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第一話

 ここは冒険者になりたいという志を持つものが集まる冒険者のスタートラインの街――マリアス。

 その中心を一直線に貫くメインストリートと、街の外とを結ぶ場所に巨大な門――マリアス第一正門が建てられている。

 巨大とは言えども、王都のそれほどではないその門がマリアス観光の代表格と言われている理由はその外観にある。

 この国では石造りが主流な門だが、マリアス第一正門は赤レンガで作られており、人目見たいと遠い地から観光客来るほどには有名となっている。

 そんな観光客がひしめく地に、俺――ライト・カーリラスはある壮大な志を胸に立っていた。

 俺は必ず冒険者としてその名を轟かせる。

 そ、そして絶対に⋯⋯、

「ぼっち脱却して、陽キャになってみせる!」

 俺の声高な叫びは辺りに響き渡る。門番の視線がなんだかとっても痛いが、気にしてはいけない。

「なーにくだらないこと言ってんのよ、バカ!」

 隣で俺の高らかな宣言を馬鹿にしている奴がいた。長く伸ばした水色の髪とこちらを真っ直ぐに見つめる紫色の瞳が特徴的な少女。幼なじみで、隠キャな俺の唯一の友達、アリサだ。

「なんだよアリサ。俺の崇高な願いに水を差すじゃねぇーよ」

「何が崇高な願いよ。ただの陰キャの願望でしょ。友達できるといいわね」

 どストライクで図星を突いてくるアリサに顔を真っ赤にして、半泣きになりながら反論する。

「お、お前言っちゃいけないこと言ったこの野郎! 絶対許さねえからな!」

「これくらいでムキになるなんて精神年齢の低さが伺えるね」

「て、てめえ。俺を本気で怒らせてしまったな。痛い目見せてやる」

 お互い一歩も引かない言い合い――と言う名の一方的なアリサの罵倒――をしていら俺たちに、門番が迫って来る。

 隣までやってくると、ため息をついてこう言った。

「君たち、仲がいいのは構わないんだが、うるさいからいい加減どこかへ行ってくれないかな」

 その言葉に俺たちは顔を真っ赤にすると、ほぼ同時に頭を下げた。

「は、はい。すいません!」

 すごい恥ずかしい⋯⋯。




「まったく、ライトのせいで怒られちゃった」

 隣を歩くアリサが心なしか棘の増した声でそういう。

「いや、騒いでたのは俺だけじゃないよね⁉︎ お前もだよね!」

 そんなバカなことを話しながら――先ほどの失敗から声は抑えて――俺たちはマリアスのメインストリートを歩いていた。

 メインストリートは昼間という時間帯もあってか賑わいを見せ、人や馬車で溢れていた。

「りんごー、りんごが安いよー。一個百イリアだよー」

「そこの奥さん、晩飯はバード牛の燻製なんてどうだい?」

 道の端に立ち並ぶいくつかの商店から客引きの声がたくさん届いてくる。

 そんな町の様子を眺めつつ、俺たちは道の先に見える一際大きな建物――マリアス冒険者ギルドを目指していた。

 マリアス冒険者ギルドはこの国で最も有名な冒険者ギルドだ。どうして王都などの主要都市にあるそれよりもマリアスのような田舎町のものが有名なのかと言われれば、それは初心者に対する待遇がとても優れているからだろう。

 マリアスで冒険者になれば、武器やポーションを比較的安値で買うことができ、さらにランクの低い冒険者は通常の半額で宿屋に泊まることができる。

 このような理由から冒険者になるのはマリアスで、という若者はかなり多い。もちろん、俺たちもその一部だ。

 と、そんなことを考えながら歩いている間に、俺たちはギルドの目の前まで来ていた。

 緊張からか心臓がどくどく言ってるのが聞こえる。

「よ、ようやくだな。やっとここまできたな」

「うん、そうだね」

 小さい頃からの夢――二人で世界でもとびきり有名な冒険者になること、その第一歩が眼前に迫っていた。




 扉を開け中に入ると、待ちわびた光景が広がっていた。爽やかでクールな冒険者たちが仲間と共に和気藹々と団欒を繰り広げ、ギルド中が心地よい雰囲気に包まれていた。

 ――と、なっていて欲しかったが、残念ながら現実は無情だった。

 爽やか、クールとは程遠い冒険者たちがまだ昼間だというのに酒を飲み、酔っ払った者たちが罵声を浴びせ合っている様子も見られる。

「⋯⋯あーとりあえず冒険者登録するか」

「そ、そうだね。さっさと済ませちゃおう」

 すぐに終わらせて出て行きたかったのだが、そう上手くはいかない。酔っ払いの一人が声をかけて来た。

「なあなあそこのお嬢ちゃん。俺と一緒に飲まないかい」

 そう言ってアリサを引っ張り、酒場の椅子に座らせた。

「い、いや、あの困ります。私はお酒飲めませんし」

「細けぇことはいいんだよ。さぁ飲みまくろうぜ」

 アリサがこちらを困った顔をして見てきた。どうやらどうにかしろとの事だろう。正直言ってガチガチの冒険者に注意するのは怖いが、アリサに後から怒られるのはもっと怖い。

 仕方ない。ライトさんが助けてやるか。

 カッコいい俺は果敢にも男に声をかける。

「あ、あのー。その子は僕の連れなのでそういうことはやめていただけたら大変嬉しいのですが⋯⋯」

「うっせぇゴラァ。てめぇは黙ってろや!」

「あ、はい。すいませんー」

 男は振り向いてものすごい形相で怒鳴ってきた。

 はいダメですね。本当はアリサさんを助けたかったんだけどこれは無理だ。俺は頑張った。あとは強い大人の人になんとかしてもらおう。

「ライト、全然使えない」

 ちょっと待て、アリサ。お前今小さい声でなんか言ったよなおい。

 なんだよやめろよ、やめてくださいよ。そんなゴミを見るような目で見てこないでください。

「ゴルガルさん。またまた気弱な女の子に近づいてお酒飲ませてお持ち帰りしようとしてるんですか?」

  俺がだめな男感出していると、ため息をつきながらギルドの受付から美人な女性がやってきた。金髪碧眼なところがポイント高い。

「いやぁこれは違うんだよ、メアリさん。この後一緒にモンスター退治いかないかって誘ってたんだよ」

 どうやらこのごつい男――ゴルガルというらしい――はかなり焦っているようだ。全身に汗がにじみ出てる。

「どう考えても無理やりお酒飲まそうとしてたでしょ。前に言いましたよね? 次こんなことがあったらギルド出禁にするって」

 前ってことはこいつ常習犯かよ。てかこの男注意されてるくせにメアリさんの胸チラ見してんだけどどういう神経してんだよ。

「あと胸をチラ見てるのも気づいてるのでやめてもらってもいいですか」

 メアリさんはそう言ってにこっと笑う。口元は笑っているが、目はまったく笑っていない。

「い、いや胸を見てるなんてそんな⋯⋯」

「それはいいですから、もうこんなことが無いようにしてくださいね。次やったらマジで冒険者資格剥奪させますから」

「は、はい。申し訳ないです⋯⋯」

 ゴルガルはそう言うと逃げるようにギルドから出ていった。最後に胸をチラ見して。

 そんなゴルガルを呆れた目つきで見つめると、彼女はアリサに振り向き、先ほどゴルガルにあれだけ殺意のこもった表情で睨んでいたとは思えないほどの笑顔でこう言った。

「ギルドの馬鹿のせいでご迷惑おかけして申し訳ありません」

 メアリさんは深々と頭を下げる。さっきまであんな鬼のような顔をしていた人とは思えない。この変わりよう、これがプロなのか。

「い、いえこちらこそ助けていただきありがとうございました」

 メアリさんは笑顔――まぁ営業スマイルでしょうね、を浮かべて首を振る。

「これも仕事のうちなので。ところでギルドに何か御用でしたか?」

「あ、忘れてたぁ。実は冒険者登録するつもりできたんですよ!」

 ――そんな大切なことを忘れるなよ。そっとため息をつく。

「そうでしたか。ちょうど人手不足なのでこちらとしても助かります! さっそく登録の手続きをしに行きましょうか」

 人が増えることで少しメアリさんは嬉しそうだ。だが何故だろう、アリサは困った顔をしている。

「あー、実は一緒に登録する人がいてー」

 ん? あれ?

「そうですか。その方はどちらです?」

「わ、私の後ろです⋯⋯」

 あ。まずい忘れてた。俺もアリサと一緒に登録するんだった。

 メアリさんは俺の存在に気がつくと先程までのスマイルを一変させた。

 やばい⋯⋯メアリさんがへんなものを見る目で見てくる。「あいついつからいたの?」、「そもそも連れが絡まれたら助けろや」みたいな感じで見てくる。

 メアリさんは十秒ほど汚物を見る目だったが、すぐさま営業スマイルを浮かべた。

「ではおふたりとも受付に来ていただけます? 登録をしましょうか」

 アリサは恥ずかしそうにしていた。隠キャでなおかつ頼りない男は嫌だろう。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 ――俺は死にたかった。




 受付に行くと、そこに水晶玉的なものが置かれていた。よくいる怪しい占い師が持ってるそれっぽい雰囲気を出すためのものに似ていた。

「これは手をかざせば、その人のステータスやスキルを見ることができる魔道具です。冒険者登録をする前にこちらで数値を確認させてもらいます」

 そう言うと、メアリさんは自分の手を魔道具にかざした。

 たちまち魔道具にステータスが表示させる。レベルは十四と書かれてあった。最初は一から三程度らしいのでそこそこ高いみたいだ。

「お二人にもこれを行ってもらいます。どちらからにしますか?」

 俺たちはチラリとお互いを向き合うと、俺がひよってることに気づいたのか、アリサは前に出る。

「わ、私からやります」

 アリサは緊張しているらしく、汗が滲んでいた。

「ではこちらに手をかざしてもらえますか?」

「は、はい!」

 アリサはゆっくりと魔道具に手をかざした。

 ステータスが表示される。

「えー、特に目立ったものはないですね。どのステータスも平均の範疇です。問題はなさそうなので、あとは書類を書いて貰えれば無事に冒険者ですね」

「あーそうですかぁ」

 アリサは嬉しいような残念なような感じだった。多分、自分に特別な力てきなのがあることを少しは期待していた口だろう。平凡なのが1番だと言うのに。

「じゃ、じゃあ次は俺ですね」

 自分の番になるとすごい緊張する。少し手を震わせながら魔道具に手をかざす。

 魔道具がゆっくりと光り出し、それに心臓が高鳴る。

「あれ? え?」

 なんかメアリさんが間抜けな声を出す。

 そういえばアリサの時より心なしか光が強い気がする。もしかしてなんか俺すごいのかもしれない。

「こ、これってもしかして」

 メアリさんは持っていた資料と魔道具を交互に見比べ、それを繰り返すと唐突に驚愕の表情を浮かべる。

「こ、固有スキル! あなたは固有スキル持ちです!」

 メアリさんの叫びはギルド中に響き渡る。

 あまりの驚きにギルドの時が一瞬止まる。数秒後、全員が同時に声をあげる。

「え? まじ?」

 俺ではなく、アリサが驚いて間抜けな声を出していた。

 固有スキル――それは、一万人に一人だとか百万人に一人だとか具体的な数字は分からないけれど――とりあえずすごい低い確率で先天的に授かるスキルのことだ。

 そのとても珍しいものをどうやら俺は持ってしまっているらしい。

 まぁ俺くらいの人材だ、無理もない。驚いているみんなを尻目にかっこよく決めてやろう。

「そ、そ、そ、それは本当なんでございましょうか?」

「は、はいそうですね」

 かっこよく決めるつもりが噛んじゃったし、口調もおかしくなちゃった恥ずかしい⋯⋯。

「そ、それはどんなスキルなんですか?」

 しょげている俺に見向きもせず、アリサが本題を聞き出した。

「ちょっとまってまだ心の準備が⋯⋯」

「そんなんじゃいつまでたっても聞けないでしょ。さっさと聞くわよ」

 俺のスキルなのに俺の意見は無視らしい⋯⋯。

「待ってください。今魔道具に表示されます。ライトさんのスキルは⋯⋯」

 その瞬間、ギルドの内の時は止まった。

 メアリさんが次の言葉をつなげるまで、誰一人呼吸さえしていなかった。

「ライトさんのスキルは――『隠キャ』です⋯⋯」

 その瞬間、ギルド内の全員が同じ表情をしていた。

 鳩が豆鉄砲を食らっている様子は見たことがないけれど、多分この言葉はこういう表情をしている人に向けて言うべき言葉なのだろうと思った。それだけこの場面には驚きという言葉が似合う状況だった。

 少し間を空けて誰かが言った。もはや自分がそれを言ったのか他人が言ったのかわからなくなるほどに驚いていた。

 もしかしたらその両方かもしれないなぁと思った。




「は?」




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