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そして、世界は零になる。 -離解者・異能捜査譚-  作者: 園崎真遠
第一章 そっと心に寄り添うということ
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出会いは暗き海の底にて ①


 店を出て、近くの駐車場まで歩いていく真人たち。


 横を歩く愛示をチラっと横目で見る真人。

 やはり高級な肉のおかげか、愛示はとてもご機嫌な様子だ。


(たまにはこういうのもいいかもな)


 真人は自身の面倒な信条のせいであまり食べなかったが、それでもよい思いをしたのは確かだし、愛示に至っては最近で一番の上機嫌になるほどに満足したのだから。


「そういえば、先輩。この間、私が置いてったシャンプーはまだあります?」

 おもむろに問いかける愛示。


 女性はシャンプーにこだわる人が多いそうで、愛示も例外ではない。

 きっと、お気に入りのものが真人の家にあるか気になっているのだろう。


「あぁ。全く手を付けてないから、まだあるはずだぞ」


「よかったです。これで先輩のお財布を傷めずに済みそうです」

 しれっと他人に買わせようとする愛示ちゃん。もしや『罰』というのはまだ続いているのだろうか……。


「俺の私物がどんどん愛示ちゃんに侵食されてるんだけど……」

 気がついたら自分の何もかもが彼女に握られようとしているような感覚を覚え、思わず抗議する真人。

 彼の搾取されない明日はどっちだ。


 しかし、当の愛示はというと。

「大丈夫ですよ。とりあえず合鍵もらったら、しばらくは大人しくしてますから」

 さも当然とばかりに平然と『あ、合鍵代くらいなら払いますよ』と言い放ちながら、ニッコリと微笑んで見せる愛示。


 とても可愛げのある笑顔だ。

 きっと、こんなセリフじゃなかったら真人も『しょうがないやつだなー』と軽く流していたに違いない。

 だが、今回ばかりは流石にそうはいかなかった。


 現在進行形で酷い汗が噴き出してくる。


「合鍵!? しかも! それをもらってすら、しばらく大人しくするだけなのかよ!?」

 実質、自分の家を制圧すると宣言されて震えあがる真人。

 それは公私問わずに愛示の尻に敷かれる将来は近いということを示していると言っても過言ではない。


 真人は『拝啓、お父様。どうやら私は後輩に搾取されて一生を終えるようです。向こうでも楽しく過ごしましょう』などと脳裏でうたい上げるほどの錯乱状態に陥ってしまう。


 本当に。


 彼の明日はどっちだ……。


 だが、悲しいかな。その問いに答えてくれる者など一人もいなかったのである。


                ◆◇◆◇◆


 そうこうしているうちに、二人は駐車場の前に着く。


(合鍵……。本気で作る気なのかね……)

 未だに現実を受け入れられない真人。


 だが、現実逃避をしていても仕方がない。

 そうだ、真人が気を付ければいつも通りに過ごせるはずなのだ。前向きに考えていくことにしよう……。

 

 そして車に乗ろうとしたときに、真人は視界の隅に違和感を感じた。


(……?)

 真人はふってわいた疑問に頭を抱える。

 何か、視界の端で見えたような。


(チラっと見てみるか)

 何気ない。

 とても気軽な気持ちで違和感の元が映った方向へ振り向くことにした。


 どうせ、野良猫でもいるのだろう。

 その程度の認識しかしていなかった。


 それも仕方ない話だ。 


 先ほどごはんを食べたばかりで、他愛のない雑談を楽しんだ二人。

 それに、今日は仕事を終えたところ。

 気が緩んでいても仕方ない。


 ゆえに。


 反応が遅れることも仕方なかったのだ。

 まさか一日の―――それも数時間のうちに二度も異能犯罪に遭遇するだなんて、予想だにしなかったのだから。


 彼が振り向くと、そこには酔っぱらっているのか陽気な表情でふらふら歩く中年男性が一人。


(ん……あれは確かショッピングモールで被害を受けた男性じゃないか?)

 今日の昼過ぎに訪れたショッピングモールでの記憶を手繰る真人。


 あの時とは違って、酔っぱらっているせいか顔も緩み切って酷い有様だが流石に見間違えはしない。


 それだけだったら奇遇に思いつつも、真人も気に留めなかっただろう。


 だが、おかしかったのだ。

 真人は"それ"を見た。


 見てしまった。


 彼が本当に気にかけたもの、先ほど"視界の隅に映ったもの"を。


(な……んだ、あれは……)


 視界を疑う。


 すっかり気を緩めていた真人はその光景に緊張を走らせる。


 後方に。


 彼の後方には。


 『非日常』が生まれていた。


 自然のものとは思えない『土の柱』が無数に隆起しており、中心に在るは一人の少女。


 薄い茶色の髪を肩まで伸ばし、前髪の左側に三本の髪留めをした少女で、近辺の学校の制服を着ているところから察するに女子学生だろうか。


 それだけでも異常であるが、その上、真人は重要なことに気がついた。


 自身の足元から柱状のオブジェを生み出す<想起メノン>を行使している点だ。


(ショッピングモールにいた子か……!)


 彼女はこの静寂の夜に相応しくない、憎悪に満ちた表情を目の前の男に向けていた。


 まるで。

 ショッピングモールでの時のように。


 これから起きようとしていることなど想像するまでもない。きっと、数秒後には目の前で1つの命が消失していることだろう。


 その様子に、真人は場違いにも『過去の光景』が脳裏をちらつき、顔をしかめる。


 擦りきれた『過去』が彼を急かす。


 思考より早く足が動き出した。


(……止めなければ)


 それはもはや反射のような決断。

 真人の行動はこの上なく早かった。


 愛示が状況を飲み込むのを待たず、行動を開始する。


(『強化』発動。対象『脚部』。工程『能力向上』―――工程終了)

 『強化』で上昇した身体能力をフル活用し、少女と男の元へ駆けながら腰の刀を抜き放つ。


(『強化』発動。対象『刀』。工程……いや、間に合わない!)


 真人と彼らとの距離はおよそ50m。


 『強化』で身体能力が向上している真人でもこの距離を詰めるのに2秒はかかる。

 それに対して彼女は1秒もあれば目の前の男を串刺しにしているだろう。


 真人は空いている左手をコートの懐へ伸ばした。


 そして、ガシャンと大きな音を立てながら大きな筒状の金属の塊を。


(『強化』発動。対象『銃身』。工程『強度向上』―――工程終了)


 『レミントンM870』———ショットガンを取り出した。

 アメリカのレミントン社で開発された散弾銃。

 堅牢な構造で壊れにくく、激しい攻撃が飛び交う異能戦闘において一定の効果を得られると真人が評価し、愛用している銃の一つだ。


(『強化』発動。対象『弾丸』。工程『能力向上、集束性向上』―――工程終了)

 銃身の強化についで銃弾の威力を『強化』し、本来ならバラけながら飛ぶ散弾の方向性を異能で一点に集束させる真人。

 事前に銃身を強化したのは反動が増大した銃弾の発砲に耐えうる強度を得るためだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 12話まで読みました。 <想起(メノン)>、想起者、意図的に能力者を作る研究の存在など、世界の設定が早い段階で行われていること。 登場人物らの能力が、其々特徴的でまたしっかり説明されている…
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