1.プロローグ
三年前、宇宙のかなたから魔王オプスキュリテが飛来した。
魔王はその体内から魔物どもを生み出し、人類の制圧に乗り出した。各国の王は魔王軍の勢いの前になすすべもなく、次々と魔王の軍門に降った。しかし一か国だけ魔王の支配から逃れることができた国があった。
アルス王国である。
アルス王国の国王の七番目の娘、ルネ=ミールクインは国土結界と呼ばれる特殊な魔法を使うことができた。この魔法はその名の通り国全体に結界を張る魔法であり、この結界内にはあらゆる魔物が侵入できなくなるというものである。これにより魔王軍がアルス王国へ侵攻することは不可能になったのである。
やがてアルス王国は人類解放の拠点となっていった。国王が世界各国の高名な魔法使い、剣豪、武闘家、学者、神官、僧侶らを招集したからである。彼らは王都ゴカサリに集められ、国王から魔王を倒すための研究や修行をするように命じられた。国王は各分野の人類最高峰の人材を集めることで、魔王に対抗することのできる勇者を育てようとしたのである。
そんなアルス王国に招かれた人々の中に一人の少年がいた。名をエミル・リーフレンという。彼は紛れもない天才であった。三歳で初めて近所の道場に入門し、そこからめきめきと頭角を現していった。そして十五歳のころには国で一二を争う武闘家となっていたのだった。アルス入国後のエミルは他国から来た武人たちと交流を重ね、その技能を磨いていった。
そして彼は人類最強の存在となった。
ある日彼は国王に魔王討伐の許可を求めた。自分にはすでに魔王を倒すことのできる実力がある。ゴカサリに集められた実力者たちとパーティーを組めば必ず魔王を撃破することができる、と。だが国王はエミルの提案は賭けに近く時期尚早であると説き、それを拒否した。
自分の力に確かな自信を持っていたエミルは納得がいかなかった。彼はその日のうちにゴカサリの町を去った。エミル失踪の報告を聞いた王は彼が魔王のもとに向かったのだとすぐに分かった。だがもうエミルを止める方法はなかった。王はただ祈るしかなかった。
三日後、魔王を倒したエミルがゴカサリに帰還した。
三年に及んだ魔王の支配はこのようにしてあっけなく終わったのである。