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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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23.襲撃者たちと邀撃する者たち(2)

拳銃も排莢が不要なら連射が早く、単位時間当たりたくさん撃ち込めるでしょうね。

狙いも正確になるかもしれません。

 ザザザッと地面を蹴って走り出す音が、見当違いの方向から聞こえてくる。その音に気が付いた男の一人がその方向に振り向いても、何も見えない。

 また別の方向から、乾いた銃声が響く。否が応でも注意を引き付けられるが、そちらに敵は見当たらない。


「ひいっ、ま、待ち伏せされてんじゃねーのか?」

「ちくしょう、相手は軍隊か? そうは聞いてねえぞ!」


 彼らはそれぞれ暗視ゴーグルを装着していたが、これは他の情報源と連携できるタイプではなかったし、レオンとアリスは儀体の表面温度を調節して周囲の気温との温度差をほとんど無くしている。加えて、二人の着るプロテクトスーツは大部分の電磁波を吸収・散乱してしまう。だから、襲撃者たちのゴーグルにはレオンもアリスも靄のように映り、遠近感も掴めない。


 男たちはめいめいに銃を構えて闇雲に撃つ。だがアリスもレオンも、彼らが狙えるようなところには留まらない。多くない遮蔽物を最大限に利用しては、男たちの射線から遠ざかる。上空から俯瞰するように彼我の位置を確認できるアリスは、建物の陰から銃身だけを晒して不規則に撃ち込む。それでも至近に着弾して、男たちを慌てさせて更に判断力を奪う。


 時折は、あらぬ方向から人の駆け出す物音や銃声が響く。意図的に発生させている音だからアリスとレオンは惑わされないが、襲撃者たちは状況を掴みにくく攪乱されていた。

「くそう、どこから撃ってきてやがる!?」


 彼らの視界の端で、一瞬だけ強烈な光が発せられた。

 それにタイミングを合わせてレオンはアリスから少し離れ、装輪車両の陰に移動した。そしてそこから、儀体の驚異的は身体能力を以って車両の屋根にひらりと飛び乗り伏せた。勿論のことレオンはそんなに身軽ではないが、今はVRゲームだと思ってジャンプを念じるのである。


 アリスの牽制射撃に注意を向けていた男たちは、少し離れたところにある装輪車両が揺れたことに気付かない。そのクルマのルーフに伏せたまま、レオンはハンドガンを握り直した。ルーフの端から覗けば、地面の凹みと低木に隠れようとする男たちが丸見えだろう。


 が、直接視線が届く必要もないので頭は伏せたまま、銃口だけを晒して標的に向ける。いまレオンの視覚には、実際の暗がりに重なるように三次元オブジェクトが「視えて」いる。各オブジェクトに関わるメタデータは、直接に認識として頭に流れ込んでくる。特に留意すべきオブジェクトは、輪郭が強調されてデータのポップアップも展開される。ヘッドアップディスプレイ上にそのように表示される感覚に近いのだ。


 MAYAが標的マークをオーバーレイ表示する。レオンはロックオンを確認するごとにトリガーを引き、速やかに全弾を撃ち尽くした。そしてくるりとルーフの上で仰向けになり、マガジンを交換する。いまの射撃で三人倒した。倒したのはレオンかそれともアリスか、それは判然としないが、そんなのはどちらでも構わない。


「ご~~!!」

 奇声を発し、残った一人は一目散に逃げだした。拳銃を投げ捨てゴーグルをはぎ取り走り出したその男は、ガストンに呼び止められたが意に介さず逃げ続け、ガストンに背中を撃たれてどうと地面に転がった。

 その倒れる様子を確認してから、レオンはひらりとルーフから降り、またアリスと合流した。


 ◆


 ガストンが、腹立ちまぎれに横にいる男に指示を出す。

「くそったれが! おい、ディーノ、あいつら倒してこい」

 あいつ、とはガストンに対して覚悟しろ! と言い放ったレオンのことである。

 その姿がどこにあるのか、今のガストンには分かっていない。


「一人でか? 無茶言うな」

 ガストンは舌打ちして黙り込んだ。そしていま一度隣にいる男に指示を出した。

「俺は車から()()を持ってくる。おまえは建物の裏手に回ってベレーゾ達と合流しろ」

「わかった、合流する。……んで、()()ってなんだ?」


 そう言った時にはもう、ガストンは自分たちの乗ってきた車に向かって走り出していた。仕方なく、ディーノと呼ばれた男は周囲を警戒しながら建物の裏手方向へと移動した。彼は幸運にもレオン達とは遭遇せず、仲間たちとの合流を無事に果たすことができた。レオン達が今いるのは、ちょうど建物の反対側だったのだ。


「ディーノか。 ガストンはどうした?」

「おうベレーゾ、ガストンは車に()()を取りに行ったぜ」

「そうか。で、俺達への指示は?」

「……倒せ、ってよ」


 そう言うディーノの顔があまりにも間抜けに見えて、ベレーゾは少し腹が立った。

「それだけか? 相手の情報とかは?」

「ねえな」

「んじゃ、取りに行った()()ってのはなんだ?」

「なんだよベレーゾ、お前は知ってるんじゃねえのかよ?」


「……いや、知らねえ……」

「……」

 少しの沈黙。

 この状況で仲間相手にイラついても良いことはねえ。そう思い直した。


「他の奴らはどうした」

「突入班は、まだ突入できていないようだが」

「パーク達はやられちまったぜ」

「やられちまった!?」

 思わず声を上げそうになって、ベレーゾは慌てて口を手で塞いだ。


「ああ。いや、パークは逃げ出したところをガストンに撃たれた」

「ガストンに?」

「他の奴らがやられて、びびって逃げ出しちまったんだ」

「逃げやがったのか……」


「ああ。で、ガストンは()()を取りに行って、俺はベレーゾ達に合流しろ、ってよ」

「突入班は音沙汰ねえし、パーク達がやられちまったんじゃあ、あとは俺達とブーンの班か」

「だな……」


 ベレーゾが改めてディーノに問うた。

「相手は何者だ? ヘタレの若造じゃなかったのかよ」

「……って聞いてたがな」


 ふと、遠くでまた射撃音が聞こえた。連続する、サブマシンガンの音だろう。襲撃者たちには、サブマシンガンを持つ者はいなかった。自分たちが圧倒的に多勢であるし、連射のついでに確保すべきお嬢様を傷つけるわけにはいかないからだ。


 射撃音が聞こえたのは、建物の反対側の方からではないだろうか。そう思って皆が動きを止めて耳を澄ませたが、静まり返ったままいつまで経っても物音一つ聞こえてこない。

「ヤったか、ヤられたか、どっちだと思う?」

 ベレーゾが、ぎょろりとディーノを見つめた。


「……」

「やべえんじゃねえか? おい」

「お、おう……」

 誰かが後ずさった。


 それをきっかけに、そこにいた全員が我先にと、獲物とは関係ない方向に動き出した。ある者はその手に握っていた拳銃すら放り出して、皆一目散に元来た方向を目指して脱兎のごとく走り出した。

 一人が地面の凸凹に足を取られて転んだが、だれも手を差し伸べたりなどはしない。転んだ男は、取り残されることに恐怖を覚え、両手で地面を掻きむしりながら必死の形相で立ち上がり、再度駆け出した。


 ◆


 黒ずくめの男と女が低木と岩に隠れるように、背を屈めながらゆっくりと移動していた。猫のように、足音はほとんどない。もう少しで優位な位置取りができそうになった時に、残りの敵集団六人が一斉に逃げ出した。


 逃げ出した、と判断したのはその集団が乗ってきた車両の置いてある方に向かって走り出したからだ。彼らは無防備な背中を晒すことになるが、レオンの持つ小火器からは既に有効射程外だ。

 二人はゆっくり背を伸ばして立ち上がる。


「逃げたな」

「最初に一人で逃げたのが、やはりガストンですね。彼はもう既に、車両に乗り込んでいると思います」

「仲間を置き去りかよ」

「置き去りと言うか、おそらく……自分が逃げるための囮といった扱いかと」


「余計悪いよ。……トップが真っ先に逃げるとか、最低だな」

 言い捨てたレオンが、足元の石ころを適当に蹴り飛ばす。

 石ころの動きを目で追っていたアリスが、目線をそのまま先に延ばして男たちの逃げていった方向をじっと見つめ、目を細めた。


 ◆


 レンタルハウスから数百メートル離れたところにある岩塊の陰に、彼ら襲撃者たちの乗ってきた車両は置いてあった。大きめのワンボックス形状で、四輪のタイヤも膨らみの大きな不整地走破を意識したものだった。


 逃げおおせた六人が、後ろを振り返ることもなく慌てふためいたまま車両に乗り込んだ。来たときはココには二台あったが、今はもう、一台しかなかった。

「はあ、はあ、どうやら、追っては来ねえようだな」

「ああ、助かった」


 命からがら、ほうほうの体で運転席に転がり込んだ男が、暇を惜しんで車両の起動スイッチを押す。

「やっぱガストンの野郎、先に逃げ出しただけじゃねーか!」

「ふざけやがって、ぶっコロ……」

 刹那、彼らの乗った車両は、遥か丘の向こうまで響く轟音と強烈な光を発して、爆発四散した。


 音と振動が、不整地を飛ばして市街へと向かうガストンの車両にまで伝わってきた。

「やったか!? ……いやベレーゾの方か。逃げようとしやがったな、くそったれ!」

 ベレーゾに付けておいたマーカーからの発信が途切れたのだ。タイミングからしても、さっきの爆発だろうと思われた。ガストンは自分のことを完全に棚に上げて、仲間が逃げ出したことを罵った。


 ◆


 アリスの視線の先で、遠くの岩場の向こう側が赤黒く光を発し、轟音が響いた。

 びりびりと、乾いた空気の震えが直接アリスとレオンにまで届く。

「うわっ」

 暗闇の中で、二人は顔を見合わせる。


「先程逃げ出した六名の所在を見失いました」

「ガストンが、自分だけ逃げるために爆破したんだな」

「追いかけていたら、私たちがああなっていたかもしれません」

「罠、か」

「ええ。ガストンは取り逃がしましたね」


「まったく、とんでもない野郎だ」

 爆発のあった岩場の向こうでは何かが燃え続けているようだ。立ち上る煙を、炎が下から赤々と照らしている。可燃物に乏しいので延焼の恐れはないだろうが、いずれ嫌な臭いがこちらにも漂ってくることだろう。


「とりあえず、作戦終了だ」

「では、彼女たちを連れて速やかに此処を離れましょう。暗くて周りが良く見えないうちに」

 レオンの嗅覚はマヒしたままだったが、辺りには既に濃密な血の匂いが漂い始めていた。

「だな」


明日の朝には凄惨な光景が広がっているでしょうね。

きれいさっぱり何者かの餌になっていたりしたら、それも恐ろしいですけど。

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