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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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34.リサの分析

本来フライトプランは効率第一なのですが、そうでない時もあります。

 海賊退治と相前後して、マイケル・リーからはメルファリアに対して返信メールが届いていた。


 道中には危険な箇所があるから護衛の船を寄越す、との連絡が来たのだが、それをメルファリアは丁寧に断った。実のところはこれもマイケルがメルファリアを捕らえるために遣わそうとしたもので、航路とフライトプランを聞いてきたのだが、それらについては全く伝えずに言葉を濁したままにしてあるそうだ。


「それでも、返事の発信元がザルドスであることは調べればわかります。ですから一般的な航路は避けて、少し遠回りをしましょう」

 デニス船長もミッカ・サロネンも、嫌な顔ひとつせずフライトプランの構築にレオンの意見を取り入れてくれた。足取りを誤魔化すには、なるべく寄港しないことである。


 スピンクスが情報の対価を得て去り、当初の予定通りの休暇時間を経てからもメルファリアたち四人はアストレイアに移乗せず、バーチャルミーティング機能でフライトプランを打ち合わせた。アストレイアのブリーフィングルームでは、メインスクリーンにザルドスから目的地であるセヴォールへの、幾つかの航路パターンが映し出されていた。


 幸いにというべきか、アストレイアもプロミオンも戦闘行動を経たが、実体弾頭などの補充を必要とする物資をほとんど消費していない。であるから、ランツフォート宇宙軍の補給拠点を経由する必要も今のところはない。


 通り過ぎる予定の星系の数が少し増えたのを並べ眺めて、アリスは随分と楽しそうにしている。


 フライトプランがまとまり、アストレイアが動き出すと、それに合わせてプロミオンが適度な距離を保ちつつ併進する。ラーグリフはやはり光学センサーの範囲外を後から付いて行く。


 レオンはまだ儀体のまま、アリスと共にブリッジに居た。星系内でもここはまだ恒星からさほど遠くない、第4惑星の公転軌道よりも内側だから恒星の光が十分に届き、並走するアストレイアの外観が観察できる。


サブスクリーンにアストレイアを拡大表示させながら、レオンがアリスに話し掛けた。

「まったく、セヴォールに着く前にアストレイアに傷がつかなくて良かったよ」

「そうですね」


 しばしの沈黙。

「レオン? プロミオンの心配もしてくれても良いのですよ?」

「えっ、ああ、うん、そうだね。プロミオンも、そしてアリスも何ともなくて良かったよ」


 するとアリスは意外そうな顔をして、それからレオンに向いて諭すように言い聞かせた。

「私の心配までしていただけるのは嬉しいのですが。私が言いたいのはそうではなくて、レオンはもっと自分の心配をしてほしい、という事です」

「あー、そういうこと」


 ぷしゅー、と小さな音がして連絡路への扉が開き、リサが姿を現した。

 いつ頃アストレイアへ移乗するのかを聞いておく必要があったので、ちょうど良かったとレオンは思ったが、何かを言い淀む様子のリサを見かねてまずは軽く声を掛けた。


「リサさん、プロミオンの乗り心地はどうですか? 至らないところは申し付けてくださいね」

 しばらく使っていなかった営業スマイルを、久しぶりに行使してみた。

「え、ええ、問題はありません。あのう……」

「はい、なんでしょう?」


「ええと、騎士レオンにお話ししておかなくてはならない事があるのですが、いまお時間を頂いても宜しいでしょうか?」

「大丈夫ですよ。どうしたんです、改まって?」

 リサはレオンの前で立ち尽くしたままだった。


「ええと、つまりその……、私は、あなたの事を誤解していたようです」

「誤解?」

「ええ。私はあなたの事を、まぐれを実力と誤解しているお調子者、或いは人を騙すことに長けた嘘つき、のどちらかだと思っていました」


 あー、それは確かに誤解です。むしろ過大評価と言ってもいいでしょう。

「あはは……」

 流石のレオンも苦笑いをせざるを得ない。


「そう、それです。その、すぐに出てくる笑顔が……怪しいと思えて仕方なかったのです」

 はっ、としてレオンは慌てて表情を引き締めた。

 営業スマイルは、どうやら逆効果だったようだ。


「ですが、ザルドスの街で襲撃されたとき、貴方は確かに、傷つきながらも自分から手を伸ばしてメルファリア様を守ろうとしました」

 レオンの代わりに、隣で一緒に聞いていたアリスが大きく頷く。


「撃退できるのが一番ではありましょうが、それが叶わないときに為すべき事を、貴方は実践しました。それは、頭では理解できていても、なかなか出来ない事です」

 リサはレオンに対する自身の第一印象をメルファリアに伝えていたが、彼女はとりあわずにレオンをよく観察するようにと命じていたのだ。


「その後も様々ありましたが、結果としてメルファリア様は無事でした。ついては、私からも改めてお礼を言わせて頂きたいのです」

 リサは、レオンに対してゆっくりを頭を下げた。


 そうして顔を上げたリサはもう、思いつめた表情ではなかった。

「それから、同じように自分はできるかと自問した時に、貴方に対しこれまでの言動を詫びねばならないと思いました」


 レオンも、姿勢を正して応える。

「いいえ。リサさんの指摘は尤もでした。おかげで自分を捉え直す良い機会を得たのだと思っています」

「……そうですか」

 リサはほっとしたようだ。心なしか頬が緩んだように見て取れる。


 声を明るく切り替えて、レオンがリサに聞く。

「リサさんに、仲間として認めてもらえた、って事だよね?」

「それは、はい、そうです」


「じゃあもう、メルファリアさんに近づいてもいいよね?」

「は……」

 今だ。今しかない。そう思ってレオンは念押しした。

「ね?」


「そ……、それとこれとは別です! もしも姫様に触れようなどとしたら、ええと、切り落としますよ!?」

「切り落とすって……、具体的で怖いよ、リサさん」


 そこに、アリスが笑顔で会話に割り込んできた。

「大丈夫ですよ。もし切り落とされても、ちゃんと元通りに直しますから。今回の件で、レオンの内部構造、免疫関係や体質、治癒力などのデータも取れましたので。そうだ、ついでにその時こそ、大きくしてみますか?」


 大丈夫、って言うか、ソレ?

「おい、なに楽しそうに話を進めてるんだよ。ってか、何を切り落とすつもりだよ!?」

 だが、アリスは全く動じない。

「何をって、それはつまり……」


「いやいい、黙れ、説明すんな」

 しーん。

 でもやっぱりアリスは動じない。

「どうしました? お二人とも顔が赤いですよ。あ、いえ、黙ります、はい。……うふふ」


 失言だったかと少し後悔しているリサと、余計なツッコミを入れてしまったなと反省したレオンは、しばしお互いの苦笑いを見つめ合うこととなった。


儀体は切り落とされたりしませんけどね。

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