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そして、世界は零になる。 -離解者・異能捜査譚-  作者: 園崎真遠
第一章 そっと心に寄り添うということ
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出会いは暗き海の底にて ②


 そして。


「―――――ッ!」


 凄まじい轟音を発しながら銃弾を撃ち出す。


 通常の何倍にも威力を増した散弾は、今にも男を貫かんとしていた『土の槍』の"腹"を粉々に吹き飛ばし、本体との接続を失って推進力をなくした槍の先端はこれ以上進むことができずにそのまま重力に従って地面に落下した。


「……!!」

 驚きの色を帯びた少女の瞳がこちらを覗く。


 どうやら男を殺すことに頭がいっぱいで周囲など視界に入ってなかったようで、予期せぬ横槍に困惑している様子だった。


 一方、狙われていた男はというと。


「な、なんじゃこりゃあ!?」

 真人のショットガンの銃声に驚いて振り返ったのだろう。

 大量に散らばる土くれと弾丸を見て、腰を抜かせていた。


 その様子を憎悪に満ちた表情で睨み付けていた少女であったが、ひとまずは乱入者である真人の方へ振り向く。

 きっと、先程の『続き』をするにしても、彼をどうにかしないと始まらないと思ったのだろう。


「警察……。いや、異能捜査官……の方、ですか……?」

 おどおどとした様子で震える声を絞り出す少女。


 しかし、その表情には先ほどから浮かべる狂気の様相が張り付いたままで、声色だけなら平凡でおとなしそうな女の子という印象を覚えたかもしれないが、表情を見てしまった今となっては微塵もそういう感想を抱けなかった。


(犯罪に及ぶのは初めてといった様子だな。こういった場面にも慣れていないのだろう。金銭を奪うため……というようにも見えない。となると———)


 真人は後ろでへたり込んだ男を、恐らくは"ろくでなし"であろう男にチラっと視線を向ける。


(……復讐。こんな大人しそうな女子学生に殺人を決意させるなんて、とんでもなく罪深い男なんだろうな)


 そう推測を立てつつ、少女の会話に応じることにした真人。


「ああ。俺は異能対策局の天園、異能捜査官だ。聞きたいことは色々あるが……。とりあえず、君はどうしてこんなことをしたんだ?」


 まずは刺激をしないように優しい声色で尋ねる真人。


 少女の大人しい様子から察するに、まだ"話し合い"をする余地はあるはず。そう判断したからだ。


 一方の少女はというと。


「……それは」

 声色に罪悪感をにじませながら、少女は言いよどむ。


 彼女自身も自分がどれほど大それたことをしているか理解しているのだろう。


 だがその迷いも刹那、軽く頭を振りかぶる。


「―――私は。その男に大事な人を奪われたんです。だから、殺します」

 

 強い決意を宿した瞳を向けて宣言した。

 先ほどとはうって変わり、あらゆる罪悪感を乗り越えた、そんな決心を感じた。


 一方、襲われている男はというと、「ふっ、ふざけるなっ! き……君は一体何なんだ? ぼ……僕になんでこんなことするんだ……?」と、びくびくしながらもなんとか声を絞り出していた。


 今から殺すと宣言されたのだ。

 怯えるのも、怒るのも当然だろう。


 普通に考えて、それらの権利はあって然るべきだ。


 無論、彼が"普通の"善良な市民であれば……だが。


 しかし。いや、やはりというべきか。


 彼はきっと"普通"の人ではなかったのだろう。


「――――――。」


 その言葉を聞いた少女の、雰囲気が一変する。


 その場を芳醇な殺意が満ち満ちていく。


「……なんでだって? あなた……。私やお母さんの顔も覚えていないっていうの……?」


 止まらない。もう止まらない。

 かろうじて残っていた理性という人の皮は破れ、塵となる。


 堰を切ったかのように。

 感情のまま、怨嗟の声がとめどなく溢れ。


 残るは、怒りに呑まれた復讐の獣のみ。


「あなたがっ! あなたがめちゃくちゃにした私たちのことをっ!! 覚えていないっていうの!?」


 その男を今にも殺しかねないほど、少女は怒り狂う。

 いや。実際、既に秒読みの段階であった。


 しかし、当の男性の方は何のことなのかさっぱりわからないようで、びくびくしながらも怪訝そうな顔のままだ。


 その様子は少女にとって、火に油を注ぐような許しがたい行為だった。


「許せない……。お前は絶対許せないっ!! 殺す。この世から一片の肉片も残さずお前という存在を消し去ってやる!!」


 ―――やはり、だめか。


 真人はわかりきっていた展開を迎え、一人心の中で諦観をにじませながら呟く。

(本当にこの世界は……)

(……いや、よそう。今は"過去"を振り返っている場合じゃない)


 彼は気持ちを切り替え、少女に対峙する。


 とにかく今は、彼女を止めることが最優先だ。


「そういうわけにはいかない。きっと、後ろの男は君に酷いことをしたのだろう」

「しかし、だからといって。状況も飲み込めないまま、むざむざと人が殺されるところを黙って見てるわけにはいかない」


「だから……"とりあえず"君を止めさせてもらう」


 そう言って武器を構え直す真人。


 それに応えるかのように、少女は<想起>の光を体に纏い始める。


「……こんなクズをかばうというなら、貴方も敵です。お兄さん」

 

 その言葉と共に。


 少女の足元の道路がうねり、隆起し始めて槍状へと姿を変える。


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