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そして、世界は零になる。 -離解者・異能捜査譚-  作者: 園崎真遠
第一章 そっと心に寄り添うということ
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世界に生まれ落ちるということ



 西区を目指して車を走行させていると、見慣れた西区の雄大な商業施設や居住施設の数々が目に映る。


 この西区は東京エリアの中でも商業施設や居住施設が多いのが特徴で、人口がとても多い。


 なので当然。想起者メノシアンの数も他のエリアより多いのだが、幸いというべきか危険度の高い<想起メノン>を発現している人間はいない。


 しかし。その想起者の多さゆえか、どうしても想起者の小競り合い等の事件が他エリアに比べて多いところでもある。


 そのため。命に危険があるほどでないにしろ、制止に入った対策局職員がしばしば怪我をしてしまうこともあり、対策局にとっては頭を抱えているエリアでもある。


「さて、先輩。まずはどこに向かいますか?」


「ふむ、そうだな……」


(住宅街のエリアは休憩できる場所も少ないしな。やっぱり商業施設エリア一択だよな。住宅街エリアは……うん。あとで抜け出して優秀な後輩に任せることにしよう)


 素晴らしきシナリオを瞬時に構築した真人は、意気揚々と後輩に指示する。


「商業施設エリアから行こうか。あそこは多くの人が訪れるからトラブルも起きやすいしな」


「了解です。では、まず向こうにあるショッピングモールに行きましょうか。……あそこ、先月も異能事件が起きましたもんね」

 愛示は先月のトラブルを思い出して苦い顔をする。

 

 その事を真人も思い出し、つい顔をしかめてしまう。



 先月、あのショッピングモールで17歳の高校生のBレート想起者が同級生とトラブルを起こした。

 その学生は同級生に<想起>を使えるなんて気持ち悪いと罵られた上に殴る等の暴行を受け、恐怖し、不意に<想起>を発動してしまったという話だった。


 その子の<想起>は『衝撃付与インパクト・エンチャント』という物質・あるいは空間座標に衝撃波を発生させる能力で、殴りかかってきた同級生を押しのけようとしたところ<想起>が働いて相手は吹っ飛び、体を強く打って全身骨折の重傷となった。


 <想起>は意思に強く結びついている。

 <想起>は本人の思想、思考を媒体として発現し、それが超常現象として現実のものとなって世界を塗り替える。


 扱いに不得手の者であれば強い怒りや不安を感じただけで不意に発動してしまうこともある。

 こうした事情もあり、想起者は社会から白い目で見られてしまう傾向があるのだ。


 そして、そのような待遇に怒りや悲しみを覚えた想起者がまた暴走する。そうした事故を経て、更に社会の想起者に対する反感が募る。


 あの3年前の、1万人を超える死傷者を生み出した惨劇。

 当時の真人の相棒・望月白宜もちづきはくのが犠牲になったあの日から、その風潮は顕著になった。


 今もなお、彼の脳裏には彼女の姿が焼き付いて離れない。



『――ねぇ、真人。"幸せ"って何だと思う?』


『"幸せ"? 急にどうしたんだ。あんまり考えたことがないけど』


『私はね? "分かり合える"人がいることだと思うんだ』


『分かり合う? はは、変なことを言う奴だな。それで? 俺とお前は分かり合えているのか?』


『うーん……。今後に期待、かな―――』



(分かり合う、か)


 心の内で皮肉げに呟く真人。

 現代社会はその真逆の道を進んでいるように思えて仕方がないからだ。


 『幸福』には程遠い――『不幸』を押し付けあうこの世界。


(負の連鎖。本当に――ふさげた世界だ)



 真人は一人心の中で毒づいた。


                ◆◇◆◇◆


 そうこうしているうちに一行はその商業施設の前にたどり着く。

 真人は車の外へ出ると、後部座席のドアを開いて対策局支給の武器である日本刀を掴み取り、腰に下げる。


 そして背に視線を向けると、そこには広大な施設と地を埋め尽くさんばかりの大勢の人が視界に映った。


 ここは50,000m²を超える広い敷地に建設された超大型の商業施設ジャポンモールだ。


 商業施設の競争が特に激しい西区の中でも指折りの強豪商業施設であり、施設内には200以上の店舗が入っていて平日、土日問わず物凄い賑わいに包まれている。


 先月、事件があったばかりだが、さすがは大きな商業施設と言うべきか、今日も変わらず活気のある様子だった。


 事故現場についても事故の跡はすっかり修繕され、今では多くのカップルや家族連れが店舗で買った食べ物を味わって楽しんでいる様子だった。


(あー……俺もご飯食べてのんびりして仕事終わりまでだらだらしてたい)

 真人は施設内の様子を見て、俺も俺もとつい思ってしまう。


(……いや、行ってしまおうか?)

 ここで行ってしまうような大胆な姿勢こそが今の日本人に必要なのではないか?と言い訳を考え始める真人。

 

(そうだ、今こそ働き方改革だ。仕事中の息抜きは推奨されるべきだ。そして国を運営する公務員の一員である自分がまずは率先して実施していくべきなのでは?)


 彼は言い訳を何度も念じるうち、怠けたいという欲求に対する抵抗感が薄れていくのを感じた。


(そうだ。そうに違いない。よし、行こ―――――)


「ニゲタラコロス」

 愛示の不自然なほどにニッコリとした笑みを見て、その考えはあっという間に霧散して消えた。


 真人は知っていたのだ。

 彼女が不自然に微笑んでいる時はかなり怒っている状態だということを。


(……ああ、そうさ。俺は捜査官だ。国民の皆々様の血税で給料を頂いているのだから真面目に働かないとな)


 真人は愛示の機嫌をこれ以上損ねないため、今日は真面目に働くことにした。


                ◆◇◆◇◆


 そうして昼前からジャポンモール内を巡回し始めて3時間。


「あぁ~……やっと終わったぁ~。ほんと、この施設広すぎでしょお~~…………」


 真人は愛示との合流場所に指定した待合スペースでソファに座りながら項垂れていた。


 20分ほど巡回する度にもう逃げてしまおうかと思ったが、見計らったように別行動していた愛示ちゃんから「バックレタラコロス」「キエタラコロス」「キュウケイシタラコロス」「イナイトコロス」「コロス」「コロー」「コ」と送られてきたので結局全部巡回しきることになった。


 すると、ほどなくしてやってくる愛示。


「お疲れさまでした、先輩。こちらは特に異常ありませんでしたけども、先輩のほうは特に変わった様子はなかったですか?」


 先ほどまで恐ろしい脅し文句を連発してたとは思えない綺麗な笑顔で問いかけてくる愛示ちゃん。ちくしょう、いい笑顔だぜ。


「ああ、こっちも特に何もなかったよ。まあ、先月事故があったばかりだしな。何度も同じところで異能者事件は起こらんだろうさ――」


 その時だった。


 真人が言葉を言い終える前に、まるで見計らったように施設内のどこかでドンッ!という轟音が響き渡った。


「テメェ……」


 ドスのきいたセリフを静かに投げかけてくる愛示ちゃん。


「いやいや! ちょっとまって! まって! さっきまでは本当に異常なかったんだって!!」


 慌てて言い訳する真人。

 

(でも本当に今日は超珍しく真面目に働いてたんだから見逃しはなかったはずだ。なので、突発的な事件のはずだ。間違いない。多分、うん……)


 初めは自分に落ち度がないと思っていた真人だが、考えるうちにどうにも自信を無くして意気消沈していくのを感じていた。


 一方。愛示はまだ怒りが収まらない様子だが、そんなことに時間を費やしている場合ではないと判断したのだろう。


「はー……まあ罰は後です。行きますよ、先輩!」


 そう言って愛示は轟音の元へと走り出す。


「ああ、わかった——って、罰って何だ!?」


 真人は半泣きになりながら愛示につづいて走り出した。



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