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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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24.小さな悪だくみ

大型肉食獣(別名:人間)の死体が十数体もそこらじゅうに散らばっている光景は、

酸鼻を極める状態ですよね、きっと。

言葉だけだと何とでも書けてしまうのが凄いところです。

 レオンとアリスは、連絡を入れてセキュリティを解除してもらい、建物内に入って皆に状況を説明した。


 地下室から出てきた面々は皆一様に室内を見回して被害がない事を確認しようとしていたが、メルファリアだけは唯一人まっすぐレオンとアリスのもとに近寄ってきて出迎えた。

「お怪我はありませんか。大丈夫ですか?」


 車両が爆発した時の衝撃は地下室にも伝わっていたようで、それはレオン達の所業ではないことも含めて、不届き者たちを撃退したことを伝えた。

「賊は成敗しましたが、首謀者ガストンには逃げられてしまいました」

「二人とも、ご苦労様です。その、ガストンという輩のことは追えますか?」


 メルファリアの問いに、アリスが淀みなく返答する。

「追跡は続けています。ですが、まずはこの建物からは速やかに退去しましょう」

「ええ、そうね」


 室内のどこにも被害がない事を確認した後で、エマリーはいたく感心した様子でレオンに声をかけた。

「あんた達、やるねえ。ランツフォートの騎士ってのは、噂どおりやっぱり凄いんだね」


 その噂というのは、レオンのものじゃありませんよ。

 どのような噂なのかを詳しく聞くまでもなく、それがクーゲル・バレットの事であるのは間違いない。

 レオンは、高揚感もなく達成感もなく、なんとなく疲れたな、とだけ感じていた。

「ええ、まあ、そうですね……そうだ」


 ふと思い出したように、レオンの方からエマリーに話しかける。

「ランツフォートの騎士は怖い存在です、って喧伝してください。ぜひ」


「喧伝、って自分で言うかね。いいよ、姫さんの安全に関わるんだもんね。サービスしとくから、あとで身体で払いなよ?」

「え~……」

 乾いた雑巾よりも絞られそうな、悪寒がする。


 あからさまに嫌そうな顔をしたレオンに構わず、エマリーはぽんぽんとレオンの肩を叩き、ばちっとウインクして見せた。

「噂に尾ひれはつきものだけど、別にいいよね?」

 その言い方からして、最初から尾ひれを付けて噂を流す気なのだろうとレオンは理解した。


「それに関連することなんですけど、エマリーさんちょっといいですか?」

 そういってレオンはエマリーをキッチンへと誘導した。

「なんだい、姫さんに聞かれたくないような事かい?」


「まだ、予感でしかないので」

 内緒話をするように、レオンは口に手を添えてエマリーに伝える。

 からかうような態度だったエマリーが、レオンの真面目な顔を見て少し改まった。

「なにさ?」


「ガストンの件です。ずばり言わせてもらうと、そちらから情報が洩れている可能性はありませんか?」

 エマリーも真面目な顔になって、少しだけレオンと見つめ合った。

「直球だね」

「変化球は持っていないんですよ」


「ふーん。……予感、なのかい?」

「少なくとも意図的な漏洩ではない、と思っています」

 エマリーがちらりと後ろを振り向く。

「マルコ、いいよもう、こっちに来な」


 マルコがカウンターの陰からのそりと長身を現わす。右手が背中でごそごそしているのは、拳銃をしまっているのでもあるだろう。

「騎士さん、あんた度胸いいね。あたしらが悪党だったらどうするんだい? なんてね。でもね、データマイナーにも色々いるんだよ? それと、マルコを控えさせておいたのは、まあ許してくれよ。いつもそうするように言いつけてあるんでね」


「きっと、俺は今儀体だから強気なんだと思います。それに、エマリーさん達は悪い事をしようと思えばいくらでもチャンスはあったでしょ? だからエマリーさん達を疑っているわけじゃあないんですよ」

「まあそれもそうか。それにしても、情報漏洩の疑いとは、データマイナーの沽券に関わるね」


 エマリーの隣に並んだマルコが、ひそひそ話に加わる。

「言われてみれば、疑われても仕方のない状況ではある。騎士さまはそう思ったから俺達をここに引きとめたのか?」

「幾つかある理由の一つでした」


 エマリーは腕組みをしてマルコを見ていたが、意を決してレオンに申し出た。

「そうだね、どうやらアタシ達はこの騎士さんの信用を得る必要がある。少し時間をくれないか? きっちり調べてみる」

「わかりました。余計な不安を掻き立てたくないので、俺にだけ連絡してください」


 メルファリアには内緒にしておきましょう、ということだ。

「ご配慮、痛み入る」

 マルコが小さく、しかしはっきりと頭を下げた。わりと生真面目な人のようだ。

「あんた、よく見るといい男だね~。儀体だからかい?」

 そういってエマリーがレオンの頬をつついた。お茶目な姐さんは、守勢に回るのを良しとしないようだ。


「……まったくもう。褒められているのか貶されているのか」

 エマリーさんはなんというか、掴みどころがない。こんなネタでもなければ、とても対等に交渉が行えるとは思われない。それでもとりあえずは、話はまとまった。

 最後には笑顔を見せあって、三人はぞろぞろとリビングスペースに戻った。



「何を話されていたのですか?」

 興味津々にメルファリアが聞いてきたが、特に何かを疑っている様子ではない。

「俺をどんなふうにカッコよく派手に喧伝するか、という悪だくみです」

「そうそう」

 エマリーが話を合わせて相槌を打つ。


「恥ずかしくて、あまり人前では話せませんよ」

 これはまあ、話をはぐらかすときの常套手段ですかね。

「まあっ、どんな内容なのかしら」

「さすがは騎士レオン。きっと悪だくみは得意なのでしょうね。嫌だわ~」


 メルファリアとリサの二人はどうやら、はぐらかされてくれそうだ。レオンにとってメルファリアは会社組織で言うところの上司のようなもので、厳密にいえば報告連絡相談を疎かにすることになる。本来の立場上は宜しくないが、良心が痛むほどではない。

 俺も大人になったなあ。


「ふっふっふ、得意なのは悪だくみだけじゃあないぜ?」

 リサの言葉は相変わらず嫌味だが、レオンはもう慣れた。そして、今はむしろ話を逸らすのに利用させて貰おう、と思った。

 呆れ顔のリサが、オーバーアクションで古典的なフレーズを口にした。

「やれやれだぜ、ですわ」


 アリスは小銃を降ろしてプロテクトスーツのまま立ち尽くし、微笑むばかりだ。でもどうせ全部聞こえているのだろうと思う。

 問われるがままにしゃべらないよう、この件については口止めをしておこう。



 スピンクスとは、ここでお別れということになった。

 レオン達はガストンをどうするか対応を考えねばならないが、スピンクス側としては関わるメリットはない。

「じゃあ姫さん、またの御利用をお待ちしています」

「ええ。いずれまた、よろしくお願いしますね」


 スピンクス一行は納屋に収めてあった小型の装輪車両に乗り込み、衛星軌道上から降下させつつある自分達のVTOLに向かっていった。レオン達も自らの車両に乗り込み、荷物を積み込み、周囲に広がる惨劇は完全に無視してプロミオンへと向かうのだった。


 ここに斃れた者たちは皆、おそらくアウトローとして処理されることになるだろう。レオンに咎は及ばない。ただし、レンタルハウスそのものはほぼ無傷で汚れもないのだが、今後新たな借主が現れてくれるかどうかは、怪しいかもしれない。


 もしかしたら明日の朝には、何物かがきれいさっぱり少しの肉片も残さず片付けていてくれるかもしれないが、それはそれで怖すぎる。やっぱり新たな借主は現れないかもしれない。


砂漠に対して漠然と怖いイメージを持っているのは、ハリウッド映画の見過ぎでしょうか。

足元から突然巨大なワ

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