第1話
??『これで、全部かな』
都会であると分かるようなネオン街の明かりをビルの屋上からどこか遠目に見ながら刀身に血のような黒くベッタリとしたものを振り払って落としながらそう呟いて刀を鞘におさめる青年。
青年の足元には鬼のようで、人のようで、何とも言えないようなモノが塵になって消えていく様子をただ無感情で見つめている。
彼の名前は颯清、どこにでもいるただの大学生……が、刀を持っている訳ない。
颯清、純桜寺颯清、この東京にある如月大社の息子。そんな社の息子が深夜にビルの屋上で刀を持って何をしていたかと言うと、妖退治。
「妖退治なんてそんなまさか!おとぎ話じゃあるまいし!」
と冗談だと笑って流す者がいるだろう、ほぼ全員がそうだ。だがそうではない、実際にいるのだ妖は。
そもそも正確には妖全般を殺していく訳では無い、この魔物、惰殺と呼ばれる妖界に住む魔物だけを殺している
最初は妖界にも惰殺はいなかった、ある日突然現れたのだ、とある大迷惑な大天狗のせいで…__この話はまた後にするとし、惰殺は人も妖も襲う
この惰殺に攻撃され、傷でもつけられたもんならもうおしまいだ、助かる術はない、大人しく殺されてもらうしかない。
そんな事があっては大変だと人間達の中に惰殺を浄化、という名の退治をする者達が現れた。
主に陰陽師家系が多かったがそれも何百年前もの話、時代と共に浄化が出来る一族が滅んでいき、今となっては颯清が生まれた純桜寺家ともう一つの生き残った海部家のみとなった。
だがありがたい事に惰殺が現れるのはほぼ颯清等の浄化が出来る者の周りのみだった、が、逆にそれはデメリットでもあった。
人目につきやすいのだ、術が使えると分かったらどうなるのだろうか、怖がられる、恐れられる、だからバレない様にしなければならないとそんな苦労もあった。
颯清『そっちは終わったかな、美澪?』
美澪『うん、終わったよお兄ちゃん!』
美澪と呼ばれた少女は元気に返事をし颯清のそばへと駆け寄った
美澪、純桜寺美澪という人物もまた颯清と同様純桜寺家の家系の者であり颯清を「兄」と呼んでいる事から兄妹関係である事は明白だ、因みに双子の兄妹である
颯清『じゃあ、帰ろっか』
刀を鞘へとしまうと術を使い消し、のんびりとした声色で美澪へ帰宅を促した
美澪『うん、疲れたなぁ…ぁ、帰りにコンビニでアイス買っていこ!』
疲れた時には甘いもの、と楽しそうに言いながら屋上へ…隣の屋根へとぴょんぴょんとネオン街の景色を遠目に見ながら軽くかるくと兎のように、パルクールのようにと跳んで目的地であるコンビニへと向かった