを改善するためにも訊きたい。
「クラスメイトとは言え、相手は女子だぞ? 女心がわからんオレたちが仲良くなろうとして下手を打ってしまった場合、今流行りのセクハラ案件の当事者になりかねん。不名誉な記事で校内新聞デビューをしたくはないだろう?」
「んん……確かにそのリスクは……」
打つ手が無いな……龍助と紅蓮は、互いに溜息を吐くしかなかった。
◆
昼休み。
購買に設置された格安自販機でパック入りのジュースを買いながら、狸那は深く肩を落とした。
「何をやってんのよ……ウチは……」
河童――龍助への恩返しどころか、まともに接する事すら困難になってしまっている現状に、重々しい溜息が止まらない。
(このままじゃあウチは、一生、あいつの情報を嗅ぎ回りながら生きていかなきゃあいかなくなる……!)
打破しなければ、この状況を。
気合を入れ直すように、ジュースを飲み干し、パックを握り潰す。
「……あの、狸那さん。こんにちわ」
「ん? ああ、あんたか……こんにちわ」
不意に、狸那に声をかけてきたのは、クラスメイトの金髪碧眼女子。リヴィエール・大河だ。
先日、河童の件で話して以来、まぁ、友達ほどではないにしろそれなりに距離感は縮まっている。
「あれ? あんた、弁当派よね?」
いつも、リヴィエールが龍助・紅蓮と一緒に談笑しながら弁当を食べているのを、狸那は把握している。
だのに何故、購買なんぞに来ているのか。
「今日は少し食欲がえげつない日なので、少々、食後のデザート調達を」
「ふぅん……でもあんた、そんな食欲任せに生きてたら太……」
特に深い意味は無いが、狸那はリヴィエールの大和撫子的な慎ましさを全否定するような胸部に視線を落とす。
「……食い過ぎても全部が胸に行くってか……!」
「ぁ、あの……な、何か怒っています……? 額に青筋が……」
「気にしないで。強いて言えばこの世の不条理を殴り殺したいだけよ」
「そ、壮大ですね……?」
「んで、デザート調達? なんだったら、ウチのオススメでも教えてあげよっか?」
「え? 本当ですか? ありがとうございます。購買はあまり利用しないので詳しくなくて……是非、お願いします」
「おっけー」
と言う訳で、二人はスイーツゾーンへと移動する。
「…………ん?」
ふと、狸那はあるものを見つけた。
見覚えの無い緑色のゼリー製品。どうやら新商品らしい。
パッケージにはデフォルメされた河童のイラストがプリントされている。
「おや、これはもしや、抹茶ぷにぃの同系列商品ですか……!? 初めて見た……もしや購買限定商品とかなのでしょうか……!?」
河童イラストが描かれたゼリーをしげしげと眺めるリヴィエール。
(……そうだ。もう一度、こいつの力を借りるってものアリね)
思い立ち、狸那は丁度良い位置にきていたリヴィエールの頭をちょいちょいとつつく。
「はい? 何か……?」
「ちょっと訊きたいのよ。ほら、前みたいに……りゅ、りゅう……その……」
未だに、龍助の名前を呼ぶのが何だか気恥ずかしい狸那。
「……河童の好きな事について。尻子玉プレイ以外で」
なので、龍助の通り名である河童の方で呼ぶ。
……それが悲劇のトリガーでしかない事に、狸那は気付いていない。
◆
放課後。龍助と紅蓮は図書室から下駄箱へと向かっていた。
「いやー、高校の図書室ってすげぇよな。伝記や戦争の話以外の漫画があるとか、小中じゃ考えられなかったぜ」
「学生の図書室離れは深刻らしいからな。それを改善する一環だろう」
龍助はほくほくとした笑顔で借りてきた漫画本を抱き締める。科学実験がテーマの実に教育的な漫画だが、週刊少年漫画雑誌に連載されアニメ化もされた一作だ。軽く読んでみたが数ページで「これおもしれぇ奴じゃん!」と確信。龍助はワクワクが止まらない。
「ところで、紅蓮は何を借りたんだ?」
「これか?」
紅蓮が小脇に抱えているのは、A5版の冊子。表題には「おいしい あにまる」とある。
「ジビエ――イノシシやクマなどの肉を使った料理の特集誌だ。調理法や味のレビューにその動物の雑学が添えられている」
「テメェは本当に何でも勉強するんだな……ちなみに、雑学ってどんなん?」
「相撲を取ると性的興奮がおさまるらしい」
「せッ……!? いや待て、それ動物関係なくねぇか!?」
「この本のラッコのページに書いてあるんだなそれが」
「どういう事だ!?」
龍助の頭の中で、発情期のラッコがハァハァ言いながらがっぷり四つの相撲を取り始める。
「その本、本当に大丈夫なのかぁ……?」
龍助は件の本に呆れた視線を向けつつ、下駄箱の戸を開けた。
すると、
「ん……? ……おいおい、久々にもらったな。果たし状」
そこには、一通の手紙が。
コピー用紙を畳んだだけの無骨な手紙……古式ゆかしい女子からのラブレター、って事はないだろう。
広げてみると、やはり、荒々しい文字で「旧校舎裏に来いや。精一杯もてなしてやんよ」と実に果たし状らしい文言が。差し出し人の名前は無いが……まぁ、龍助をよく思っていない上級生の誰かだろう。
「怪堂先輩のチームに入ってからは、誰もオレたちに喧嘩なんて売らなくなっていたからな」
隣で靴を出しながら、紅蓮は「困った奴もいるものだ」と呆れた溜息。
「ったく……俺も平和な学生生活を送りてぇんだけどなぁ……悪ぃ、紅蓮。ちゃちゃっと済ませてくるから、先にバイトに行っててくれ」
「うむ。わかった。万が一も無いとは思うが……一応、気を付けろよ?」
「おう。ありがとな。極力、穏便に済ませられるように頑張らぁ」
靴を履き、紅蓮と別れ、龍助は指定された場所――旧校舎裏へと向かう。
さて、どんな強面の先輩が待っているのやら……と想像していると、
「あ?」
龍助は完全に、肩透かしを食らった気分だった。
旧校舎裏で待ち構えていたのは……狸那だ。
体操服を身に纏い、何故か、裸足。何やらホースで作られた円陣の真ん中で仁王立ちしている。
「よく来たわね……りゅ、り…………河童」
「え、あ、おう……ん? マジ?」
龍助は果たし状と、何やらやや赤らんでいる狸那の顔を交互に見る。
「……テメェが?」
果たし状を指差しながら問うと、狸那は恥ずかしそうに視線を逸らしつつも、こくりと頷いた。
(……河童、って呼ばれたし……スカートじゃあなくて体操服姿に着替えているし……喧嘩……だよな。多分)
女子に喧嘩目的で呼び出されたのは初めてなので、龍助も困惑を隠せない。
一体、何故……?
(もしかして、歩み寄ってくれているのか……?)
狸那は露骨に、龍助を避けていた。
クラスメイトとして、この現状は好くないなぁ……と龍助が考えていたように、狸那も同じ事を考えていたと仮定して。
もしかして、「殴り合って親睦を深めよう的な趣き」なのでは? と龍助は推測した。
しかし、
「あぁっとー……男女差別だー、って言われるとぐぅの音も出ねぇんだけど……女子と喧嘩ってのは、ちょっと……」
女子の顔に張り手を叩き込む事に抵抗を覚えないほど、龍助は男女平等主義に振り切れていない。
「け、喧嘩じゃあないわよ! ウチはもう喧嘩やめたの!」
「はぁ……? じゃあ一体、何の用だよ、これ……」
「見てわからないの……? す、相撲よ!」
「相撲?」
言われてみると、狸那の周囲に設置されたホースの円陣は、土俵に見えなくもない。
「……何で、相撲?」
――狸那は、リヴィエールから新たな情報を得ていた。
河童は、軽いジャンキーの気があるくらい相撲が大好きだと。
相撲をしたくてしたくてたまらなくてウズウズしていて、通り魔的に相撲を挑むような武勇伝まであると。
であれば、相撲に付き合って相撲欲を発散させてやるのは、恩返しになるはずだ。
……ただ、ひとつ。懸念がある。
『河童は、相撲で負かした相手から尻子玉を抜き取ると言う話もありますね』
「うっさいわね、とにかく相撲よ! ウチと相撲を取りなさい!! ……だけど、負けたって何も取らせやしないからね!?」
「ああ? えっと……賭け事的な意味か? ああ、まぁ、そりゃあ不健全だしな……」
「そうよ! 不健全よ! ふざけんなァァァ!!」
「いや、だからやらねぇよ!? 俺は別にギャンブルとか好きな奴じゃあねぇよ!?」
よくわからないが、狸那は相撲での対戦を所望しているらしい。
(マジで何でだ……? ん? いや、そうか。俺が女子相手に殴り合いで交流を深めるってのは抵抗があるだろうって、気を遣ってくれたのか)
もしも先の龍助の仮定通りならば、狸那の目的は「一度、激しく衝突する事で親睦を深める事」。
そう、それは何も、殴り合いでなくても良い。一対一のスポーツでも構わない訳だ。
「成程な……良いぜ。そう言う事なら、やってやらぁ!」
龍助、鞄を置き、靴下もろとも一気に靴を脱ぐ。
例え交流のための対戦であっても、全力投球、負けは好まない! 闘志を灯した瞳で、龍助は不敵に笑いつつ、丸めた靴下を靴の中に突っ込んで鞄の横に並べる。
「相撲、上等ォ!」
(ッ……めっちゃ楽しそうにノリノリで乗って来た……! 本当に相撲が好きなのね、こいつ……!)
深まる誤解。
龍助と狸那。お互いににらみ合いながら、見様見真似で地面に手をついて構える。
(いつもとは逆で、張り手は無しだな……どうにか組み付いて、まわし……は無ぇから、体操ズボンの腰ゴムの辺りを掴んで、足を引っかけてゆっくり寝転がす! それで何の問題も無く勝てる!)
(め、めっちゃウチの体に狙いを定めてない……? 特に腰の方を……いや、違う……まさか……尻を……!? で、ででで、でもさすがにそんな見境の無い真似は……)
「いくぜ……はっけよぉぉぉい……」
「…………ッ…………」
「「のこったァ!!」」
互いに気合を入れて叫び、龍助と狸那は同時に吶喊……否!
「ッ!!」
狸那の視界から、龍助が消えた!!
(ちょいと汚ぇかも知れねぇが……俺とこいつの体格差で正面からぶつかったら、吹っ飛ばして怪我をさせちまうかもだからな!!)
そう、龍助は開始と同時に、横合いへ跳んだ!!
本人は技のつもりはないが、それは相撲における技のひとつ【八艘飛び】! かの源義経が壇ノ浦の戦いにて「無数の舟を飛び渡りながら戦った」と言う八艘飛びの伝説から名付けられたもの!!
立ち合いと同時に高く飛びあがって相手の突進を躱し、隙だらけの横合いや背後を取る戦法である!!
本来は、正面衝突で不利な小兵が駆使する技だが……龍助にそんな知識は無い!
「もらったぜ!!」
龍助、横合いから狸那の腰、体操ズボンを狙って手を伸ばす!
「ッッッ!!」
それを見て、狸那は確信した!!
(こいつ……やっぱり、ウチの尻を狙ってる!?)
そう、龍助が伸ばした手は、横合いからと言う都合上、狸那の前方と後方……つまり、股間と尻を狙うように伸びる形になっている。
(勝っても尻子玉プレイはさせないって言ったから……取り組み中のどさまぎでやるつもりって事!?)
そんな卑劣を働くような男ではないはずだのに……!!
善性の塊のような男子高校生の正気すら濁らせると言うのか、尻子玉の魅力ッ!!(一応補足しておきます。誤解です)
「させるかぁぁぁあッ!!」
狸那、咆哮と同時に、全力で踏ん張った。
彼女の右足は中学時代、多くの不良男子たちの股間を粉砕してきた黄金破壊の右。
その足筋を全力で躍動させて、前方へ突進していた体を無理矢理に方向転換!!
土埃がズザアアアアア!! とまき散るほどの勢い!!
アキレス健から嫌な軋みが聞こえたが、尻を取られるよりはマシ!!
そうして龍助の方へと向き直った狸那は、全力の手刀で龍助の手を払い落した!!
「ぐぉッ!? や、やるな、テメェ!!」
「やらせるか……やらせるもんかぁぁぁぁ!!」
狸那は心の中で叫ぶ。「ウチの尻は一方通行、出口しかないんじゃあああああ!!」と!!
「ははは! おいおい……すげぇ気迫だな……! どんだけ本気だぁ? 超・上等じゃあねぇか!!」
龍助、喧嘩は嫌いだが、勝負事は大好きな男の子!!
紅蓮や紅蓮の姉たちとはよく対戦パズルゲームや対戦アクションゲームでヒートアップする!!
学友たちとテストの点数勝負だってよくやる!!
体育の授業だって、試合形式の時はエンジョイを損なわない程度にガチり倒す!!
対戦相手が本気の本気とくれば、龍助だって盛り上がると言うもの!!
「絶対ぇ、勝ぁつ!!」
(くッ……まるで絶品の獲物を見つけたケダモノのような笑顔で迫ってくる!?)
龍助、完全にこの相撲を楽しみ始めた!!
対する狸那は、龍助の余りの熱中ぶりに「どんだけウチと尻子玉プレイがしたいのよ!?」と内心で阿鼻叫喚!!
だが……!
(尻を取らせず、このままウチが勝てば……それですべてが円満終了!! お尻の一方通行を死守できる!)
負ける訳には――いかない!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「やあああああああああああああああああ!!」
腰を狙ってラッシュでくる龍助の手を幾度と払い落とし続ける。
その応酬の中で、狸那は見極めた。
龍助の興奮が最高潮に達し、全重心を傾ける瞬間を!!
「今、だ!!」
「ッ!!」
前のめり気味になりながら伸ばしてきた龍助の手を、狸那が掴み、くるりと回る。
ついでに、龍助の膝へと蹴り――けたぐりをお見舞いして完全にバランスを破壊!!
そして、あとは全力で……背負うようにぶん投げる!!
「ぜ、あああああああああ!!」
柔道の技、と言う印象が強い人が多いかも知れない。
だがしかし実は、これも立派な相撲の投げ技!!
豪快一閃、一本背負いである!!
「ど、おおおぉおおおおぼへッ!?」
さすがに体格差とパワー差が大きく、キレイにぶん投げる事はできなかったが。
龍助の巨体はすっ転がされ、土くれを巻き上げた。
「はぁーッ……はぁーッ……は、ははは……か、勝った……?」
「ぁ痛つつつ……ああ、物言いの隙も無いくらい、完璧に転がされちまったぜ」
負けは悔しいが、全力勝負の果てであれば腐る事は無い。龍助は「あー、参った参った」と笑いながら、ゆっくりと起き上がる。そして制服についた土汚れを軽く払い、
「ん」
「ん?」
差し出された、龍助の手。
意図がいまいちわからず、狸那は首を捻った。
「結局、何で避けられていたのかの理由はよくわかんなかったけど。こんだけ全力でぶつかりあったんだ。もうわだかまりとかねぇだろ?」
「ああ、成程……」
龍助が差し出してきた手の意味を理解し、狸那は頷いた。
確かに、不思議とすっきりした感覚だ。
先ほどまで龍助の目を真っ直ぐ見るのも何かこう、無理だったのに、今では互いに笑顔で向き合っていられる。
狸那自身にもよくわからなかった謎の感情が、今の背負い投げで発散された……のかも知れない。
龍助も好きな相撲ができてスッキリした様子だし……恩返しも充分と考えて良いだろう。
「何だか、憑き物が落ちた気分よ。悪くないわね、相撲」
狸那はハイタッチでもするかの勢いで、龍助が差し出した手を掴んだ。
全力の握手だ。堅く、握りしめる。
(もしかして……喧嘩をやめて体を動かす機会が減ったから、鬱憤が変な溜まり方しておかしくなってたのかしら……)
であれば、
「決めた。ウチ、女子相撲部に入るわ」
「ん? そっか。きっと大活躍するぜ、テメェ。応援するわ」
「そう。何だかよくわかんないけど、あんたが応援してくれるってのは何だか嬉しいわ。……改めて、これからよろしくね。龍助」
「おう!」
「……ところで、何で相撲だったんだ?」
「はぁ? あんたが好きだって聞いたからよ」
「まぁ嫌いではないけど……誰に?」
「リヴィエールよ。……それと、余計な口出しかもだけど。同級生の女子に性癖の話までぶっちゃけるってどうなの?」
「はぁぁ!? 性癖!? 何の話だよそれ!?」
「え? いや、だって尻子玉……」
「尻子玉って、河童が好きだっつぅアレか?」
「そう。河童が好きな」
「は?」
「え?」
◆
翌日。
「あ……おはようございます……龍助さん……狸那さん……って、あれ? 二人とも……何でそんな複雑そうな表情で私を見ているんですか……?」
「……いや、その、テメェはまるで悪くねぇんだけど……」
「ええ、そうね……ウチがややこしい言い方をしたせいでしかないんだけど……」
「……? って、へぷ……ど、どおひて二人ひて私の頬っぺをやんわひ引っ張ふんへふか……!?」