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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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33.婚約者の裏の顔

世の中には、まさかと思うような偶然ってのがありますよね。

信じたくない偶然もあれば、何か理由があるのではと思えて仕方ないものもあったり。

太陽と月の見掛け上の大きさとか。

 エマリーからメルファリアに手渡されたメモリチップは、すぐさまレオンに託され、実際の分析はアリスが請け負った。

MAYAに解析を任せながら、ラウンジではリサからお茶が振る舞われた。

「今回提供するデータは、アシッドクロウに関するものと、アシッドクロウとマイケル・リーとの関係性を中心に洗い出したものだよ」


 エマリーはお茶を一口含み、喉を潤してから先を続けた。

「まだこの星系にいるうちに、追加のデータを渡したいと思ってさ。だから分析はまだ甘い部分があるんだけど、少し時間をかけて解析すればいろいろ浮かび上がってくるはずだよ?」

「そうですね。二つの異なる分析が一致する部分は、確度が高いと言えるでしょうね」


 二つの、という言葉にエマリーはすぐ反応した。

「他にもデータマイナーを雇っているのかい?」

 そう言いながらエマリーの視線はレオンにまで向いた。

「いいえ。全く別の分析結果なんです。だからこそ、一致する部分の情報は信頼できると言えると思います」


 メルファリアの視線も、エマリーを追うようにレオンへと向かう。

「ふーん。まあ確かにそうだね。つまり、分析結果次第ではアタシの信頼性も高まるってことだね?」

「ええその通りです。と言いますか、元から信頼していますよ」

「ふふふ、ありがと」


 二人の視線を集めたままだったレオンはまだ何もしゃべらず黙っていた。

 ……なんだろう、このプレッシャーは。

 レオンが視線に圧されていると、アリスが歩み寄ってきて一次解析の結果が出たことを伝えた。

「では、まずは現時点での解析結果ですが、アリスから要点をお伝えします」



 偽カムナンサン号が、まだ建造計画しかないはずのステルス戦闘艦であることは既に推察した通りだ。フォースター重工製の戦闘艦艇であるこの艦には、GS社が独自技術としている幾つかのステルス関連機構が搭載されていた。GS社の独自技術である先端ステルス技術、つまり、アストレイアにも搭載された機能に関する情報のうちの幾つかが、フォースター重工に流れていたのである。


「産業スパイが盗んだ新技術の効果のほどを、海賊を使って実地検分しようとしたのでしょうね。その意味でも逃がさずに済んだことは良かったと思います」

 マイケル・リー個人はメルファリアを拉致する手段として、そしてフォースター重工としても技術開発、というより技術剽窃の一環として、海賊アシッドクロウに最新の試作戦闘艦艇を貸し与えたということだ。


 偽カムナンサン号の最後の挙動については、フォースター重工製フリゲート艦チョムデワッ級のシステムバニッシュシーケンスと同一であることが分かった。本来は機密事項なのだろうが、過去に同級艦艇が些細なミスによってシステムバニッシュシーケンスを起動してしまう事故があり、面白おかしく報道されていたのだそうだ。


「その時は軍事演習中であり、犠牲者などは出なかったようですが……その時の報道内容と状況が一致しています」

 逃げ切れるつもりでいた事からして、消去コマンドとは知らずに実行したのだと思われ、予め証拠隠滅のために偽られていたのであろう。おあつらえ向きと言って良いのかどうかはわからないが、宇宙海賊としてはとにかく間抜けな最後になった。ただし、同情はしない。


 そのアシッドクロウは、首尾よくメルファリアを拉致したならば、この星系で依頼主にメルファリアを引き渡すことになっていたようだ。メルファリアがスピンクスと落ち合おうとしたのも、この星系に関するそんな偶然の一致は、ここがトーラスとセヴォールのおよそ中間に位置しているからだ。


「偽カムナンサン号は、マイケル・リーの一存で機能を停止したことでしょう。海賊アシッドクロウは、マイケル・リーに退治されることになっていました。」

 白馬の王子様が現れて、華麗に姫を救出する。とまあ、そういう筋書きだ。



 皆黙って聞いていたが、アリスが要点を伝え終えた後も、しばらくは黙ったままだった。

「ふう」

 とため息をつき、レオンがやれやれといったジェスチャーを交えて目を閉じた。

 メルファリアは渋面で、視線はテーブル上の何もないところを凝視していた。

「私を篭絡するために? ……それに私とて、夢見る乙女ではありませんよ? 囚われたとしても、いったいどうやって私を意のままに動かそうというのでしょう」


「それはまあ、色々と、非合法的・非人道的手段はあるよ? 知りたいってのならアタシが詳しく教えてあげてもいいけど……」

 エマリーが胡乱な目をメルファリアに向けた。

「気分が悪くなっても知らないよ?」



 マイケル・リーに対しては、トーラスを出発する際に先方を訪ねる旨を伝えてある。その連絡は、もう既にセヴォールに届いていることだろう。

 そこで伝えたのは、メルファリアが直接訪ねるということのみ。婚約の破棄についてはその場で直接伝えるよう考えている。


 メルファリアは、自分の人生について考え直したい、遠回しな表現で彼との婚約についても考え直したい、という趣旨の手紙を以前に送っていたのだが、マイケルはそれが本心とは信じられない、直接会って話がしたい、二人の将来について共に語りたい、と返事をして来ていた。

 タイミング的には、これが発端となってメルファリアの拉致を狙ったことになる。


「少なくとも、彼の文面からは真摯さが読み取れました。ですから、これほどに悪辣な人物であるとは信じられなかったのです」

「俺もこれだけ性悪な人間がいることに驚いたよ。人間の悪いところを寄せ集めて固めたような奴だ」


 メルファリアさんを幸せにできるとは到底思えない、とレオンは心の中だけで呟いた。なぜか瞳を潤ませたリサが、メルファリアに歩み寄りそのまま抱き付いた。メルファリアも頭をリサに預けて目を閉じ、唇だけを小さく動かしてリサにだけ聞こえるように声をかけた。


 メルファリアとレオンの言葉をそれぞれに聞いたうえで、エマリーは渋い表情をした。

「そうかい? あんたたち、揃っておめでたいんだね。それで直接セヴォールに乗り込もうってんだから、先が思いやられるよ」


「おめでたい、ですか」

「ああ、そうさ。姫さんの周りにズルい奴はあまり居なかったんだろうけど、少なくとも騎士殿は立場からしてもっと見聞を広めなきゃいけないね」

 エマリーはメルファリアよりもむしろレオンに言葉を向けた。


「いい? 人を騙すことに罪悪感を感じない、確信犯的な奴は、とても厄介だよ」

 エマリーの鋭い視線が、レオンに突き刺さる。

「肝に銘じます」


性善説とか性悪説ってありますよね。

あれって、DNAがカギを握るってことになるんですかね?

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