第二話
「ライトさんのスキルは――『隠キャ』です」
「は?」
ほんの数秒前までの雰囲気が一変した。さっきまではギルド内に漂っていたワクワク感、サンタさんからのプレゼントを開ける子供が抱くようなそんな空気が漂っていたのに――どうやら中身が文房具かなにかだったらしい――期待はずれと言わんばかりの視線が刺さってくる。
「な、なにかの冗談ですよね。そんな意味不明なスキルがあるわけないし⋯⋯」
そ、そうだ! これは隠キャな俺への嫌がらせなんだ。だいたいそんなスキルあるわけない
し。危ない危ない騙されるところだった。隠キャがギルドなんか行ったからバカにされてるだけなんだ。そうだね。そうだよね。そうだと言って!
なんでこの人俺を憐れむような目で見てんだよ。やめろ、やめろ冗談だと言ってくれ。
「あのー、それって実際どんなスキルなんですか?」
俺が現実逃避をしている中、いち早く現実に戻ってきたアリサが質問する。
確かに性能は気になる。もしそれなりに強いものだったら名前には目をつむってもいいしな。頼む、強いやつください!
メアリさんも急いで魔道具に目を向ける。彼女自身の目にも期待が浮かんでいた。この微妙な空気に耐えられていないのは俺だけではないらしい。
「ええっと魔道具によると⋯⋯、あー」
メアリさんが頬に手を当て困り顔を浮かべる。なんて答えたらいいか迷っている感じだ。
その反応は絶対よくないスキルだっただろ。
どうやら周りからの期待外れと言わんばかりの視線は消えることにはならなそうだ。
「どうやら自分を隠キャにすることができるらしいです。しかも⋯⋯常時発動型」
メアリさんは目を伏せながら言った。とてつもなく申し訳なさそうにしている。違うんだあなたのせいじゃない。
でも、俺が十数年間隠キャだった理由がこんな形で明らかにされるとは⋯⋯。そして何より常時発動型のスキルという事は俺はどれだけ頑張っても陽キャになれないらしい。
――あ、これ人生終わった。
「あーそうですか。わかりました。ありがとうこざいました。故郷に帰ります」
俺は冒険者には向いてなかったんだ。仕方ない。町で農業やって、それなりの生活をして生きて行くとしよう。さようなら俺の夢。
「勝手に夢とさよならしないでよ、バカ! てかうちの町は農業ほとんどやってないでしょ」
そんなこと考えてたらアリサに叩かれた。しかも結構強めに。
痛い。
それよりなんでこいつ地の文読めるんだよ。なんだそのメタスキル。やめろ俺の思考を読むな。てか俺のスキルと交換してくれ。
「うるさいうるさい。俺は町で農業をして余生を過ごすんだ。しがない人生ありがとうございました!」
「何が余生よ。ライトの余生早すぎでしょ。まだ何も成し遂げてないんだから、冒険者になって二人で頑張るって私たちは約束はどこいったのよ」
――仕方ないから俺がお前を守ってやるよ
約束か。
そういうことを言われるとどうしようも出来なくなるんだよなぁ。
しょうがねぇな。
「わかったわかった。冒険者になりますなります。愚かな私奴に約束を果たさせてください」
「何よその言い方。まったくなんなのよ、バカ」
言葉とは裏腹に、アリサは心なしか嬉しそうな顔をしていた。俺への溢れんばかりの思いの為だろう。仕方ないこいつは俺がいないとダメダメなのだ。
俺も冒険者になりずっと一緒にいてやるとしようか。
「事実とまったく違うことを言うのはやめなさい。どう見ても嬉しそうな顔ではないでしょ」
「俺が悪かったからもういい加減地の文読んでくるメタネタはやめようぜ。嫌いな人も結構いるだろうし」
そう言うことで訂正。
アリサは俺のことを殺意にまみれた目で見てきた。
正直怖い。やりすぎた。助けてください。
「あのー、私のこと忘れてません? 結局冒険者にはなるんですか、ならないんですか?」
完全に忘れてた。メアリさんもちょっと目線がきつい。この人も怒ってるのか。
どうやら俺には女性を怒らせるスキルもあるらしい。もっと使い勝手がいいスキルをもらいたいものだ。
「忘れてるわけないじゃないですかー。冒険者ならせていただきます」
「では、こちらの書類を書いていただけますか?」
メアリさんは、俺に書類とペンを差し出すと、すぐに笑顔に切り替えた。そんな当たり前の作り笑いに、やっぱプロは違うなと思った。
「いぇーい! ついにこれで、私たち冒険者だよ」
俺がギルドを出た途端、となりにいた女性が急に叫び出した。周りも彼女に困惑してる。誰だろう。メアリさんに続くヒロインだろうか。
それともただの頭のおかしいモブキャラだろうか。俺も周りの人に合わせ、ちょっと引いた感じで見ておこう。
「なによその態度。ライトは嬉しくないの?」
「別にこれは嬉しい云々なのが原因じゃないけどな。まぁでも、1%くらいは嬉しいかもな」
ただ、不名誉なスキルがあると暴かれてしまったことが残りの99%くらい悲しくもあるな。
残念ながら、俺の発言がお気に召さなかったのだろう。ものすごい剣幕で見られてる気がする。
「ライトは可愛げないね。まぁ機嫌がいいから許したげる。ふふふーん」
アリサは鼻歌を歌い出した。歩き方がいつもより軽快で、機嫌の良さがわかりやすい。
それより機嫌がいいなら睨んでくるなよ。機嫌が悪い時は何してくるんだよ。怖いよ。
まぁこれはいつものことなのでどうでもいい。
そんなことより。
「なぁこれからどうするんだ? あんな風に言っちゃったけど初心者の俺らに大丈夫なのか?」
つい10分ほどの前のことを思い出す。
「一応マリアスでは初心者のサポートのために、何回かはCランク以上の冒険者に協力してもらいながら依頼を受けることができます」
なるほど、これもマリアスが初心者に人気の理由なのか。かなり合理的な制度だ。
ちなみに、冒険者というのはS・A・B・C・D・Eの6ランクに分かれている。俺たち初心者はEランクで、国に数人程度しかいない魔王軍と最前線で戦ってるような人たちはSランクだ。
その中間くらい、Cランクは大体中級者と言ったところだろうか。それなりに経験を積んだ中堅どころが初心者の俺たちをサポートしてくれる。俺らからすれば是非受けておきたいものだ。
「喜んで受けさせて⋯⋯」
「大丈夫です。お断りします」
俺のセリフが遮られた。となりの馬鹿が意味不明なことを言い出した。
メアリさんも困り顔だ。馬鹿がすみません。
「アリサが馬鹿なのは知ってるが、どういう理論でそんなクソみたいなことを言い出したんだ?」
「ライトこそ馬鹿なの? 私たちの初舞台に他の強い人が入ってきたら台無しじゃない。私たちだけでなんとかなるわよ」
どうやら今日はいつもより頭がダメらしい。まぁ適当にゴブリンでも数匹倒すスタートにしといてやればいいか。
ここは俺が折れてやろう。こいつと口論するのはめんどくさいし。
「わかったわかった。それでいいよ。アリサのいうことを聞きますよ」
「本当にいいんですか? 一応ここで冒険者登録された方は皆さん受けていらっしゃるのですが⋯⋯」
メアリさんはマミュアルにあるのか初心者サポートをさらに勧めてきた。
めんどくさいからアリサが納得するまで黙っておこう。
「本当に大丈夫です。一応頼りないけどスキル持ち居るんで。」
「いやですが、やはり初心者二人というのは。それに彼は普通のスキル持ちではないようなぁ」
二人のやりとりは白熱してきた。どちらも譲るつもりがないらしい。
しかも二人のやりとりなのに軽く俺がディスられてるし。早く終わってくれい。
「まぁ普通のスキル持ちじゃないのは事実ですが、というかもはやただの隠キャですが、それでも頼りになるようなならないような――いや、頼りにならないやつですが、二人で頑張るので問題ないです」
「その頼りないのが問題だと言っているんです。二人だと危険なんです。隠キャに何ができるんですか」
自分の理想の冒険者論を描いているアリサと突如現れたヤバイ奴らの管理をしておきたいメアリさん。そんな二人の議論はもはや論点が変わっている気がする。
まったく人が隠キャだからって言わせておけば⋯⋯。
「さっきからうるさいんだよ! メアリさん、本当に大丈夫なので僕らはもう帰ります。あとアリサ、お前は後でゆっくり話そうな。散々言ってくれやがって。ではありがとうございました」
「あっちょっと待って⋯⋯」
メアリさんは後ろから俺らを引き止めようとしていた。しかしその制止を無視し、アリサの腕を掴んでギルドから飛び出す。
我ながらここまで最悪の冒険者スタートしたやつはいないんじゃないだろうか。マリアスの歴史に残るかもな。
なんて、くだらないことを考えながら。
――回想終わり。
俺の疑問に対し、アリサが自信満々の口調で返答する。彼女からすれば実に当たり前のことを語るがごとく。
「まったくライトは心配性ね。大丈夫大丈夫。行き当たりばったりだったけどここまで来れて、なんだかんだ冒険者になれた私たちならちょっととの事くらいどうってなるでしょ?」
そう言って彼女は笑った。こんなに喜んでいるのは見るのは結構久々な気がする。口ではなんと言っていようと、二人で冒険者になれたことが嬉しいのだろう。
仕方ないったら仕方ない。こいつの気分が害さないようにしてやるか。まぁ先輩に教えてもらうのもいいが、やっぱ気の知れた二人で冒険をした方が楽しい。隠キャの俺は知らない人と話すのは辛いしな。
「しょうがないな。とりあえず明日武器でも買って、適当な依頼をこなしてみるか」
この時、俺は気付くべきだった。アリサが機嫌がいい時はろくなことがないのだ。そもそも俺が今こうしてアリサと仲良くなったのも、冒険者になることを決意したのも全てアリサの機嫌の良さが原因だった。
そんな簡単なことに気づかなかったということは俺も無事に冒険者になれて浮かれていたということだろう。
この失敗が俺を後悔させることになるとは、今の俺は気づかなかった。