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過去を掴んだ男たち  作者: 榊原高次
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二十

二十

ホテルの駐車場に車を停めると、瑞穂はカーオーディオで時間を確かめ、キーを回してエンジンを切った。時間は4時半を少し回ったところ。外はかなりの雪だ。

「早くホテルに着いて正解かも。吹雪になりかけてる」

祥子が助手席から窓の外の横殴りの雪を見ながら、そう言った。ゲレンデを後にしたのは4時を少し回ったころだった。雪がひどくなり、ホテルへの道も心配なので早めにホテルにチェックインすることにしたのだ。

「瑞穂ちゃん、運転うまいね。まだ免許取ってからそんなに時間は経ってないんでしょ?」

美由紀が後部座席から声を掛ける。

「うん、夏に取ったんだけど、お母さんと買い物に行ったり、一人で出掛けたりしてたら、慣れちゃった」

「いや、もうこれはベテランの運転じゃない? 私なんかスキー場に着くまでの高速ですっかり寝ちゃったぐらいだし。全然心配してなかったよ」

出発が朝早かったせいもあるのだろうが、確かに祥子は結構長い時間助手席で寝息を立てていた。

「そんなことないよ。祥子が図太いだけなんじゃない?」

瑞穂がそう言うと、美由紀が大きく頷いた。確かにそういうところが祥子にはある。

三人は、車を降りる支度を始めた。スキー板はレンタルしたので、思ったほど荷物は多くならなかった。しかし、トランクルームにはそれなりの大きさのキャリーバッグが積んである。

車外に出た祥子が、ホテルを見上げる。

「結構古いね、このホテル。まあ、安いし温泉もあるから許しちゃうけど」

「そうね。でも、思ったより大きいかも。よくこの値段で探せたね」

美由紀も古さは気になったようだが、旅行行程の計画を全て立てた瑞穂に気を遣ってか、満足しているように振舞っている。

「近くて、安くて、スキー場があって、温泉もあるところ。そんな無茶なリクエストにお応えしたら、ここになったの。結構頑張って調べたんだよ」

「うん、有難う。いつも瑞穂には感謝してます。さ、早く入ろう。お腹空いてきちゃった」

祥子はそう言うと、自分のキャリーバッグをガラガラと引いて、エントランスに向かって歩き出した。瑞穂はトランクを締めて車をロックすると、美由紀と並んでその後を追った。


さすがにホテルの中は暖かかった。6階にある宿泊部屋に入った三人は、雪で少し湿っている服を脱いで、浴衣に着替えることにした。体の芯まで冷えていたので、室温は28度に設定する。部屋は、十畳ほどの和室だ。ツインルームで一人分サブベッドといった狭い部屋に泊まるよりは、ずっとこのほうがいい。

「ご飯って何時だって言ってたっけ?」

祥子はよっぽどお腹が空いているらしい。瑞穂にそう尋ねると、菓子入れの中に入っている煎餅を口に運んだ。

「6時からって言ってたけど、少しくらい早くてもいいんじゃないかな。もう行く?」

三人を代表してチェックインを行った瑞穂が答える。時刻は5時少し前。6時にはまだ時間があるが、それまで館内を見て回ってもいい。夕食の会場は、2階の大広間だ。部屋に食事を運んでくれるスタイルではないらしい。手間の軽減なのだろう。

「じゃあ、そうしようよ。お土産も見たいし」

祥子は、早速浴衣の上から茶羽織を着込んでいる。フロントの横にお土産を売るコーナーがあったので、そこに寄って買うものを決めておいてもいいだろう。

「私はお風呂を見てみたいかな」

温泉付きの条件にこだわったのは、美由紀だった。このホテルは8階建てだが、4階以上が客室になっている。大浴場は3階にあり、この階より下は面積が広い。つまり、3階部分が少しせり出した形になっているのだが、そこに展望露天風呂もあるのだという。

「じゃあ、お風呂を覗いて、お土産を見て、それからご飯だね」

ホテルの施設案内を見ながら、瑞穂は二人に提案する。

「荷物を持っていく必要はないから、金庫に貴重品は入れておこうね」

「えっ、お土産を買いたくなるかもだし、財布は持って行ったほうがいいんじゃない?」

買う気満々の祥子にお土産は見るだけじゃないのかと言いたかったが、瑞穂は部屋の鍵を見せて説得する。

「部屋の鍵を見せれば、チェックアウトのときに精算してくれるよ。デジカメも持って来てるし、鍵とこれだけを持って行って、携帯も金庫に入れておこうよ」

「そうね。浴衣だし、手ぶらがいいかも。祥子は竹内君の声を聞きたいんでしょうけど、それはご飯を食べて、お風呂に入ってからでいいんじゃない? 折角の女子三人の旅行なんだし」

美由紀が同調したので、祥子もしぶしぶのようだったが同意をした。

「うん、わかった。じゃあ、行こうよ。お腹すいちゃった」

切り替えの早いのが祥子のいいところでもある。瑞穂は三人の財布と携帯電話を金庫に入れると、ルームキーとデジタルカメラを持って部屋の外に出た。


最後のデザートを食べ終わったときには、時間は7時を回っていた。会席料理で料理が順に出されるのに時間がかかったこともあるが、館内の見学とお土産の物色に時間がかかりすぎ、夕食会場に入ったのは6時半近くになってしまっていたのだ。

大浴場は、思ったよりも広かった。脱衣場から中を覗いただけだったが、結構な人数が入れそうだったし、大きなガラス戸の外には確かに露天風呂も見えていた。何より、源泉100%の硫酸温泉、冷え性や疲労回復などに効くという効能書きを見て、美由紀は喜んでいた。

土産物売り場では、祥子が主役だった。カスタードケーキやストラップなど友人へのお土産だと思われるもののほかにも、蕎麦や味噌など自宅用と思われるものも含め1万円近くも購入したようだ。あまりに量が多いのでそれをフロントに預け、三人は漸くこの夕食会場に辿り着いたのだ。

「思ってたよりもボリュームがあったね。美味しかったし、満足満足」

祥子がお腹を叩く真似をする。天ぷらや魚など、確かに女子には多すぎるほどの量だった。祥子と美由紀は完食したのだが、瑞穂は白ご飯にはほとんど手を付けられずに残してしまった。

「じゃあ、お風呂に行こうか」

今度は私の番とばかりに、美由紀が二人に提案する。

「うん。一度部屋に戻って、着替えを持って突撃だね」

祥子も上機嫌で頷く。三人は食べ終わった食器をきちんと重ねると、夕食会場を後にした。

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