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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
55/64

54.ごめんあそばせ。

狩りは貴族のたしなみです。


あと、貴族趣味の成り上がりもやりたがります。

 騒ぎが収まると、まるで様子を窺っていたかのようなタイミングで、宇宙港警備隊が入れ替わりに姿を現した。

「遅すぎます! 騒動の原因はもう去って行ってしまいましたわよ!」


 リサはおかんむりだ。警備隊の隊長に厳しく詰め寄るが、彼はまるで仕事をしようとしなかった。それどころか、アストレイアには速やかに軌道ステーションから退去するよう要請がなされた。退去要請はマイケルに対してもなされたのだが、彼らは既に出航しようとしていたのだ。


「皆にはもう少し休んでいただこうと思っていたのですけれど、仕方ありません」

「喧嘩両成敗だなんて、状況認識がおかしいです!」

 リサはまだ怒ったままだが、デニス船長以下乗組員たちとレオンは諾々と、メルファリアに従って出航の準備に取り掛かる。


「アリス、マイケルの戦力はどれくらいかわかるかい?」

「軌道ステーションに入港しているのは巡航艦が一隻だけです。巡航艦にしてはかなり大型ですけれど」


 マイケルはラーグリフの存在を知らないが、それでもアストレイアとプロミオンを戦力として見ている筈で、自信満々な様子からすればより多くの戦力を従えてきていると思える。

「きっとどこかに待機させているだろうから、マイケルの船とタイミングを合わせて動いた船をピックアップできるようにしてくれ」

「わかりました」


 ふふふ、とアリスの口から笑いがこぼれた。

「実はまだ、この星系内にばら撒いていた観測ポッドを回収できていないのです。ずっと観測していますから時空密度分布のデータもある程度得られていますし、この星系内なら色々な物がかなりはっきり視えますよ」


「いいねえ。じゃあ今回はポッドを回収するのは諦めて、いずれどこかの星に落下突入して燃え尽きるようにプログラムしてくれ」

 レオンはUNP職員だった頃からの、デブリが増えるのを極力避ける思考のままだ。

「はい、わかりました」


 アストレイアは粛々と出港し、ひとまずはプロミオンと合流すべく舳先を向けた。ラーグリフはいつものように、この星系の北天方向に五千万キロほど離れて遊弋している。レオンは観測ポッドの状況を確認したうえで、敵をおびき出すために針路を変えてみたい、とデニス船長に提案した。


「観測中なのだな。わかった。ではタイミングなどは私に任せてもらおう」

 デニス船長は早速ミッカに指示を出す。既に同じようなことを考えていたのだろう。


 だが、彼らの思惑は悪くない方向に裏切られる。

 プロミオンと合流を果たしたアストレイアに、早速にもマイケルから電文が送られてきたが、ご丁寧にも自分達の艦隊陣容と位置を教えてきたのだ。


「メルファリアよ、さあ、私に許しを請うのだ! さもなくば、ひとひねりだぞ?」

 アストレイアのブリッジで、メインスクリーンには各艦の概略データも表示された。


「巡航艦ばかりが七隻もいますな」

 そうは言うが、デニス船長の口ぶりは落ち着いたままだ。

「七隻とも確認できました。中央の大型艦が、マイケルの乗るカンデッピョリュです」


 アリスが、大型艦に関する追加情報を伝えようとする。

 巡航艦としては大型の船体に戦艦並みの大型艦砲を載せた、いわゆる巡航戦艦、または高速戦艦などと呼ばれる類のものだ。一般的な戦艦クラスよりも装甲は薄いがその分機動力があり、巡航艦キラーとしてはうってつけか。


 フォースター社としては絶賛売り出し中の商材のようだが、レオンはやはり詰め込み過ぎだなぁと思ってしまう。これはアストレイアにも言えることではあるが、機能を欲張りすぎた船は往々にして稼働率が低くなるものだ。稼働率が低いと、結局のところ戦力としては小さく見積もらなければならなくなるのは目に見えている。


 ……などとレオンが余計な心配をしているあいだ中、アリスの解説は続いていたらしい。

「他は左から、ウルチョハンビッ、オサンプゲリュダ、プンリョゲ、……」


「アリス、あの大型艦カンデッピッ……」

 言いかけて、レオンが口元をやんわりと押さえた。

「……噛みました?」

「うっさい。おまえは滑舌も良いよな」


「レオンは舌足らずが好みですか? なら、そのようにも出来ますが」

「余計なことはするな。……まったく、発音が難しいから、ABCで表現してほしいゼ」

「ではそれでいこう」

 デニス船長が、レオンの我がままをすんなり受け入れた。なんだか楽しそうな表情だ。


「で、レオン君はどうするべきと思うか?」

 まるで教官のような口ぶりでレオンに問うた。

「そうですね。あの大型艦Aも、他の巡航艦と同じ程度の機動性だろうと思うんです」

「その通りです。少なくともカタログスペック上は」

 レオンの簡単な推測を、アリスがすかさず捕捉する。


 マイケルは、追撃部隊としてこちらの三倍以上の戦力を揃えたと認識しているだろう。巡航艦クラスであるこちらの機動性に劣らぬよう揃えた上で、確実に勝てるだけの戦力を用意したのだ。そして、わざわざ戦力を誇示するからには、こちらが無理に戦おうとせず逃げようとすることも想定しているだろう。


「見せびらかしたのは勢子役で、逃がさないように、他にも射手役の戦力を既に配置しているんじゃないですかね」

「うむ、そうだろうな」

「おそらく、そっちの戦力の方が大きいでしょうから、それよりはマイケルの艦隊を相手にするべきでは?」


 デニス船長が小さく頷くのを確認して、レオンはさらに続ける。

「待ち伏せに追い込もうとする筈ですから、その動きから逆算してはぐらかすべきです」

 デニス船長が両腕を組んでにやりと笑った。

「ふふふ、面白くなってきたな」

 それは今まで見せていた笑顔とは違う、どこか凄味を感じる含み笑いだった。



 アストレイアは進路を変え、ほぼ同時にプロミオンが従う。マイケルの艦隊からは離れ、帰路へと向かう方向だ。すると、こちらの動きを見てすぐにまたマイケルからの電文が届く。

「メルファリアよ、いい加減に目を覚ませ。どうせ私からは逃げられないのだぞ?」


 こちらの動きに合わせて指示が下されたのだろう、ラーグリフの観測網に幾つかの船団が引っ掛かった。連動して動きだし、こちらを囲むように配置された船団が三個あることをアリスが特定したのとほぼ同時に、マイケルからは次の電文が届いた。


「貴様たちは既に包囲されている! フフフ、最後のチャンスだ。俺に対して誠意ある謝罪をし、隷従を誓え! そうすれば、ランツフォート家に対しても賠償金程度で許してやらない事もないぞ」

 同時に、アストレイアの行く手を阻む包囲網の存在をもご丁寧に伝えてきたが、それはMAYAが特定した内容とぴたりと一致していた。


「逃げるのを諦めさせようとしているのでしょうね」

 アストレイアの遥か前方に現れたのは、大型戦艦三、巡航艦六、駆逐艦六の計十五隻からなる三部隊だった。レオンとデニスが考えた通り、やはり待ち伏せ部隊の方が規模が大きい。その戦力は侮れない物量であり、普通に考えれば、巡航艦二隻に対してはもう、やり過ぎと言えるレベルだ。


「メルファリア様に隷従などと要求するとは、とんだ不埒者ですな」

 デニス船長が憤る間にも、矢継ぎ早に電文がもう一つ届いた。こちらが色よい返事を伝えないからだろうが、それを思案に苦しんでいるとでも思っているようだ。


「レオンとかいう男の身柄も保証してやっても良いぞ。おまえが俺の機嫌を損ねたりしない限りはな。もう少しだけ待ってやろう。さっさと己の間違いを認めるのだな」


 名前を出されたレオンは、身柄の保証など微塵も願わない。

「俺を、言う事を聞かせるための人質にでもしようってか? ふざけるな」


宇宙艦隊の陣容は、各国のステータスでもある。

その役目は宙域優勢の確保に留まらず、当然ながら国際政治上のパワーバランスにも直接的に影響する。

人類が人類である以上は、そこらへんはあまり変わらないでしょうね……。

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