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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
23/64

22.襲撃者たちと邀撃する者たち(1)

やっと、R15な場面がやってきました。

暗くて良くは見えませんがね。

 ガストン自身はもう一人の男とともに少し離れて控え、動き始めた各班にそれぞれ指示を出す。

「なんでこの星に寄ったのかは知らねえが、とにかくチャンスだ。ツキが戻ってきたな」

「ちがいねえ。しかし、急だから寄せ集めのチームになっちまったがな」

 このもう一人の男も、ガストンのツキの良さを信じてついて来ている輩だ。


「急造部隊だが、おいしい獲物は逃げられちまう前に捕まえねえとな。それに、あっちだってこの家の大きさじゃあ、いるのはせいぜい五、六人だろ」

「しかも、騎士ってのがあのザマだからな、もう死んでるかもしれねえ。ちょろい仕事だぜ。へへへへ」

 男達は、自分たちが圧倒的に有利な状況にあると信じ、周囲に対してまるで警戒していなかった。ここは地上ではあるが、今までの海賊行為と同様に、自分たちは蹂躙する側であると信じて疑わない。


「お嬢様カワイイねえ。怪我をさせなきゃ、引ん剥いてもいいかな?」

 男の一人が、フォトカードをひらひらとさせながら不埒なことを口走った。

 他の男が、自身のゴーグルを、人差し指でコツコツと叩いて言う。

「ログカムに撮っておくか」


 男の装着する暗視ゴーグルには、少々狭いが視界の大部分を録画保存する機能がある。本来は作業記録の為のものだが、それだけに暗所でも十分な品質での録画が可能だ。

「いいねえ」

「傷つけるな、ってしか言われてねえし」

「心は傷ついちゃうかもな、うへへへ」


 それぞれ好き勝手なことを小声で話しながら、幾つかの集団が建物を囲むように散らばる。湿度の低い空気のおかげで星空はわりと奇麗だ。だが月明かりのないこの星の夜は、うすら寒く感じるほどに暗い。まだそれほど遅い時間でもなかったが、建物の明かりは殆どが消え、常夜灯がぼんやりと漏れていた。



 三人ほどの男が、建物から少し離れて停めてあるプロミオンの装輪車両に近づく。四輪のSUV風車両は六人乗りで、直線基調のデザインが特徴的だ。これもプロミオン同様に百年前のトレンドということになるのだが、奇しくもこの星では割とよく見かけるデザイン傾向に似ていた。


 三人の男はバール状の得物や大型ニッパーのような工具をそれぞれに手にして、なるべく静かに近づいていったが、星明りのみでは窺いにくい闇の中で、標的にされた装輪車両が静かに動いた。

 動いたとはいえ電動車両なので、小石を踏みつける音が微かにするのみだ。前輪を動かし襲撃者たちに正面を向けるが、もちろん誰も乗ってはいない。


 暗がりの中で、車両のおぼろげなシルエットが僅かに動いたことに、襲撃者の一人が気付いた。

「ん? なんだ?」

 確認しようと目を凝らす。……が、運転席には、誰もいない。


 およそ五メートルほどの近距離で不意にヘッドライトが点灯し、三人の男たちは強烈な光に目が眩んだ。

「うっ」

 とっさに目を瞑るのは防御本能であり、生物ならば仕方はない。


 そんな、視覚を失った瞬間を逃さず装輪車両が猛然と動いた。電動車両というのは、無音のままで静止状態からでも最大の加速力を発揮するのだ。鈍い音が続けて二つあり、黒い塊を続けざまに跳ね飛ばした。


 クルマの確保に向かったうちの二人が、それぞれあらぬ方向へ四肢を曲げて地面に叩きつけられた。子供が無造作に投げつけた人形のようでもあったが、どれが腕かはたまた足か、暗くてよくわからない。彼らは悲鳴を上げることすらできなかった。


 もう一人は、強烈な光に目を押さえて屈んだところを、アリスの小銃に撃ち抜かれた。アリスはレオンから数メートル離れて同じように地面に横たわっていたが、アリスからは車に近づく男に射線が通っていたので、仰向けのままに小銃を構えて、車が動くのとタイミングを合わせて引き金を引いた。


「タン、タン」と軽めの音が乾いた夜に小さく響き、男は屈んだ姿勢のまま地面に倒れ込んだ。地面には血だまりがゆっくりと広がってゆくが、ヘッドライトは一瞬で消灯しており、もう色の区別はつかなかった。


 ◆


「どうした? おい」

 突入のタイミングを計っていたガストンは、車両確保に向かわせた三人への通信を試みたが、果たせない。クルマは、一度ライトをつけて動き出したようだったが、すぐに消えて静かになった。銃声がしたようにも聞こえたが、敵にでも遭遇したのだろうか? ならば沈黙したのはどういうわけだ。


「何かにびびって発砲しやがったか?」

 まったく、建物内の獲物たちが起き出さなきゃいいが。

 これから大人数で襲撃しようとしている自分達が、実はたった二人に待ち伏せされているとは思わず、ガストンは今しばらく車両確保の連絡が来るのを待つことにした。


 ◆


 装輪車両の不可解な反応のためにガストンが時間を浪費しているうちに、闇に紛れていたレオンも地面からゆっくりと起き上がった。そして小銃からハンドガンに持ち替えたアリスと共に、建物の裏手口に近づく五人ほどの集団の背後に近づく。この五人は、裏手口を狙えるところに位置し、突入のタイミングを窺っていた。


 漆黒のプロテクトスーツを着込んだ男女二人は、無言のままに連携をとる。ラーグリフとアリスの目からは何も隠せず、どの位置でどちらを向いて、何を構えているのかまで丸見えだ。五人の男たちは、自分たちは襲う側であり、逆に背後から襲われようとは露ほども思っていない。気配など発しようもないレオン達二人の事を、襲撃者たちは全く気付かなかった。


 アリスは両手にハンドガンを構え、二つの標的を同時に狙う。レオンはサブマシンガンを腰に構え、ゲームモード化により脳内でヘッドアップディスプレイに映るロックオン表示に対して、躊躇なく引き金を引く。MAYAによりアシストされたオート射撃だ。まさにFPSゲームのようだと言っていい。


 タタタタタタ、タンタンタン、とリズミカルな音がして、背後から狙い撃たれた五人は己がどこから撃たれたか、状況の把握も出来ずにばたばたとその場に斃れた。レオンは弾を撃ち尽くし、低く屈んで予備のマガジンに取り換える。


 しぶとい男が一人だけ、倒れて苦痛に顔を歪めながらも、拳銃をホルスターから抜き取った。しかし拳銃は男の右手ともども、素早く近づいたアリスに踏みつけられてしまう。彼の装着している暗視ゴーグルは視界が限られ、アリスの接近を捉えることはできなかったのだ。


「ごろつきばかりかと思えば、ボディアーマーを装着している者もいるのですね」

 アリスの踵が男の手の甲にめり込む。

「ま、まて……」

「待ちません。レオンを傷つける者たちに、慈悲など不要です」


 小声でも敢えてそんなセリフを口にしたのは、レオンとの通信とは区別するためだ。手を踏みつけたまま、露出している首筋に狙いを定め、引き金を引く。迷いはなく、表情の変化もない。

「これで八人」

 そんな動作も、周りにいまだ存在している残り十四人の敵からは狙えない位置取りであることは計算済みだ。


 予め建物の周りにばら撒いておいた幾つかの無線スピーカーのうちの一つから、レオンの声が響き渡る。

「ガストン! 聞こえているな? もはや容赦はできない。逃がすつもりはないから覚悟しろ!」

 お前の相手はすぐ近くに居るぞと宣言し、建物から注意を逸らすことを狙ってのものだった。


 ◆


「あの声……野郎、ピンピンしてやがるのか!?」

「おいガストン、どうなってる?」

 業を煮やした一人が、小声でガストンの名を呼ぶ。


「奴ら、外に出て応戦してきてやがるんだ! まずはそいつらを殺せ」

「そいつらの情報はねえのか」

「こっちの方が人数はずっと多いはずだろうが。とにかく、ターゲット以外は始末しろ!」

 苛立ちを隠さず、ガストンは一方的に通信を切った。自分が狙われることを警戒したのだ。


「おい、ガストン!」

 レシーバーに意識が向いて、つい大きな声が出てしまった男は、それが今生最後の言葉になった。再度小銃に持ち替えたアリスが地面に伏せて狙いを定め、引き金を引く。それはガストンに呼びかけた男の耳から十センチ程も離れて飛んで行った。しかし、間髪入れずに撃ち出された二発目は、的確に補正されて正確に男の頸椎を撃ち抜いた。


 辺りは真っ暗でも、アリスの視覚にはあらゆるオブジェクトが鮮明に見えている。糸が切れた操り人形のように、撃たれた男はあらぬ方向に首を捻じ曲げてどさりと倒れる。その倒れる様子をアリスは確認しない。撃ち抜いた時点でもはや単なる物体扱いだ。無力化を判断した瞬間にはもう、次のターゲットを見定めて有利な位置取りのために移動を開始していた。


VRゲームだ、と思っていたら現実に殺していた、なんて話がどこかにあったような。

米軍のグローバルホークも似たようなものでしたっけ?

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