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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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32.ラグランジュ・ランデブー

ラーグリフには、あらためて距離を取ってもらってます。

基本的に、いつも星系の北天方向に位置するようにしています。


 プロミオンとアストレイアはそれぞれに太陽から離れたうえで、可住惑星ザルドスの公転軌道よりも外側のポイントでランデブーを果たした。デニス船長の方からプロミオンに移動して報告いたします、との申し出があり、時間まで指定してきたこともあってメルファリアは船長の勢いに押されるように了承した。


「私たちがアストレイアに速やかに移動する方が良いかと思っていたのですけど、何か理由があるのでしょうか?」

「きっと、メルファリア様がお疲れであろうと慮ったのではないでしょうか。デニス船長は思慮深い紳士でありましょうから」


 そんなメルファリアとリサの会話を聞きながら、レオンは内心で確信していた。

 デニス船長は、プロミオンを見てみたいに違いない。

 船乗りなら、自分の乗る船だけでなく、他の船にも興味を持つはずだ。これは俺だけの感情であるはずがない、と思う。多分。いっそ、ラーグリフも見せちゃおうかな。


「どうしてレオンがそわそわしているのですか?」

「え、……そうかな」

 意味もなくぎくりとして、レオンは心もちトーンを落としてそうかな、と言ってみた。同じような考えを持つ”同志”ならば単純に喜ばしいじゃないか。


 差支えない範囲で最大限プロミオンを紹介しようと思う。これは悪だくみというほどの事じゃあない。けどこの気分を説明するのは面倒そうなので、レオンは事実を混ぜて適当に誤魔化すことにした。

「デニス船長に渾身の珈琲を淹れようと思って。喜んでもらえるといいんだけどな」

「へええ、案外、サービス精神が旺盛なのですねぇ」


 紅茶派のリサはジト目で型通りの皮肉を言ったが、レオンとしては意に介す必要もない。自分も飲みたかったので、ザルドスの街で手に入れた地場産の豆で早速準備に取り掛かる。今はまだ儀体で過ごしているのだが、珈琲の価値はその半分が香りだとレオンは勝手に思っている。だから、飲めなくともそのふくよかな香りを感じて珈琲の半分を楽しみたいのだ。


 ロナルド・デニスはプロミオンに乗り込み、まずは主であるメルファリアに対してアストレイアの点検完了を報告した。それからアストレイアの初戦闘の経過を報告し、レオンとアリスを交えての戦闘行動全体の総括を行った。そして、限界まで観測し続けた敵艦の状態を分析した結果を提示し、恒星への落下突入による消失を確認した。


 レオンが振る舞った珈琲を、ロナルド・デニスは嬉しそうに頂いた。

「スパイシーだね。私はそれほど珈琲に詳しいわけではないのだが、美味しいね」

「喜んでいただけて何よりです」


 デニス以上にレオンは嬉しそうだった。あわよくば珈琲党を増やそうとの野望に静かに燃えているので、サービス精神も盛り上がろうというもの。ロナルド・デニスからのプロミオンに対する質問には、アリスも動員して出来得る限りの回答を用意したり。そんな姿がリサの目には、あからさまに媚を売っているようにも見えたようだ。


 アストレイアもプロミオンも戦闘行動後であるため、現状のまま二日の休憩をとり、その後改めてフライトプランを練ることとした。せっかく様々な荷物を持ち込んであるので、メルファリアとリサはこのままプロミオンで休憩を取る。


 ロナルド・デニスはアストレイアに戻るが、もっとプロミオンの中を眺めていたい様子であった。

 わかります。

「次の機会にはデニス船長に滞在頂けるように、船室を整えておきます」

「ああ、楽しみにしているよ。では私は酒でも用意しようか」


 

メルファリアからの最大限の賛辞を他の乗組員たちに伝えるべくロナルド・デニスがプロミオンを去ると、入れ替わるようにスピンクスからの連絡が届いた。新たに確認できた事柄があるので、その情報を提供したいとのことであった。ちなみにそれらの情報は無償ではない。こちらが欲しがることを見越しての売り込みであり、データマイナーとしてはごく普通の、単なるビジネスであった。


 こちらはこちらで、いらないと思えば売り込みを断るだけだ。ほしいと思う情報を欲しいと思うタイミングで提供してくれる、と判断するから情報を欲しい者は金を払う。データマイナーだって信用第一なのだ。いや、情報の価値基準はとても曖昧だから、信用はより重要であるともいえる。他の顧客に対してどうであるかまでは知らないが、ことメルファリアに対して、スピンクスは誠実なビジネスを続けていた。


 そんなわけで、メルファリアは二つ返事でスピンクスの申し出を受け入れた。

「プロミオンでお会いしましょう」

 プロミオンには今レオン達四人だけがいる。全員既知だからスピンクスとしても余計な気を回さずに済むので、ありがたいとの回答だった。


「ただし、プロミオンに関する情報収集は厳禁ですよ?」

「わかってるよ、騎士さん。あんたたちのフィールドじゃあ、アタシ等は敵いそうにないからね、おとなしくするさ」

 勝てそうならやる、ってことかね。……まあ、そうなんだろうな。


 レオン個人宛のメッセージには、例の情報漏洩の件は調査続行中であり、まだもう少し待ってほしいとの内容が記されていた。黒幕はほぼ確定できたとはいえ、どこまで繋がる案件なのか、できれば全容を知りたいとレオンは考えている。


 揃って遊弋中の二隻の巡航艦にスピンクスが接近し、エマリー達を載せた連絡艇がプロミオンに収まる。他に人員もいないのでレオンが出迎えて、エマリー達三人を案内する。

「へええ、随分と隅々まで綺麗だね。あんた、綺麗好き男子かい?」


 そんな区分があるのかと内心ツッコんだが、このプロミオンの小綺麗さを説明するのは面倒だ。百年前の船ですがほぼ百年間未使用でした、しかも正式な乗組員はレオンだけです。更に、いつもはアストレイアに出張しているのでこの船はほぼ無人です。などと言えば、更に疑問を投げかけられること請け合いだ。


「俺のプロフィールも、詮索は厳禁ですよ?」

「アハハ、そうかい。じゃあ意外と脛毛が濃いのも知らなかったことにしておくよ」

 後半は小声だった。

 なんですと?


「……ご配慮、痛み入ります」

 まさにこの時、スピンクスの持つレオンのプロファイルデータに「脛毛の濃さを気にしている」という一文が書き加えられた。実際に脛毛が濃いのかどうかなどエマリーが知る筈もなく、レオンは乗せられただけなのだが、人物像というデータはこういったものの集合体で形成される。


 エマリー達がこの船を退去するまでには、もっと幾つもの情報を得られてしまうのかもしれない。

 やはり、エマリーはレオンよりもずっとしたたかだ。

「騎士さんはさぁ、勘の鋭さはあるようだけれど、まだまだ脇が甘いね」

 とズバリ評されて、レオンはしばらくクエスチョンマークを瞬かせながら通路を歩くことになった。


そういえば、レオンはまだ儀体ですが、脛毛の濃さも忠実に再現しているはずですね。


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