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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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29.口の悪い輩に鉄槌を(3)

アストレイアが活躍します。

レオンはお茶を飲んで過ごしていますが、プロミオンとラーグリフとアリスは仕事をしています。

「スライヴァーの射撃も含め、口頭での指示は行わない。タイミングがシビアだからな。自動カウントダウンの後は、先ほど定めたタイムテーブルに従って手順をこなせ」


 アストレイアのブリッジでデニス船長がそう指令し、各乗組員がそれぞれに短く返事をすると、その後しばらくは小さな電子音だけがブリッジ内を賑わせた。皆それぞれに己の作業に集中し、デニス船長は肉眼では見えないはずの敵艦を見据えるようにして状況を見守った。


 今はもうベクターコイルは空回り状態で加速力を失い、代わって”スライヴァー”にはリアクターからのエネルギーが集中して送り込まれる。ラーグリフとのデータリンクからは随時あふれるほどのデータが流れ込み、恒星の重力によるビーム軌道への影響などもリアルタイムで再計算が行われて補正が続けられている。


 幸いに、敵艦の針路は変わらず予測の通りだ。

 戦術AIによる合成音声が、カウントダウンを開始する。中性的な、戦場にはあまりそぐわない落ち着いた声だ。戦況表示の片隅で数字がゼロになり、これまで試射しか行ったことのない二門のロングレンジビーム砲が、最大出力で撃ち出された。


 アストレイアは隅から隅まで正常に機能し、高エネルギーを載せた粒子の束が加速器を経て射出され、敵艦の到達予測地点へと吸い込まれていった。


 第一射発射完了と同時に予め定められた通りにエネルギー経路が切り替えられ、砲身コイルの冷える間もなく第二射が撃ち出される。ビーム発射時の振動と騒音を軽減させるレゾネータが警報を発して許容温度を上回ったことを伝えたが、デニス船長は無言のままはるか遠くの敵艦を睨んでいた。


 第三射のために再度エネルギー経路が切り替えられる。

 冷却溶媒の流動性を上げると共に、一射目、二射目で使われたリアクターの出力は下げられて発熱を極力抑える。船体全体で放熱を引き受けつつ、三射目もまた最大出力で撃ち出された。


 ”スライヴァー”二門を三斉射することで放たれた合計六条の光束は、その威力を徐々に減じつつも全て敵艦にまで到達した。


 最初の二条はいずれも敵艦の装甲を掠め、幾つかのセンサーを破損させた。

 二射目のうち一条は敵艦を捉え、ビーム偏向シールドにより減殺されつつも表面装甲を焼いて多数の小さな孔を穿ち、戦闘能力を維持するための複数の機能にダメージを与えた。


 そして、最後の斉射のうち一条はシールドによる偏向で別な装甲を掠め焦がしたに過ぎなかったが、もう一条が既に焼かれた箇所を直撃した。亜光速で到達した高エネルギーのプラズマが既にダメージを負っていた装甲を裂き、艦体内に殺到し荒れ狂う。艦体を構成する様々なマテリアルが、大きなエネルギーを叩きつけられて爆発的に反応し形質を失っていった。


 一瞬よりももう少し長く、アストレイアからもその反応光が観測でき、攻撃の命中を直接に確認できた。


 乗組員たちは各自の作業に集中したままで、戦術AIの穏やかな声だけが作戦の途中経過を伝える。

「砲撃終了。減速工程に移行しました」

「敵艦の光学迷彩が消失しました。光学観測を密に行います」

「敵艦の針路は僅かに変化あり。加速度は失われました」


 矢継ぎ早の伝達のあとに数秒間の沈黙があり、次に戦術AIが発した報告をデニス船長は待っていた。

「戦況確認。敵艦に直撃一ないし二。敵艦は現在加減速を行わず慣性移動。砲撃破損による進路のずれを修正せず。索敵妨害を停止しており、発熱の変化が微弱であることから反撃が行われる可能性は極小。リアクタもしくはメインコイルにダメージを与えたと推測される。中破以上判定」


 加速能力を失ったならば、敵艦は現状の針路を維持することはできない。恒星の重力から逃れられなくなるからだ。そして恒星によるフライバイを諦めるならば、加速を続けることができるプロミオンが追いつくことも可能になる。


「わかった」

 そのデニス船長の一言を待っていたかのように、乗組員たちが声を上げた。その間にもアストレイアは進路を修正し、ベクターコイルに再びエネルギーを供給する。暫く全力加速をし続けたおかげで、まだまだ当分の間は減速しつつも恒星からは遠ざかる必要がある。


「戦況は伝わっているのだろうが、これからメルファリア様に報告を行う」

 大声ではないが、デニス船長がそう言うとアストレイアのブリッジ内には速やかに寧静が訪れた。


 §


 メルファリアはロナルド・デニスからの報告を受け、音声のみの受け答えながらも両手を膝に置いて姿勢を正した。

「デニス船長、それから皆さんも、よくやってくれました」


 距離が離れているので間延びした会話になるが、それはプロミオンでは茶会と共に進行した。レオンは、自分たちが寛いでいる一方でアストレイアではデニス船長が真面目な顔をしたまま直立不動で受け答えしているのではないかと、他人事ながら心配になった。


「撃破できましたが、しかしながら完全に葬り去ることはできませんでした。敵艦への、今後の対処はいかがなさいますか?」

 デニス船長がいかがなさいますか、と聞いたのは手段を問うたのではなくメルファリアの意向を確認するためだ。どう料理するかについては最適なものをデニス船長が選ぶであろう。どんな意向であろうとデニスは最大限の努力をする所存だから、そのやり方は主人の意向に沿うように選ぶのみである。


「状況はこちらでも同様に把握しています。敵は深刻なダメージを負い、このままでは恒星の重力から逃れられません。恐らく。……ですが、あくまで推測ですので、ここはひとつ海賊本人に確認してみようと思います」

「は……。それは、レオン君のお考えですかな?」


 プロミオンの作戦指揮所で、レオンとテーブルを挟んで向かい合うメルファリアは苦笑いをした。

「察しの通りです、デニス船長」

「敵の状況を敵に直接聞こうとは、私ではなかなか考えませんな、はっはっは」


 いずれにせよ、アストレイアがプロミオンとランデブーするにはまだまだ時間がかかる。

「アストレイアは恒星から安全な距離をとることを優先した上で、こちらに合流するようにしてください」

「承知いたしました。これ以降の賊の扱いは、お任せ致します」



 敵艦の正体は、今やもう明白だった。

 フォースター重工により建造された電子戦闘用試験試作艦。情報隠匿の為か、正式な型式番号も艦籍もない。


「発信されてはいませんが、トランスポンダ情報は一応、デーイウ・コーポレーション社所属の航路調査船カムナンサン号、となっています」

 アリスが解説を始める。


 デーイウ・コーポレーション社は惑星セヴォールで法人登記されてはいるが、少し調べてみたところこの会社はその電力消費量が小さすぎるため、ペーパーカンパニーである可能性が極めて高い。


 また、公式にはまだ建造計画でしかないこの電子戦闘艦は、フォースター重工の軍用艦艇製造部門がその技術の粋を集めて建造するものだそうだが、その設計データにはGS社の特許を侵害している部分が少なくとも四か所ほど見受けられ得るとのこと。


 軍用艦艇の設計図や特許情報をどうやって得たのかとMAYAに聞いてみたいとは、レオンは思わなかった。藪をつつく事になるのは間違いない。こんな時ばかり所有者としての責任を問われてはたまらないからだ。


「全長二百メートルクラスの巡航艦で、艦隊旗艦の戦闘指揮補佐と防御を担うものとして各国に売り込む思惑のようです」

「へえ。じゃあ売り出す前にバトルプルーフを海賊から得ようって事なのか」

 アシッドクロウはよほどフォースター重工と仲が良いってことか、それとも、マイケル・リーと仲が良いのか。


 ガストンという男は、逃げるにあたってわざわざ音声を送りつけてきた。だから、こちらからアプローチすればもっといろいろ話してくれるかもしれない、とレオンは考えた。そうこうしている間もMAYAは敵艦にクラッキングの手を伸ばしているが、その敵艦はどうやら今、戦闘システムや航行システムの再起動を行っている最中のようなのだ。


 戦闘艦艇がそんなことでどうするのかと伺ってみたいところではあるが、大いに焦っていることだろうから、こちらから音声を送って挨拶してやろうと思う。

 あわよくば、何か情報を引き出せるかもしれない。


自作パソコンなんかは、再起動しなければならなくなってもイラつく程度ですが、

(その程度で済まないときもたまにありますが)

宇宙船がそんな信頼性ではマズいでしょうね。

試作段階のうちに不具合はちゃんと潰してほしいものです。

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