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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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7.処女航海(2)

アリスはプロミオンの専用設備で定期的にメンテナンスを行っているのです。

ご飯を食べてエネルギー補給を行えたら良かったんですけどね。

 プロミオンには乗組員がいないが船体の大きさに相応しい規模のカーゴスペースは存在しているので、もっぱら物資の保管庫として有効に利用された。そのおかげでもってメルファリア一行は、途中にさしたる補給も必要とせずにザルドスに向かうことができた。


 懸案事項をサッサと済ませたいというメルファリアの意向もあって、トーラスを発ってからこっち何処にも寄港しないまま、もう次はボーテック星系という所まで航海は順調に進んでいた。


 そして件のデータマイナーから、メルファリア宛の連絡が届いた。


 航路ですれ違った(とは言っても光学センサーで捉えられる距離ではない)船とのネット通信によりもたらされたソレの為に、デニス船長含めメンバーがブリーフィングルームに集まった。

「ザルドスでは、地上へ降りることになりました」

「地上に、ですか」

 やや意外そうに、デニス船長が聞き返した。


 メルファリアが椅子から立ち上がり、皆を見回しながら話し出す。

「ええ。スピンクスとの会合に、地上にあるレンタルハウスを利用したいと連絡がありました。久しぶりに地上に降りるのも良いかと思いましたので、承諾しました」

「わかりました」

 デニス船長は淡々と受け答えた。ボスの意向だ、彼にとっては是非もない。もっとも、現在の惑星ザルドスの治安について、特に目を引く事案もない事は確認済みだ。


「場所はどこですか?」

 続いてレオンが聞いた。地上に降りるために宇宙港を利用するとなれば、場所によっては地上へ降りた後の移動に日数が掛かるからだ。


 スピンクスに指定された場所がディスプレイに映し出される。そこは北半球にある大陸の、かなり内陸部にある小都市の郊外。地上ステーションからはかなり遠いし、そこへ至る交通機関も期待できそうにはない。

 だが幸いに、指定されたレンタルハウスの周りは緑の乏しい荒れ地が広がっており、丘を幾つか隔てれば、平坦で船を下せそうな砂地があるようだ。


「アストレイアもプロミオンも、どちらも地上へ降下できますから」

 立ち上がったままだったメルファリアが、その言葉にうなずいた。

「全員で会いに行くわけではありませんし、一隻だけ地上へ降りましょう」

 すると、物資の在庫状況の確認をしていたミッカが顔を上げた。

「もう一隻は補給を担うのが良いですね」


 デニス船長が腕を組みながらメルファリアをうかがう。

「ザルドスで何日掛かるのか、ですが」

「目的地付近に降下できるのならば、諸々の手続きと移動と、報告を受けるのとでざっと四日というところかしら」


 レオンが手を挙げて、発言の許可を求めた。

「すいません、そうなると、途中でアリスのメンテナンスの為にもプロミオンを使いたいです」


 アリスは、その身体のメンテナンスのために適度な間隔でプロミオンに設置してある専用のタンクベッドに入る。実質数時間程度の睡眠? で済むようで、あとは適宜、経口で補水すればお肌の潤いも保てるのだそうだが。


「では、ザルドスへはプロミオンで降下しましょうか。私とリサ、レオンとアリスさんの四人で行きましょう」

 サッサと決めてしまうメルファリアに対し、デニス船長が事務的に問いかけた。

「他には護衛を付けられませんか?」

「市街地から少し離れた、小さな一軒家のレンタルハウスです。あちらは三名だそうですから、こちらも四名までにしておきましょう」


 実のところ、小さなと形容するほど小さな建物ではないのだが、メルファリアにとっては小さいとしか思えないのだろう。誰もそこに異論は挟まなかった。


 ミッカとは別の情報を閲覧していたレオンが、今度は手を挙げずに発言した。

「ザルドスへの降下に必要な検疫タイプは標準的なものですから、皆問題ないですね」

 念の為に言うと、アリスに検疫は必要ない。

 人類にとって問題のない大気組成であれば、基本的にアリスにとっても問題はない。



 ザルドスは、奇岩が立ち並ぶ景勝地が少し知られている程度ののどかな星で、治安に関して特段の注意事項などは発布されていない。人口も少なく、希少鉱物の産出があるほかは観光業くらいしかない、田舎と称することに全く違和感のない可住惑星だった。


 デニス船長が、顎に手を当てて思案顔になる。

「では、タイミングも丁度良いので、アストレイアの初期点検を実施しましょうか。データマイナーとの会合中に終了できるはずです」


 ミッカがさっそく手元端末を操作して情報を取得し、補足する。

「ザルドス宇宙港には点検用設備が少ないのですが、ザルドスで点検をしようとする船主はあまり居ないようですね。予約可能です」

 ミッカが船長をうかがった後にメルファリアに顔を向けると、デニス船長もメルファリアの方を向いた。


「わかりました。船長、アストレイアの点検をお願いします」

「はい。入渠の手続きを行います」

 ミッカが手を動かす。船長は彼に向かって軽く頷いた。



 ボーテック星系に至るまでの間、アストレイアは処女航海であったにもかかわらず、大きなトラブルは一つもなかった。アリス情報によれば、アストレイアは星系間航行船の分野で最大のシェアを持つグランマークシップビルディング社で建造された特注船で、ランツフォート宇宙軍からの発注だったそうだ。


 類型船はなく、新規に設計された試作艦をメルファリア嬢の乗船の為に改装したものだ。グラハム兄様の乗船していたスレイプニール号は武装を施していなかったが、アストレイアは単独での行動も視野に入れて、そのための装備・武装を備えている。


 船自体の出来も良いのだろうけど、デニス船長以下乗組員たちの運用手腕も称えられるべきものなのだろうと思う。宇宙船(に限らず船舶)は様々な構造、機構、システムの大規模集合体であり、運用に要求される安全係数も大きい。ましてや世界的なVIPが乗船するともなれば、乗組員にかかるプレッシャーも大きいと思う。


 ミッカが言うには、デニス船長の豊富な経験に裏打ちされた頼もしさから、安心して仕事ができるのだそうな。怒ると怖そうではあるけど、たしかに何時も落ち着いていてどっしりしているイメージはある。見た目はむしろスマートなんだけどね。


 そういえばレオンはあまりプレッシャーを感じてはいないが、それは、思いがけない展開の末に今の立場があるからなのかもしれない。元々、前向きではあってもハングリーさのやや足りない、生来の性格も影響しているのだろう。



バニシングリアクタで動く星系間宇宙船は、燃料の補給は必要ありません。

でも、各部の点検や可動部のグリスアップなどは必要です。

それ以上に乗り組む人間の為の物資の補給が必要です。

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