43.滞在日程あるいは襲撃計画(1)
いよいよ「敵地」が近づいてきました。
ローレンスからの連絡を受けて、アストレイアでは帰路のフライトプランについての打ち合わせが行われた。本来であれば、帰路には主要幹線航路を選べば良いところではあるが、ローレンスとの会合のためにはシャンヤン星系を通り、往路と同じルートを選ぶことになる。
そして、待ち合わせには時間調整が必要になると思われるので、帰路にもまたシャンヤン星系で停泊することとなった。知的欲求を満たしたいアリスは、同じ惑星への寄港となることを残念に思うかもしれないと考えたが、意外にもアリスの反応は逆だった。
「また帰りにも寄港するのであれば、ラーグリフの観測ポッドを星系内に残しておいても良いでしょうか? 航路の邪魔はしませんし、後で必ず回収しますから。一週間以上連続で観測できると、様々なことが分かるのです」
そう、嬉しそうに言った。なるほど。
たしかに、観測ポッドは帰路に回収できるからゴミを増やすことにはならない。
「わかった、良いよ。むしろアリスに喜んでもらえるとはね」
セヴォールでの滞在日数次第ではあるが、一週間どころか二週間以上観測できるんじゃないだろうか。
この星系の生活文化情報にやたらと詳しくなったところで利用価値はどれほどのものかとレオンは思うが、アリスにとってはあらゆる情報が等しく知的好奇心の対象となるようだ。
全銀河探査船のコントロールAIであるMAYAがそうさせているのかもしれない。
「ところで、セヴォールでの滞在はどのようにお考えですか?」
デニス船長が、メルファリアに問う。
この件に関しては、メルファリアの意向次第だと思うのだが、当のメルファリアがなかなかはっきりしなかったのだ。しかしもう、惑星セヴォールのあるチェリルジュ星系までほど近い。
「できれば挨拶だけで済ませて、すぐにお暇したいのです」
メルファリアの言い分は変わらない。だが有名人の訪問となると、そう簡単にもいかないだろう。先方に対して伝えようとしている内容が婚約の破棄だから、滞在したくないのもわかるけどね。
「では、最長で三日としておきましょうか」
まあ、為政当局者の訪問でもそれくらいの日数で済ますことが多い事を考えれば、デニス船長の目算は妥当なところだ。長居はしたくないだろうが、目算に対してメルファリアも特に異議を挟むこともない。
では、と滞在日数を最長三日と仮定した上で様々な予定が組み立てられていった。
惑星セヴォールにはアストレイアで降下することになるが、下船して先方を訪問するのはメルファリアの他は三名。つまり付き人のリサ、警護役のレオンとアリスだ。見た目には威圧感も凄味もないレオンが警護役ということで、周囲からはやや不安視されているわけだが、警護される当人メルファリアは至って堂々と「大丈夫です、心配ありません」と言い切った。
そう言ってもらえると、レオンとしては嬉しいが。
メルファリアだけでなくレオンもアリスも、その重責をちゃんと自覚しているのかがイマイチ窺えず、リサは内心真剣に、せめて自分がしっかりしなければ、などと意気込んでしまう。
威圧感のない警護役を慮って、というわけでもないが、惑星ザルドス上での顛末を知るミッカがこちらの手の内を知りたがった。
「レオンは儀体で乗り込むのか?」
「いや、どうせ武装して乗り込めるわけじゃないから、生身で行く。シンクロリンクに妨害が入る可能性もあるしな」
ついでに、レオンの頭の中ではアバター酔いの悪夢が一瞬だけ蘇ったりもした。
乗込むとなれば、そこは当然ながら「あちらのフィールド」であるわけだ。アリスは自律して動けるが、レオンの儀体の場合はあくまでもプロミオンで眠る本体とのデータリンクが必要になる。何らかの通信障害などによりデータリンクに不具合が出ると、当然レオンの儀体は動けなくなるわけで、警護役としてはそういった事態は断じて避けたいのだ。
ミッカは、見分けがつかない程にソックリであるレオンの儀体を一度見てみたいと思っていて、目にする機会を狙っているのだ。
「そうか、残念だな」
そのレオンの儀体は、今はシンプルな専用衣のみの状態で、アリスのそれの隣にある専用タンクベッドの中に安置されている。見た目は本物のレオンと見分けがつかないので、安置という表現がぴったりだ。
「戦争に行くわけじゃあないんだぜ? あくまで挨拶なんだから、荒事にはならないんじゃないの」
レオンは楽観的な見通しを語ったが、それはもう見通しというより、ほとんど願望だった。婚約者を海賊に拉致させようとするような男が、最後まで紳士的に振る舞うかは、かなり怪しいとみるべきだ。だが、だからこそ、不測の事態に備えるために儀体は使えない。
ただしその上で、様々な対処をアリスと共に模索中である。生身のままでもアリスと連携が取れるように、コンタクトレンズ型ディスプレイと耳栓型レシーバ、口腔内貼り付け型マイクを用意した。
コンタクトレンズとマイクは、涙と唾液に含まれる無数のナノマシンによって随時電力を供給されて稼働し、耳栓型レシーバは電池込みでも詰め込むタイプの耳栓と同じ大きさしかない。これは儀体で作戦行動をとった時の便利さを実感したレオンが種々のアイテムを吟味し、アリスのインターフェース能力の一部を借りて構築したシステムである。
婚約者の家を訪ねるのって、大変ですね。




