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そして、世界は零になる。 -離解者・異能捜査譚-  作者: 園崎真遠
第二章 正義の在処(ありか)
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その鎖の示すものは。 ②


「……!」


 一方。突然、壇上に向かって走り出す彼を見て、真人たちはテロリストが出現したのだと認識する。


「愛示!」


「はい!」


 真人の声に応え、愛示はその地点から上空へ駆けあがる。

 人が混雑したこの会場では地上での行動は著しく制限される。

 馬鹿正直に人混みを掻き分けていたら、壇上に到達した頃にはテロは完遂されているだろう。


 ゆえに、真人はこういった事態を想定して事前に対応策を愛示と共有していたのだ。


 愛示が飛び上がった際に生じた激しい風を受け、周囲から悲鳴が上がるが今は気にしている場合ではない。


 愛示は壇上に走る男に狙いを定めると『風の弾丸』を絶え間なく撃ち出す。


 ここでようやく聴衆たちも目の前の殺意を帯びた男の存在に気づき、そのうちのいくらかの想起者メノシアンたちも自身らの指導者を守らんと<想起>を発動した。


 愛示の風の弾丸。そして、聴衆たちが撃ちだした氷の塊、大きな岩、鋼鉄の塊など。


 もはや空間を埋め尽くさんほどの攻撃密度。


 その様子に真人は「まずい……」と顔をしかめる。


 加減の手馴れた愛示の攻撃ならともかく、加減に疎い聴衆たちの全力攻撃。


 このままでは対象の男は死んでしまうと思ったからだ。


 だが、それは杞憂に終わった。


「!?」


 聴衆の誰もが息を呑む。


 何故なら、それらは一つも直撃することはなかったのだから。


 彼の<想起>『精密知覚』。身体強化型。聴覚や視覚といった五感を強化するもので、諜報向けの<想起>として知られている。

 一見、真人の『強化』に似ているが<想起>の指向性は全く異なる。


 真人の『強化』は自身と他生物の身体全部位及び物質を効果対象にするという汎用タイプなのに対して、散田の『精密知覚』は己の身体の感覚"のみ"を対象とする特化タイプ。


 これだけだと『精密知覚』が『強化』の劣化版のように見えるが、もちろんそうではない。

 何故なら、Cレートの『強化』がおよそ5倍の能力向上を及ぼすのに対して、Cレートの『精密知覚』の能力の上昇幅はおよそ10倍。

  

 異能を及ぼす部位を限定する代わりにその上昇値を増すというわけだ。


 そして彼は表在感覚を強化し、背後から迫る攻撃の軌道を空間の振動で察知して避けたのだ。


 銃弾タイプにして放つ攻撃の弱点は"直線的"であること。相手に接近するという危険の大きい行動に及ぶ必要がない代わりに攻撃軌道は単調なものばかり。

 もちろん、美来のように遠距離からでも自在に軌道を変える者もいるが、散田を攻撃できる位置にいる者でそこまで遠距離攻撃に精通したものはいなかった。


 こういった感覚強化系への対応のため、真人や愛示は複雑かつ"曲線"的攻撃を可能にする近距離戦闘にも精通しているわけだが、今回は致命的に場所が悪い。


 しかし、それでも。


(ぐっ……。一人だけ慣れてるやつがいるな……)


 散田は左腕の表面を風に"撫でられた"際に負った傷口を見る。


 愛示は彼が感覚強化系である可能性を想定して、『風の弾丸』を近距離到達時に散弾へ変化するよう調整していたがゆえに与えられた傷。 

 だが、やはり銃弾タイプの欠点を多少緩和しつつも補いきれない。かすらせるのが限界だった。


「くっ!」

 無力化に至れなかったことを確認した愛示は、そのまま彼のほうへ風向きを変えて突進する。

 やはり遠距離攻撃では仕留められず、近距離戦に持ち込むしかないと判断したからだ。


 その鬼気迫る突貫行動により生じた空気の衝撃は、男の増幅された「表在感覚」に大音量の警鐘を鳴らさせた。


 あれはいけない。

 追いつかれたら終わりだぞ、と。


 散田は迫り来るプレッシャーに震える。

 先ほど、彼に血を流させることに成功した手練れが決めにかかってきていると、彼の<想起>が叫ぶように彼自身に訴え続けていたからだ。


 ゆえに走る速度を緩めることなく、表面を抉られた左腕にチラっとだけ視線を向ける。

 流れ落ちる血の勢いは衰える気配を一向に見せない。どう考えても医療を受けるべき傷。


(とはいえ、計画の続行に支障はない)


 あと数分手足が動くのであれば問題ないのだから。


 散田はとうとう壇上に到達してよじ登ると霊歩憲子を視界に収める。


 悲しそうに彼を見つめる老婆の瞳。

 襲撃者に驚き、すぐさま畏怖の念を抱くことだろうと推測していた散田は逆に驚かされる。


 自身の命が尽きようとしている今。

 何故、自分を憐れむような目で見るのか、と。


「!?」


 だが、そんな疑問はすぐに消えることとなる。


 何故なら。


「ウジ虫が」


 霊歩憲子の護衛と思しき若い女性が前に歩み出ると共に。

 突然、目の前———いや、彼の周囲を包み込むように鈍く光る『何か』が出現したのだから。

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