表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
58/64

57.治安維持活動

次兄登場。

髪と瞳の色だけはメルファリアとそっくり。


 プロミオンはアストレイアのすぐ横を並航して、敵中央部隊に向かって真っすぐ突き進む。アストレイアの方が重いが、総合出力も大きいので前進時の加速性能はほぼ同じだ。レオンとアリスはアストレイアのブリッジに席を得て着座し、刻々と変化する戦況情報を見続けた。


 メルファリアとリサは一旦は自分たちの船室へと収まったが、どうやら身だしなみを整えたようで、再びブリッジへと姿を現した。高価そうなフレグランスがふわりと香り、レオンの脳裏をくすぐる。それは惑星ノアで、始めてメルファリアに会った時の記憶と同じものだった。もしかしたら彼女なりの戦支度のようなもの、かもしれない。


 メインスクリーン上では、敵の中央部隊の背後にローレンスの艦隊が喰らい付こうというところだ。加速を続けるアストレイアでも、その戦場に到達するにはあと一時間ほどはかかる。

「ラリー兄様は、大丈夫でしょうか?」


 単純にお互いの全戦力値を比較するならまだ二倍以上の開きがあるが、敵中央部隊との局地戦に限れば数値は互角になる。そして戦況データを眺める限りでは、敵はいまだにアストレイアとプロミオンしか捕捉していない様子だ。


 こちらの動きに合わせて遅ればせながらも右翼と左翼を狭めようとしているが、それでも敵の動きはまだ鈍い。こちらが加速してわざわざ敵中央部隊に当たろうとする、その真意を測りかねているのだろう。レオン達の二隻だけでは、敵包囲に自ら突っ込んでも勝ち目が薄いのは明らかだから、この突撃が欺瞞行為だと疑うのはむしろ妥当な判断だ。


「あるいはまだ、あちらさんは指揮系統が混乱したままか?」

 そうこうしているうちに、スクリーン上ではローレンスの艦隊が敵中央部隊を追い越して、減速せずにそのままアストレイアに近づくさまが見て取れた。


 §


 ランツフォート宇宙軍総司令ローレンス・ジェラルド・ランツフォートが座乗するのは、戦艦アーク・ネビュラス。総司令部機能を載せることができる艦艇の中では一番コンパクトで機動性が高く、そうであるが故にローレンスのお気に入りだ。


 時系列は少しだけ遡り、ローレンスの艦隊は今、寮艦に高速戦艦トリエルテと重巡洋艦二隻を従えた四隻が単縦陣をとり、慣性のみで敵中央部隊の後輩に急接近していた。


 敵艦隊の位置を、より先に正確に知り得たのは、アストレイアの戦況データをだいぶ前から逐一受信していたからに他ならない。ローレンスは指揮官席の背もたれにしっかりと体を預けたまま、正面の敵艦隊に関する報告を受けていた。


「ようし、そろそろ奴らもこちらに気が付いたか? まあ、正しい姿は見えていないだろうがな」

 ディスプレイには、敵中央部隊を詳細に観測した結果が3DCGとして拡大表示されている。いずれも船尾をこちらに向けて、戦艦一、巡洋艦二、駆逐艦二、計五隻が横一列に並んでいる。


 真ん中の一番大きいのが、宇宙艦隊戦闘の主戦力たる戦列艦だ。当然のように大出力の艦砲と、特に前方に対して分厚い防御装甲をまとっている。そして機動性は低く、攻撃投射能力は艦の前方向に偏っている。


「割と狭く並んでいるな。まずは敵戦列艦に砲撃を集中せよ」

 最大射程距離に到達したことが伝えられると、速やかに戦闘開始が指令された。

「各艦は砲撃用の陣形を取れ。加速はせず、針路もそのままだ。だから敵戦列艦を排除しないとぶつかるぞ。気合を入れろ!」


 アーク・ネビュラスとトリエルテの二隻から、自身の針路上に存在する敵大型艦に対して激しく迸る光束が伸びる。対艦砲撃用に使用しない中小の砲門にはエネルギーの供給すらされないが、それでもジェネレータはフル稼働だ。


 ディスプレイ上の3DCG艦影が、遅まきながら敵艦隊が回頭しはじめた事を伝える。


 宇宙戦闘艦は大抵の場合、敵に対して正面から相対するよう設計されている。すなわち、正面に多くの攻撃力を投射できるように艦砲は配置され、逆にメインベクターコイルなどの比較的脆弱な動力系統は後方に配置されている。そのため敵に対しては正面を向くべきで、後方からの敵の接近は許すべきではない。


 だが、まだこちらの有効射程距離ではないと判断したのか、比較的コンパクトに並んでいる敵中央の、戦列艦の機動は鈍かった。

「今からここで回頭するのか? 阿保め」


 既に敵の射程内にあるならば離脱を優先するという考えもあろうかと思うが、ローレンスの艦隊は先程まで単縦陣で慣性航行を続けてきたことで、戦力を過少に評価されているようだ。

「砲撃が届いてから気づいても遅いぞ」


 まずは二隻の戦艦から放たれたエネルギーの奔流が、敵の大型艦に集中する。アーク・ネビュラスもトリエルテも、敵大型艦と比べれば単艦あたりの艦砲の門数は少ないのだが、個々のビームの威力と射程距離には、彼我の差はあまり無い。当たればその破壊力にたいした違いは無いのだから、先に多く当てた方が勝利するのは明らかだ。


 ましてや回頭機動中の艦からの攻撃と、まっすぐ直進中の艦からの攻撃では、命中精度にも明らかな差が出る。横腹を見せ始めた大型の艦体に、二隻が全力で発射し続ける砲撃が次々に当たりはじめる。そして、着弾の観測が出来たならば、その後の照準はより正確になる。


「戦列艦を排除するまでは、オーバーヒートしても撃ち続けろ」

 宇宙空間における戦闘では、この排熱の処理が地味ではあるが大きな問題となる。特に艦砲の発射は大きな熱量を発生させるが、蓄熱の増大は機能不全に直結するため、その処理は速やかに行われなければならない。


 戦闘艦の単位時間当たりの攻撃投射能力を向上するためには効率的な排熱処理が非常に重要で、ランツフォート宇宙軍艦艇つまりその製造元のGS社は、熱制御のノウハウに見るべきものがあると言われている。ともあれ、敵戦列艦は百八十度回頭を終えるまでもなく対ビームシールドを次第に食い破られて次々と被弾を許し、その反撃も見当違いの方向に幾条かを放ったのみで、あえなく轟沈、爆散してしまった。


 巡航艦の搭載するサイズの艦砲が有効射程距離に達したのは、それよりも後である。戦列艦の派手な爆沈劇に巻き込まれて他の四隻は陣形を乱したが、その陣形を再度整えるでもなく彼らはめいめいに逃げ出した。


 その動きをスクリーン上で確認したローレンスは、苦虫を噛み潰したような顔で更なる指示を出す。

「……無様だな。各艦は標的を選び敵を殲滅せよ。陣形を乱すことは許さんが、撃ち漏らすことも許さんぞ」


 各艦は、とはいっても総司令部機能の一部たる戦術AIが、効率の観点から各艦に標的を指図するのだが。今や戦力比は大きくこちらに傾いている。

「排除に必要なら対艦ミサイルも使え」

 慣性航行を続けることで大きなベクターコイルを動かさずに済み、排熱処理を効率的に行えた戦艦二隻が砲撃を再開すると、戦列艦の爆沈と共に指揮系を喪失し逃げ惑うだけの敵艦は、もはや大きな標的でしかなかった。


 §


 中央部隊が壊滅したことで、左右両翼の部隊は動きを変え、それぞれにこの戦場から離脱しようとしはじめた。包囲網は瓦解し、プロミオンは盾として使われることもなく、並んだ二隻はそれでもまだ加速を続ける。


 反航するローレンスの艦隊もそのまま慣性で直進し続け、アストレイアとアーク・ネビュラスは五十キロメートルほどの距離を隔ててすれ違う。その相対速度は秒速百キロメートルほど。お互いそれなりの大きさの船ではあるが、目視ではあっという間だ。


「メルファリア、行先の掃除は済ませておいたから、安心してまっすぐ進んでくれ。もう大丈夫」

「兄様、ありがとうございます。あとで改めてお礼に伺いますね」

「今日はメルファリアの元気な姿が確認できたから良かったよ。私はもう少し仕事をしてから帰ろうと思う。いずれ追い付くつもりだから、その時にな」


 アストレイアの進路前方、敵包囲網の中央部隊はもはや跡形もなかった。殲滅とはつまりそういう事で、敵艦は負けを認めることを許されず、全て爆沈・轟沈と相成った。アストレイアは総司令部の指揮下を離れ、プロミオンと共にこのシャンヤン星系から離れることになる。


 止まらず突き進むローレンスの艦隊は、残りの二部隊のいずれかにでも仕掛けるつもりなのだろうか。

「ローレンス様、敵はセヴォール宇宙軍艦艇かと思われますが、これ以上戦線を拡大しても良いのでありましょうか?」


「デニス、貴様は勘違いをしているぞ。俺は船籍不明の賊を相手にしているのだ。これは治安維持活動なのだよ」

「は……、左様でありましたな。失礼いたしました」


 マイケルの乗艦をはじめ敵艦は、その正体が明確にばれているにも関わらず、まだ正体不明を装ったままだった。ローレンスにとっては、とても都合が良い事だろう。

「気にするな。それよりも、今度こそ一緒に飲もう」

「喜んで、御相伴に与ります」


「なんだとデニス、おまえは年少の俺に奢ってもらうつもりでいるのか?」

「当たり前ですよ、総司令官殿。山海の珍味、期待しております、……とレオン君も言っています」

「え? ……ええっ?」

 いきなり名前が出てきたレオンは慌てて、意味のある言葉をしゃべれなかった。


「ふっ、はははは。わかった、楽しみにしておけ!」

 次第にタイムラグは大きくなり、会話として成り立つ時間はすぐに去ってしまった。

 デニス船長は、それはそれは嬉しそうに、レオンに笑顔を向けた。


妹にいいところを見せたくてタイミングを見計らっていた、ともっぱらの噂です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ