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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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47.御挨拶(1)

お・も・て・な・し♡


 ミッカと話し終えたレオンは、さっさとこんな所からはおさらばする為に、アリスと共に速やかに次の行動に移ることにした。メルファリアが挨拶を済ませるまでは大人しくしていようとも考えたが、あちらさんは最初から我々を陥れようとしている。


 機密のたくさん詰まったアストレイア諸共に、もしかしたら全員を捕えようとしているのかもしれない。まさかとは思うが、船ごと行方不明などとされてしまってはたまらないのだが、事ここに至っては、ありえないとも言い切れないだろう。


 アリスはプロミオンの側からバックドアを介してクラッキングを行い、既に幾つかのシステムの制御権限を手にしている。それによって関係する全てのフロアの地図情報を得たので、二人は速やかにこのカビ臭い部屋から出て行くことに決めた。ただし、今の時点ではまだ、建物の外などの情報が一部揃っていない為に、メルファリアと合流した後の逃走経路は思案途中だ。


 ついでに、と思ってレオンはアリスにかなり大雑把なデータの収集を頼んだ。「アストレイア」や「メルファリア」などの自分達に関連するキーワードで引っ掛かる情報を集めてもらおうとしたのだ。とりあえずその検索データはプロミオンに貯めておいて、あとで自分達の事をどれだけ調べ上げていたのかを確認するつもりだ。



「退屈だね」

「そうですね」

 穏やかに頷きあう二人、という映像が監視カメラには映し出されている。


しかしそれは、既に現実とは違った、プロミオンから送り込まれた映像にすげ替わっていた。実際のレオンとアリスは、何事もなかったかのように閉じ込められていた部屋のドアを開け、的確なナビゲーションに従って迷うことなどなく元来た経路を戻って行く。


 途中にあるエレベータは、階数表示もなければ緊急呼び出しボタン以外には何もなく、これも管制室からの制御で動く。それでもレオン達は、さも当然のようにこのエレベータを使って地上階に戻り、更にはより効率的なルートを移動して、メルファリアのいる貴賓室へとたどり着いた。


「案内されたときは、わざと分かりにくい様に、遠回りをしたのでしょうね」

「計画的犯行だな」

 通路の要所要所にある監視カメラに映る映像も、既に差し替えられていてレオン達は映らない。監視室のディスプレイ内では、手持ち無沙汰にゆるりと会話をする二人がまだあのカビ臭い部屋にいるのだ。


 厳重なセキュリティの施された迎賓館内を堂々と歩く二人は、すれ違う者からはむしろ怪しまれなかった。許可無き者は自由に歩き回れるはずなどないのだから。だが実際にはセキュリティシステムの大部分は既にアリスによって掌握され、貴賓室の大きなドアでさえすんなりと開けて、二人は何食わぬ顔で入って行くのだった。


 §


 一方、その広々とした貴賓室へと通されたメルファリアとリサは、「おめでとうございます」という歓迎に戸惑っていた。


 大仰な笑顔を張り付けた女官の一人が、衣装ケースを手にメルファリアに近づく。

「こちらで、パーティー用のドレスをご用意させて頂きました。マイケル様からの御心遣いを、どうぞお受け取りください」

「さあ、お着替えはこちらへ」


 貴賓室には多数の女官が控えており、メルファリアとリサの二人はその勢いに圧倒されかけた。

「わが民族伝統の花嫁衣装です。これを身に着けて、世界最高民族に加われることを至上の喜びとして実感なさってください」


 満面の笑みでドレスを取り出し見せびらかす女官に、メルファリアの口からはつい言葉がこぼれた。

「花嫁衣装、なのですか?」

 同じ言葉を隣で聞いていて、リサは別なところに唖然とした。

「世界最高民族?」


 笑みを浮かべたままの女官は、目の前の二人の戸惑いを正しくは理解できていない。多幸感のあまり嬉し涙を零されでもしたら、衣装は取り換えることになるのかしら、などと考えていたのだ。

「はい。世界中の女性が羨むことでしょう。ですが、感激の涙はマイケル様に直接お会いする時まで取っておいてくださいね」


「わ、私は……その……」

 妙な展開に困惑したメルファリアは、なんと言ってやり過ごそうかと口ごもる。

 見かねたリサがそっと近寄り、メルファリアのひざ裏をひざで押した。カクッ。

「あっ」


「ああっ、メルファリア様!」

 リサはわざと大げさに名を呼んで、バランスを崩したメルファリアをすかさず背後から支えた。

「申し訳ありません、メルファリア様は少々お疲れの様子。しばらく安静にさせて頂けませんか?」


「あらまあ、ふふふ、感極まってしまったのかもしれませんね。まあ、それも仕方ありません」

「……」

「……」



 大きな貴賓室には幾つかのテーブルやソファが設えてあり、その中でも窓際に近いところのソファにメルファリアは腰を下ろした。この大きな部屋には化粧室が付随しており自由に使用できるが、廊下に通じる大きなドアにはそばに女官が立っており、今は外へ出ることはかなわないとの事であった。


 リサが、自分達に一番近いところに立つ女官に何度目かの依頼を投げかけた。

「護衛官のレオンを呼んで頂けませんか」


「かしこまりました」

 とだけ答えて、女官はその場を動かない。どこかへ連絡をしたようにも見えず、かしこまりました、などと言葉だけ返されても判断に困る。


「先ほども呼んで頂きましたけど? レオンはいつになったら来ますか?」

「承りましたが? 何故護衛官の方がいらっしゃらないのかは、わかりかねます」

 その女官は、クレーマーをねめつけるかのような態度でリサを見た。そして相変わらず、一向に動こうとはしなかった。


「ではこちらから、レオンの所へ出向きます」

「それはできません。当館のセキュリティポリシーですから、従って頂かなくてはなりません」


 この女官は相変わらず口だけを動かし、なんとなれば表情もあまり動かないのだ。アンドロイドでもあるまいに。いや、もしかしたらアリスと同様にアンドロイドなのかもしれないとさえ思えてきたが、この時リサは、同列に扱うのはむしろアリスに対して失礼か、とも思った。


 埒が明かないので仕方なく、リサはメルファリアの傍へ戻り、かような状況を伝えた。

「それは困りましたね」

 リサはメルファリアの隣にゆっくりと腰を落とし、顔を近づけた。

「メルファリア様、なにかおかしいですよ」

 可憐な主人の額に手を当てながら顔を更に近づけて、困惑顔のリサが小声で話しかけた。


「ところでリサ、先ほどは本当にびっくりしたのですよ?」

 お嬢様は、ひざ裏を押されるなどという仕打ちは経験が無いだろう。びっくりするよね。

「申し訳ございません。どこか痛みますか?」


「それは大丈夫です。ですが……」

 メルファリアは薄気味悪そうに周囲に視線を向けた。

「ええ。なんとも不思議な雰囲気です。先ほどからずっと、会話が成立していないような気がするのです」


 メルファリアは腰を動かして座りなおした。

 リサは右手と左手の感覚を比べ、もう一度メルファリアの額に手を当てた。

「姫様、少し熱があるようですね。本来はお休み頂きたいところですが……」

 こんなところで倒れてしまっては、先方の思うつぼではないか。


「虚を突かれたと言うか、いきなり花嫁衣装とは驚きました。ですがもう、大丈夫です。この程度の想定外で足踏みをしている訳にはいきませんからね」

「では、衣装の着付けは無視して、このままマイケル様を呼んで頂きましょう」


 願い出ても、果たして呼んでもらえるのかは未知数であったが、メルファリアは今ここで花嫁衣装を着てみようとは全く思わない。衣装自体に罪はないが、今はむしろ嫌悪感すら感じる。もう一度女官に声を掛けようとリサが首を巡らせると、ちょうど廊下とを隔てる大きなドアの半分が小さく動いた。


どんなデザインの花嫁衣装なのか、はちょっとだけ気になるようですよ。



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