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そして、世界は零になる。 -離解者・異能捜査譚-  作者: 園崎真遠
第一章 そっと心に寄り添うということ
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『人』が世界に生きるということ

(いつ見ても目が疲れるシステムだ……)


 画面を見ながら愚痴をこぼす真人。


 便利なことに現代社会では様々な機器が利用者にわかりやすいよう工夫されており、機能も日進月歩で発達していっている。


 だが、やはり特定の組織限定のシステムなど、公に見られない機器の発達速度はあまりよろしくないらしい、と愚痴をこぼす真人であった。


(スマホぐらい、見やすく改良されてたらいいんだけどなぁ)


 よし、軽く見て回るだけにしよう、と決める真人。

 面倒で見づらい機器の操作を放棄すると、彼はだらけるための言い訳を考えて口を開く。


「とはいえ、いつも通り市内を見て回っておかしな想起者がいないか調べるだけだし必要ないか」


 極力めんどくさがってる様子を見せずに、あたかも合理的な判断をしていると言わんばかりの真面目な顔で提案する真人。

 馬鹿正直に述べても生真面目な愛示には聞き入れてもらえないと判断してのことだ。


 だが、どうやらそんな考えも彼女には看破されていたらしい。


「だめですよ、先輩。ちゃんと毎回確認しないと」


「うぐっ」


 すぐさま注意してくる愛示に真人はばつの悪い表情を浮かべた。


(本当、愛示ちゃんは真面目だなぁ……)

 内心、愚痴をこぼす真人。


 彼が黙り込んでいる様子に、その心中を察したのだろう。

 愛示はニッコリと笑顔を浮かべて口を開いた。


「———そんな油断してるとうっかり出くわした異能犯罪者にフルボッコにされますよ? もしくは私がボコりますよ?」


(……あぁ。本当、愛示ちゃんはバイオレンスだなぁ)


 どうやら心の中の愚痴すら読まれているらしい、と白旗を上げる真人。

 こうも立つ瀬がない状況では、彼とて重い腰を上げざるを得ない。


 観念した彼は真面目に働くことを決め、タブレットの画面上に並んだ煩雑な文字に目を走らせる。


「……まあそうだな。じゃあ、確認するぞ。今日は東京エリアの西区の巡回だ。"データバンク"には一番上のレートでも"Aレート"想起者が数名出てきただけだし、そこまで緊張することはないだろう……あっ、でも緊張感も大事だよね。うん。超大事」


 後輩に突っ込まれる前にすかさず言葉を付け足す真人。


 それに「チッ」と舌打ちをしながら残念そうな表情になる愛示ちゃん。


(いや、お前。俺をいじめることがマイブームなの?)


 そう思わずにいられない真人であった。



 ちなみに、この"データバンク"とは、国家が管理している想起者登録システムのことだ。

 国内に居住している想起者の住所や能力の性質は勿論のこと、それぞれの想起者が過去に事件を起こしたことがあるかまで細かく記録している。



「……そうですね。あまり危険な想起者がいないといっても油断してはいけませんよ。では行きましょうか」


 愛示は両手で抱え込むように真人の腕をがっしり掴むと、そのまま引っ張って車へ向かう。


 華奢に見えて案外、力の強い愛示。

 真人は為すがままに引っ張られてしまうのだが、あることに気付き、冷や汗を流し始める。


「おっ、おい。愛示」


「ん?何ですか?」


 いや、「何ですか?」じゃないだろう。と思った真人だが、いざ言葉にするというのも些か気が引けるものがあった。


 何故なら現代社会において、言葉にすることも(はばか)れる非常にデリケートな分野の問題が生じていたからだ。


 その問題の発生源は真人の腕にぴったりとくっつく愛示の身体の一部。


 そう。胸部だ。


 昨今はセクハラに対して世間の関心は強い。どこまで以上がセクハラに当たるのか、あるいはどういった場面であればそうなるのか。

 非常に線引きの難しい問題だ。真人とて慎重にならざるを得ない事案なのだ。


 ……故に当然のごとく、柔らかい感触が腕につたっているこの状況は非常に居心地が悪い。


 この感触は真人の人生に破滅をもたらす可能性を過分に含んでいるのだから、当然と言えば当然なのだ。


(さて、どう伝えるべきか……)


 やはり、ここは頼りになる先輩、模範たる先達という立場から指摘すべきだろうか。


 そう判断すると、真人は彼女の方に真剣そうな顔を向けた。


 形から入る、というのはそれなりに効果があるようだ。

 真剣な表情を浮かべている内に俄然、先輩としてアドバイスせねばという使命感が不思議とわいてきた真人。


(そうだ。年頃の女の子なのにガードが甘いのはよろしくない。ここはしっかり言ってやらねば)


「なぁ愛示。こういうのはなるべく控えたほうがいいぞ。最近は変な男も多いらしいからな」


「わかってます、先輩にしかやりませんよ。先輩は干物みたいなものだし、変な気は起こさないでしょう?」


「干物!?」


 もはや生き物とすら見られてないことに驚愕する真人。


 男としての尊厳を否定された気持ちになって項垂れる真人だが、そんな様子を気に留めることなく、愛示は彼をむりやり助手席に押し込む。


「何ショック受けてるんですか、干物先輩。ほら、キリッとしてキリっと」


 そう言って、愛示は真人の背中をペシペシと叩くと反対に回って運転席に乗り込んだ。

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