きっと違うのなら ④
そこでハッと我に返る美来。
(……いけない、無駄に水を使いすぎたかな)
考え事をして長湯してしまった。
家の様子を見る限り、久美も金銭的に苦しいに違いないというのに。
美来はシャワーを止めるとタオルで体をふいて貸してもらったシャツとズボンに着替える。
(ちょっと胸元がきついな……)
そう思った美来であったが、流石にこれほどの失礼な言葉はないと思うので口に出さないよう心に刻んだ。
「真田ぁ―。シャワー終わったー?」
別の部屋から聞こえる上田さんの声。
声のする方へ向かうと、そこにはビニール袋から何かを取り出してテーブルに並べている彼女の姿を見つけた。
「お湯ありがとう、上田さん。ところでそれは?」
「あぁ。あんた、どうせご飯食べてないでしょ?」
テーブルに並べていたのはファストフードのハンバーガーの包み。
「バイト先でもらったまかないなんだ。あんまり乙女の食べるものじゃないけど、良かったら食べて」
申し訳なさそうに言う久美であったが、美味しければ細かいことを気にしない信条の美来にとっては嬉しい御馳走だ。
「ありがとう。何から何までごめんね……」
久美になんでもかんでもしてもらっている状況に恥ずかしくなる美来。
だけれども、まるで母さんのように親身になってくれる彼女に、何か胸の奥が温まるような感覚を覚えた。
「いやいや、気にしないで———」
ピンポーン
唐突に鳴り響く鈴の音。
今はもう夜中の1時。人がこんな時間帯に来るなんて不自然だ。
そう思いながら久美に顔を向ける美来。
「……!」
そこには怒りに表情を歪ませた彼女の姿があった。
「う、上田さん……?」
つかみどころのない明るい性格の彼女からも想像もつかない激情。
彼女は怒りを感じさせる足取りで玄関へ向かっていった。
(……一体誰なんだろう)
あの彼女があそこまで怒るんだ。
恐らく、ろくでもない相手なんだろう。
「だからっ! もうくんなって言ったでしょうがっ!!」
外から響く久美の怒声に、ビクっと肩を震わせて驚く美来。
どうやら彼女は来訪者と喧嘩しているらしい。
久美は酷く興奮してるようで、いつ掴み合いが始まってもおかしくない雰囲気を感じる。
その尋常ならざる様子に、自分もその場へ向かうべきか悩む美来。
(でも私は今、捜査官たちに追われる身。妙なトラブルに首を突っ込んで、目立ってしまえば本来の目的を果たす前に逮捕されてしまうかもしれない……)
そうだ。ここで待つべきなんだ。
彼女にはよくしてもらったが、所詮は知り合い程度で友達未満の関係だ。
もちろん、知り合い程度でも何かあれば後味が悪いが……そのために自分の全てをかけた復讐に悪影響が出るのは代償が大きすぎる。
でも……。
(物陰から少し様子を見るくらいなら大丈夫だよね……)
やはり、全くの無視はできない。
そう意を決した美来は玄関に続く通路の脇道の角から様子を伺う。
だが、そこには誰もおらず、どうやら未だ続く口論は外で行われているらしい。
美来は玄関まで移動するとそこから少し頭を出した。
すると久美が中年の男性と言い争いになってた。




