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そして、世界は零になる。 -離解者・異能捜査譚-  作者: 園崎真遠
プロローグ 音が聞こえる
5/79

君に至るために


 大間が消えてなくなると、マウンは周囲に光学迷彩の細菌を生み出し、真人と共に悠々と研究所から出ていく。


 それなりの時間が経っていたようで、マウンが入った昼過ぎにはあった明るい青空は消え、代わりに眩い夕日の光が天地を金色に染め上げていた。


 施設を抜けたマウンはパチンッと指を鳴らす。


 所内に残してきた"細菌"たちに合図を出したのだ。


 すると、ほどなくして研究所から無数の悲鳴が上がった。


 被検者が収容されている区画以外の全ての場所に、先ほど大間を食い殺した殺人細菌をばらまいていたのだ。


 これで研究所の壊滅は時間の問題。

 数分もしないうちに、この研究所の職員は全て死に絶えているに違いない。


 生き残った被験者たちについては後ほど駆けつけてくるであろう警察に保護され、今度こそまともな養育施設に送られることだろう。


 そう結論付けると。マウンは心中で、今まさに苦悶の声を上げながら死んでいっているであろう研究員たちに向けて侮蔑の言葉を投げかけた。


(お前たちはどこまでも『この世界』にふさわしくない。塵も残さず消えるといい)


 手馴れた様子で研究所のみならず人員まで刈り取った彼は、心の中で吐き捨てる。


 マウンにとって、これまで幾度と重ねてきた工程。『悪意』の淘汰。

 どうやら世の中は彼にとっても想像を絶するほどに汚れていたらしい。

 悪辣な人間たちを消し去るというこの『工程』に慣れるまで、それほど時間はかからなかった。



 ――そしてマウンは”終わった”研究所のことを頭の外に放り、真人に顔を向ける。


 すると。そこには研究所の方を向きながら、両手を額の前で合わせてぎゅっと目を閉じた真人の姿があった。


 この研究所で命を落としていった仲間に思いをはせているのだろう。

 目元にはうっすらと雫が見て取れた。


「……」


 その様子にいたたまれない気持ちになるマウン。


 彼は考えてしまったのだ。

 もし、自分がもっと早くここを訪れていたのなら、真人を苦しめずに済んだのだろうか、と。


 だが、時は還らない。

 マウンは気持ちを切り替えると、真人に声をかける。


「さて、真人君。君はもう自由の身だ」


「自由……か」

 マウンの言葉に反応するも、いまだに信じられないといった様子の真人。


 研究所で囚われているとき、片時も忘れずに求め続けたソレが思わぬ形であっさりと手に入ったのだ。


 達成のために様々な困難を想定していた彼にとって、まだ現実味がわいてこないのだろう。


 真人は、自分をこんなにも助けてくれるマウンの事が気になり、思わず疑問を投げかけた。


「あんたは何で俺を助けたんだ?」


 当然の問い。


 マウンも『まあ、気になって当然か』とその問いに肯定的だった。


 言うまでもなく彼の『目的』のためであるが、道筋はまだまだ不明確だ。

 それに『性質』を鑑みると、匂わせるような言葉すら慎むべきだ。


 ゆえに。

 本来であれば、目的の成功率を上げるためになるべく内容については伏せておくべきなのだが。


(しかし……)


 真人の真剣なまなざしに心が揺れ動くマウン。

 彼にはこれから大いに手伝ってもらおうとしてるのだ。多少の事を聞く道理はあるだろう、と寛容な気持ちになり、話すことにした。


「……君の力が僕の目的に必要になるかもしれないからだよ」

 

「目的……って何?」


 再び響く、問いの声。


 その言葉にマウンは、まるで今はもう昔となってしまった楽しい日々を振り返るような、寂しげな笑みを浮かべていた。


「"会いたい人"がいるんだ……。でもね、今はまだ全然届かないところにいてね」


 遠くの空を見つめながら答えるマウン。

 

 真人はこの時、初めてマウンという男の素顔を見た気がした。


 その表情に、真人は初めて彼に親近感を覚える。


(……あぁ。この人もちゃんと人間なんだな)


 彼が大間を惨殺した際。真人は自分がどこかの化け物に拾われたのかと内心ひやひやしていたが、この時、そんなつまらない考えは吹き飛んだのだ。


「その人のところに行くのに俺の力が必要なのか?」


「うん、きっと君の力が必要になる」


 ……あぁ、間違いなく。


 マウンは想う。

 

 何故なら、君は。あてのない僕の永い旅路に『終着点』をもたらしうる存在なのだから、と。

 

「……よし! わかった! その時になったらあんたに力を貸してやるよ!」


 真人は満面の笑みを浮かべ、それにつられてマウンも嬉しそうに笑い返す。


「なあ、あんたの名前はなんていうんだ?」




「あぁ、僕の名前はね。マウン・ワイフィーというんだ―――」


 


 これが僕と天園真人の出会い。


 きっとこの出会いは"君"へと至る道になる。


 僕はそう信じ、その日を待ち続ける。 


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