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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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39.快気祝い

高性能な儀体も、良い事ばかりじゃないです。

健康な肉体が一番です。

ごはんも美味しいし。


「あれ、しばらく見ないうちに太ったんじゃないか?」

 レオン達がアストレイアに移乗して、最初に声を掛けてきたのはミッカだったが、そのセリフはレオンの心に鋭く深く、ぐさりと突き刺さった。ミッカは挨拶がわりの単なる冗談のつもりで言ったのだが、身体の運動不足を自覚していたレオンは大いに狼狽した。


「そ、そーかな? そんな事ないと思うんだけどなー、ははは」

 ミッカがさっそく怪我の個所を見せろと言うが、そもそも傷跡はない。確かにへそのすぐ横あたりだったが、跡の残らないように怪我は綺麗に修復されている。


「深く刺されたので小腸には傷跡が残っているかもしれませんが、表面には残さないようにちゃんと手当てしましたから」

 レオンの代わりにアリスが説明し、かわいくウインクまでしやがった。


 世の中にはわざわざ傷跡を残そうとする人もいるらしいが、レオンにそういう趣味はなかった。後からでも再生医療の応用で傷跡は消せるので、ひとまず残しておこうとする輩が世の中にはどうやら存在するらしい。


「格闘家は故意に残して凄味を効かせるとか、自分への戒めにするとか、あるらしいぜ。レオンもあまり無茶しないように、戒めとして残しておいた方が良かったんじゃないか?」

「レオンはもっと自分を大切にした方が良いという意味合いでは、私も賛同します」


 二人の視線がレオンに集まる。まあ、心配してくれているのだ、と好意的に解釈しようと思う。

「ああ、わかっているさ」

 だけれども、もう一度同じシチュエーションに出くわしたとしても、また同じように立ち向かってしまうと思う。レオンは小さな嘘を心の中で詫びつつも、何食わぬ顔でそのままメルファリアへの報告に向かった。


 §


 ラウンジで復帰の報告を受けたメルファリアは、レオンの怪我の完治をたいそう喜んでくれて、パーティーを開こうと言い出した。

「レオンには感謝の言葉もありません、ぜひ皆でお祝いしましょう」

 と、とても嬉しそうに言ってくれるのだ。お断りなどできる訳がない。


 星系間航行宇宙船による外洋航行の間には、船内で過ごす日々に変化や彩りを求めて、よく小さなきっかけでもパーティーを開いたりするものだ。『食事』に飢えていたレオンは、太ったんじゃないか、などと言われたことをすっかり忘れて気持ちが高ぶり、嬉しさのあまり思わずメルファリアに抱きつきそうになって、リサに防がれた。


 目にも止まらぬ速さで二人の間に割って入ったリサが、手刀をレオンの喉元に突きつける。

「こら。調子に乗るんじゃない」

「……すみません」


 目の前に割り込んできたポニーテールが乱れていたので、メルファリアはそれを手ぐしで整えて、自分より小柄な両肩に優しく手を置いた。

「リサったら、程々にね」



 パーティーは次の進路変更ポイントに到達したときに合わせて、一旦停船して乗組員全員参加での開催ということになり、その準備の際にはアリスも駆り出されることとなった。レオンは主賓ということで準備には加わらないが、アリスは俄然乗り気で、体験を通じての知識の収集に積極的だ。


「レオンはおとなしく、昼寝でもして待っていてくださいね」

「むしろそのまま、ずっと永眠してくれてもかまいませんよ。パーティーは私達だけで楽しみますから」

 リサが物騒な事を言う。


「おいおい、俺の快気祝いだろうが。()()()()な」

 レオンがそう言うと、意外にもリサがはっとして、少々気まずそうな顔をした。

 どうやら、ぶしつけという言葉に効果があるようだ。不躾となると、主人であるメルファリアに責が及ぶニュアンスになるからか。レオンに対する口の悪さは相当なものなのに、妙に真面目なところもあるものだ。


 §


 ともあれ、レオンの回復を祝うパーティーは無事に行われ、何を思ったかアリスはリサとお揃いの給仕服を身に着けてかいがいしく働き、メルファリアからも大いに感謝された。


 肉料理よりもデザートの方が量も種類も豊富だったのはリサの好みによるものだと思うが、それらは全て既製品ではなくリサの手作りとのことで、果実をふんだんに使った鮮やかさはなかなかに見事なものだった。断面にイチゴが綺麗に並んだタルトの小さな一切れを口に放り込むと、高級そうなイチゴは見た目以上に甘い。


「ふむ。毒が入っているのは言葉だけなんだな」

 ひと通りの毒見を済ませてそう言うと、アリスが手作りした菓子に関するうんちくを述べ始めた。リサの監修の下、菓子作りにもアリスが大いに貢献したのだとか。


 お腹いっぱいのレオンはアリスの語りを聞き流し、珈琲を頂こうかと辺りを見回していると、やけに機嫌の良さそうなミッカ・サロネンが近づいてきて、レオンの肩を派手にばしばしと叩いた。

「よおレオン、良いパーティーだな。これからも時々怪我をしてくれると、有難いねえ」

 ミッカは非番なのだろうか、酒が入り程よく酔いが回っている様子だった。

「お断りだばかやろう」


 もうすぐ、目的地である惑星セヴォールへの航程の三分の二を超えるところだが、先はまだ長い。何かにかこつけて、またパーティーが開かれることもあるだろう。気をつけねば、と言って腹部を押さえたのは怪我のことを思い出したのではなく、余計なぜい肉を付けないように、との思いからであった。


ミッカ・サロネンは名前の通り北欧系です。

この時代でも北欧系、と言うかどうかは疑問ですが。

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