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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
50/64

49.最優先事項には含まれない

レオンはそろそろ喉が渇く頃合いでしょうか。

ウェルカムドリンク欲しかったですね。

 レオン達が貴賓室の扉を開けようとするのと同時に、アリスは地上ステーションで足止めされたアストレイアを覆う可動式屋根に、速やかな移動を指示していた。


 屋根の下では小隊規模の武装兵がアストレイアを取り囲んでおり、彼ら完全武装の歩兵には、動物避けの雑音波程度ではさほども効かないであろうと思われた。あちらから先に発砲してはこないだろうが、こちらが動き出したならばどう出るか、は心配だ。


「全部で六十五人ですか。指揮官はどれでしょうね」

 ミッカは各方向の監視映像を見比べながら人数を数え、デニス船長に報告した。身に着ける装備の違いなどから指揮官と思しき個体を絞り込んで、近接防衛用レーザーの照準を追尾させておく。レオンと違い、アストレイア乗組員である彼らは、障害物を一番効率的と思われる手段で排除する事に、ためらいはない。


「この船が汚れないように始末したいですね。でもまあ、まずはレオンの言う事を聞いてあげましょうか?」

「そうだな、まずはやってみよう。うまくいけばそれで良し、いかなければ……」


 ちょうどそこへ、レオンからの連絡が入った。メルファリア様が挨拶を済ませて退出するところだが、妨害が入りそうだ、との事である。デニス船長の見つめるメインスクリーンには、音声のみと示されたレオンのアイコンが映っている。


「可動式屋根は移動させるので、アストレイアはこの星から退去できるように準備してください」

 少しのノイズと共にレオンの言葉が流れると同時に、アストレイアを覆っていた構造物が動き出した。船首方向と船尾方向に分かれ、屋根は近づいてきた時よりも随分と速い速度で元来た方向へと移動して行く。


 これはアリスの指示に基づくので、当然ながら指揮系統からの連絡もなしに行われたその動きに、武装兵たちは戸惑っている様子ではあるが、当のアストレイアが動いたわけではないので、彼らもまだ乱れてはいない。


「それじゃあ、準備に掛かります」

「ああ、よろしく頼む」

 ミッカは目の前のコンソールを睨みながら、船体各所のベクターコイル出力を調整し始めた。デニス船長はミッカに代わって船外監視モニタに目を移し、武装兵たちの動向を横にらみしつつキャプテンシートに座り直した。


 リアクタ出力が上昇し、足元から伝わるほんの僅かな振動の音程が変化する。アストレイアはいま惑星セヴォールの地上に降下着陸しているが、疑似重力と慣性制御機構を稼働させて船内はもはや臨戦態勢だ。


 可動式の屋根も今はもうMAYAのコントロール下で、備える各種センサーは既にアストレイアを測定していないが、先程までのデータを流し続けているので管制局はまだ気づかない。武装兵たちに目を転じると、しきりにどこかへ問い合わせている兵士がいる。あれがきっと指揮官だろうとアタリをつけ、念のためにもう一度ロックオンしておく。


 そうしておいて、通信回線に割り込んで警告音声を流した。全兵士に対してである。

「こちらはアストレイアだ。当船に対する攻撃行為を確認した場合は、自衛の措置を取る。注意せよ」

 警告なので、何度か繰り返すようしばらく流しっぱなしにした。兵士たちにとっては耳障りだったことだろう。


「屋根がなくなりました。いつでもいけます」

 ミッカの発言を受けて、デニス船長は座したまま、乗組員全てに聞こえるように声を張った。

「では、メルファリア様をお迎えにあがる。本船は直ちに垂直上昇し、高度百で一旦待機」


 アストレイアは上向きのベクターコイルと下向きのベクターコイルと両方を稼働させて出力を充分に上げておいた。ベクターコイルは大出力を安定して発揮するが、そのぶん出力変化は穏やかなので、本来は急激な機動には向かない。そこで、相殺するように上下逆向きのコイル同士の出力を上げておいてから、下向きのコイルへのエネルギー供給をカットして空転させた。


 全長二百メートルを超える星系間航行宇宙船が、降着状態から一気に空へと上昇する。とはいえ1G程度の加速でしかないが、これだけ大きな物体が突然に動く事にもなれば、元いた場所には負圧のために大きな乱気流が発生する。


 不規則に渦巻く突風に煽られて、兵士たちは為す術もなく全員が転がりまわった。ぶつかり合ってお互いを傷つけてしまった者もいたようだ。風に巻き上げられてから落下し、それで怪我を負う者もいた。もう警告音声が止まっていたからか、彼らの直上百メートルほどまで上昇して静止したアストレイアに対し、悔し紛れにライフルの銃口を向ける者が現れた。


 反撃などされるはずがないと、と思っていたのだろうか? 今となっては真意を確かめる術もない。

 彼は弾倉を撃ち尽くす前に、アストレイアから射出された近接防衛機構のレーザー光によって焼かれ、その身体はボディアーマーごと幾つかに分割されてしまった。途端に、周囲が鮮血に染まる。そして、それを見た他の者たちは一斉に、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「ばか野郎が……」

 複数のミニター越しにその様子を眺めていたデニス船長が小さくつぶやく。

「小隊長も分隊長も、みんな一目散に逃げだしたな。困ったものだ」


 ちょうどそこへ、レオンから救援の要請が届いた。上空から近づいて、メルファリアを救い上げてほしい、という内容だった。状況は一気に緊迫の度合いを高め、デニス船長はメルファリアの所在をメインスクリーンに確認して、不敵な笑みで睨みつけた。


 §


 レオン達は貴賓室から出て、一旦は来館した際の経路を逆にたどって表に出ようとしたが、アストレイアの状況を確認してからは、方針を変えざるを得ないと判断した。正面玄関方向は、つまり地上ステーションに近い側になるが、そちらでは既にアストレイアの動きが大きな騒ぎになっている様子だ。


「アリス、アストレイアが近づけそうな、広い場所はあるか?」

「逆方向になりますが、かなり広い中庭があります」

 レオンはすぐに、そちらに向かう事に決めた。むしろ逆方向であれば都合が良い。


「アリス、災害警報は出せるか?」

 早足で歩きながらのアリスの返答は、要約すると幾つもの選択肢があるがどれが良いか、というものだった。

「じゃあ、適当に時間差をつけて、幾つも発してくれ。派手に頼むよ」


 正直言って、どれが良いかを吟味している場合ではない。指示が大雑把になるのも仕方なかろう。アリスがこの時点で掌握できた範囲ではあるが、まず迎賓館のかなりの部分で停電が起きた。だが、現代の電力供給網は決して脆弱ではない。大抵は隣接エリアからの代替供給によって数分内には回復する。ただし、それが断続的に幾度も起こればやはり様々な機能に支障をきたすので、時間稼ぎにはなる。


 次に、迎賓館内に火災警報が鳴り響いた。幾つかの場所では自動散水消火装置が働き、防火扉が閉じようと動き出した。更に水害情報が流れて避難警報を発令し、しまいには地震発生を伝える自然災害警報が鳴り響いた。


 アリスのナビゲートによって建物から飛び出した一行は、中庭の中央にあたる、植木が刈り揃えられた庭園に向かって更に走り出す。四人の位置情報は、アストレイアには伝わっているはずだ。


「プロミオンからのアクセスが遮断されてしまいました。敷地内全体にも、通信妨害が張られたようです」

 さすがに不正アクセスは見つかってしまったか。ずいぶん派手にやったからね。


 警報も程なく鳴り止んでしまった。もう少し混乱し続けてくれると良かったんだが。

 レオンが小さくそう言ったのを、アリスは忙しく動き回る中でも明瞭に聞き分けた。

「噴水池の近くの案内端末から、私が直接クラックして時間を稼ぎます。私は大丈夫ですから、皆さんは急いでください!」

「わかった、頼むぜ!」


宇宙空間で機雷やミサイルを安全な距離で処理する近接防衛レーザーは、

地上ではそれ以外のものにも対処するようです。

地上の舗装材質にも光の軌跡が焼き刻まれてしまったことでしょう。

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