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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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6.処女航海(1)

宇宙船っていうくらいですから、船なんです。

ですから、初フライトは処女航海です。(断言)


 トーラスを発ち、ボーテック星系ザルドスに向かう一行は、アストレイアが先行してプロミオンが後に従う形をとる。iフライトの性質上後方へは通信できるので、レオンもアリスも普段はアストレイアに乗船し、プロミオンは無人になるわけだ。そして更に後方に、少し離れてラーグリフが続く。


 他の二隻からすれば圧倒的に大きいラーグリフは加速も減速も緩やかにならざるを得ず、一体的な艦隊機動を行うにはいささか無理があるうえ、目立ちすぎるという大きな欠点があった。よってラーグリフは、常時ステルスモードで後方にやや距離を置いた位置取りをすることとした。


 それは勿論、任意のタイミングでレオン達の意思をラーグリフに伝えられるようにするためではあるが、MAYAによる自律航行を行うラーグリフは、必要とあらばいつでもその高レベルiフライト能力を以ってして、追いつき追い越すことが可能なのだった。



 デニス船長とミッカ・サロネン航海士はブリッジに戻って任務につき、他の四名はブリーフィングルームからラウンジへと移った。そこは中央に丸テーブルが備え付けられ、それを囲むように丸くベンチソファが配置されている。丸テーブルの中央には、色とりどりの小さな花の咲いた寄せ植えの鉢が置かれ、演出のためのライトに照らし出されていた。


 壁際にも布張りの大きなソファや、暖炉を模った意匠が配されている。小さな、額縁に入れられた油絵も掛けてあった。華美さはないが、この四人には広すぎるラウンジの存在そのものが、かなりの贅沢だ。


 メルファリアはこの船の主人であり、リサはその付き人であり友人である。そしてレオンは主人の警護役であるから同じくラウンジに居るわけだが、リサが睨むので、丸テーブルの反対側に座ることにした。


 アリスは、メンテナンスのためにプロミオンに乗るのでもなく、インターフェースとしての役目のために、レオンの傍を離れない。地上と違い、宇宙船内は環境が清浄に保たれているので、水さえ補給できれば長期間メンテナンスフリーで居られるのだという。


 興味本位でメルファリアがアリスに質問した。

「水分の補給はお口から? どれくらい必要になるのですか?」


 アリスはちらりとレオンを見、ゆっくりとした口調で返答した。

「必要水分量は活動内容に大きく依存します。レオンが私に対して何もしなければ、私も長い間清浄&正常で居られるのですが」


 メルファリアとリサが、一斉にレオンを見た。

「何もしねーよ! まったく、誤解を招くような言い方をするな」


 きっとわざとだ。最近はそう思えて仕方ない。

 メルファリアはささっと顔をそむけたが、リサは暫く睨んだままだった。

 ああ、どっちの反応も嫌だなあ。



 アストレイアは最新の船というだけでなく、様々に贅の尽くされたラグジュアリークルーザーだ。メルファリア嬢の趣味が反映されて内装は絢爛でなく、明るめの木肌と淡い色合いの布地が多く使われている。座り心地の良いソファから、温かいトイレまで、一見宇宙船とは思えない調度の数々はグラハム兄様のスレイプニール号と同様だ。やんごとなき方々が居心地よく過ごせるように、あらゆる所に十分な広さを与えている。


 宇宙船では、それが何よりの贅沢だったりする。巡航艦としての戦闘能力を備えた船だが、船内を縦横に走る通路は広く、通路というよりは廊下といった趣だ。


 そして、搭載されているアームローダーも最新式だった。

「おおっ! 本物は初めて見た……」

 レオンを唸らせるのにも十分なラインナップが揃っていたのだ。

「これはっ、最上位機AX980!」

 ……乗ってみたい。

 そうだ、操作マニュアルを読ませてもらうくらいは許されるのでは……。


 娯楽施設なども充実しているこの船の中で、レオンが最も心惹かれたのは、実はこの格納庫だった。それから、同じ格納庫の一角には見覚えのある機体が置いてある。そう、レオンが乗っていたあの重機も、置いてあった。


 この度の航海では、通常時はアストレイアに乗り込んでいることになるので、使い慣れたアームローダーを乗せてもらっているのだ。

 生死を共にした、レオンにとっては戦友ともいうべき機体かもしれない。妙な愛着が湧いてしまっているのだ。


「そういや、プロミオンに搭載されているアームローダーは、全部が新品同様の年代物なんだよな~」

「たしかに年数は経過していますが、劣化は認められませんので、問題はありませんよ」

 レオンがぶらぶらと歩いて巡る間、アリスは一緒について回っては終始相槌を打ち、にこにことしていたのだが、アームローダーの現状を答える時には真顔になっていた。


 どうも、百年前、とか年代物、という話題になると、アリスは敏感に反応するような気がする。

「プロミオンは全てが自動化されているけど、このアストレイアもかなり運用人員は少ない様子だよな?」

「そうですね。軍用艦艇がベースではありますが、戦闘行為を主目的としていませんので、戦闘指揮や兵装動作関連を専用AIの実装で代替しているようです。星系内パトロール艦などで一部運用している戦闘システムを、強化発展させて搭載しています」


 星系内パトロール艦などは、基本的に警らが主任務で臨戦態勢になることは稀だから、武力衝突に駆り出される純然たる戦闘艦とは違い、限定的な戦闘体制しか持たない。そういった艦艇には戦術士官を置かず、AIとシステムで代替することがある。


「もともと試作検討のための艦なのでしょう。電子戦闘能力や複数リアクタの協調制御も含めて、少し欲張りな船ですね」

 軍事機密に属するんじゃないかというような事を、世間話のように口にする。どうやって入手したのかについては、聞かないでおこうと思う。それよりも聞きたいことがある。

「最寄りのトイレはどこだ?」

「最寄りのトイレは……」


 乗込んだばかりの船内でも、アリスのナビゲートは完璧だ。どうやってその情報を手に入れたのかについては、やはり聞かないでおこうと思う。トイレに向かおうとするレオンは、アリスは一体どこまで付いて来るだろう、と思って振り返った。

「ついて回りますよ副官ですからね。それとも、介護ロイドだから、と公言したほうが良いですか? キチンとお世話はしますよ?」

 レオンは向き直り、アリスの両肩に手を置いて、ゆっくりしゃべって言い聞かせた。

「副官、って事でひとつヨロシク」


宇宙時代にまず必要なのは疑似重力のような気がしています。


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