21.砂漠の宇宙海賊
運のいい人って、実際いるよね。
そういう人は、前向きだったり楽観的だったり。行動原理が違うなあ、って感じることもあり〼。
まあ、はっきり言って羨ましいです。
レオンとアリスが暗闇の中で地べたに寝転がるよりもずっと前、ブラウンヒルの裏路地にある薄汚れたビルの中、薄暗い一室に多数の男たちが集まった。皆それぞれひと癖もふた癖もありそうな面々ばかりだ。それら男達を前に、集めた張本人であるガストンがその理由を単刀直入に伝えた。
「急で悪いが、今夜これから一仕事ヤルぜ。リベンジだ」
居並ぶ全員を睨みつけてから、ガストンは仕事の内容を話し出した。
「世界的なVIPがろくな護衛も付けずに、お忍びで郊外の一軒家に滞在している。しかも元々俺たちの獲物だ」
男たちの中の一人が、はたと気が付いて声を上げる。
「あの、なんとかいうお嬢様か?」
「そうだ。船の仇だ、忌々しい」
そのお嬢様の護衛の男は、昼間ガストンとやり合ったことで重傷を負い、今は使い物にならない筈である。その怪我人の看護なのか他にも理由があるのか、今夜はその郊外の一軒家に滞在する様子なのだ。周りに人の目もなく邪魔も入らないあそこでなら、手荒なことも問題になるまい。
「まあ、問題になる前にオサラバするがな」
拉致誘拐を目論むならば、これはなかなかに美味しいチャンスだ。
ドローンに車を追跡させたことで、滞在している建物は特定できたわけだが、これはVIPが滞在するにしてはこじんまりとしたものだ。セキュリティが特別厳重な物件という訳でもない。お忍びだったんだろうが、気づかれないように遠巻きにスコープで探っただけで、獲物であるお嬢様の存在も確認できた。
「あそこは低い丘の上で、周りには物置と木が何本か生えているだけだ。こちらに気づかれねえように逃げ出すなんて無理だ!」
ガストンは、皆に話しかけながらも、いよいよもって自分が興奮してきた。
「建物の中の間取りは情報が揃わねえ。だから突入する人数よりも、外で待ち構える人数を多くする。外へ逃げるように追い立てるんだ」
奴らにはクルマがあるはずだが、それで逃げようとするかどうかは判らない。
「夜間に砂漠を走るとロクなことにはならねえんだが、逃げたい一心の奴はそれでもクルマで逃げようとするかもしれねえ」
大抵の場合はVIPなら死体でも身代金にはなるが、今回はそうはいかないのだ。依頼人がうるさいので、獲物には死なれちゃ困るし、大怪我をされても困るのだ。だから、クルマで逃げようとするがクルマが動かねえ、ってのが一番楽ちんなパターンだ、とガストンは考えた。
「細かい作戦は現地で、俺が指揮する。以上だ」
男達は、どれも真剣に聞いているようには見えなかったが、特に質問も反発もなかった。ただ、皆一様に楽しそうではある。或いはもう、彼らの中では皮算用が始まっているのかもしれなかった。
「一時間後に出る。それぞれ準備をしろ」
§
男達は十人以上乗れる大型の車両二台に分乗し、目標となる建物の数百メートル手前で降りた。一人だけ先行して、ドローンを回収してそのまま見張りを続けていた男がガストンに報告する。
「お嬢様は建物から出てねえようだ。夕方にクルマが戻ってきて、男と女が一人ずつ入っていったきりだ」
ガストンが訝る。
「男と女?」
「ああ。体格と動きと髪型からそう判断した。人相まではわからねえ」
「医者でも連れてきたか?」
「暗くなってからは赤外線で見張ってるが、人間ほどの熱源は移動してねえし、だいいちクルマもそのままだ」
移動手段を置き去りにして砂漠を逃げるとは思えない。この距離であろうとも、この荒野を人ほどの熱源が動けばサーモグラフィーには映る。だから詳細まではわからないとしても、建物内に獲物が留まっていることは間違いないと考えられた。
だがそれでもガストンは用心深く、早い時間帯には近づかないことにした。
「夜半まで何事もなければ、気が緩むかもしれねえからな」
……そういう期待はしていたが、奴ら本当に明かりを消して寝静まっちまった。
寝る前に周囲を警戒しているような様子だったが、それはつまり狙われていることを自覚しているからだろうが。
「ここに居ますよ、って言ってるようなモンだぜ。警戒心が足りねえな」
やっぱ俺はツイてるね。
これまで、ガストンが海賊としてうまくやって来れたのは、この男の巡り合わせの良さがあることは間違いない。一般に運がいい、と言われるソレは科学的に説明できるものでは決してない。が、確かにガストンは、これまで幸運を掴み取りつつやってきた。そして周りも、それを認めて付いて来ていたのだ。
だが、トーラスではミソがついた。
彼は海賊船アシッドクロウを失い、彼なりに大きな岐路に立たされていたのだ。しかし、獲物は自らガストンの目の前にまで近づいてきた。一旦は取り逃がしてしまったが、まだ手の届くこの状況は、むしろガストンにとって良い方に傾いて来ている。
これまでのように、流れは自分に来ているものと見えた。
「この流れに乗って、雪辱を果たしてやるさ」
ガストンの号令に従って、クルマから降りた男達は幾つかのチームに分かれて行動を開始した。
ここいら一帯は、夜になるとめっきり涼しくなる。過ごしやすいのだ。そんなこともあってか、小さな月すら出ていない今夜は星空を見上げたくなる。その一点だけは、レオンとガストンは同意見だったようだ。
「配置についたか?」
「おう」
「OKだ」
ガストンの左耳のレシーバーには、散らばった各班からの返事が聞こえてきた。
「いいか、まず奴らのクルマを確保する。セキュリティを解けずに奪えなければ、タイヤだけ狙え。奴らがクルマで逃げようとするなら、むしろ確保しやすくなるからな。だからクルマそのものは壊すなよ」
「わかった」
よし、と確認してさらなる指示に移る。
「次に建物を取り囲む。囲んだら、突入は裏手口からだ。突入班は暗視ゴーグルを使え。屋内の照明を壊して奴らの目を奪えば仕事が楽になる。」
照明そのものか、スイッチや配電盤などを狙っても、どっちでもいい。
「どこに寝てるかはわからねえが、派手に騒ぎ立てろ。そうすりゃ驚いて外へ逃げようとするだろうから、包囲班は逃げ出してきた奴を漏らさず狙え」
「騒ぐのは得意だぜ、うひゃひゃ」
隠れてるのを探し回るより、よっぽど簡単だ。
「ターゲットは無傷で確保しろ。これは絶対だ。今日現在の情報を伝えたはずだ。識別はできるな?」
あらかじめ、メルファリアを写したフォトカードをそれぞれに配ってある。そこに映ったメルファリアは、もうすっかり日焼けも消えて髪も少し伸び、以前よりも凛々しさの増した印象だ。
「ターゲットの他に女が二人いる。これは殺しても構わん」
ガストンは、建物内に他に誰がいるのか正確に確認してはいないので、この時点での二人とはリサとアリスのことを指している。
「殺しちまうのか?」
「好きにしろ、仕事の邪魔にならなきゃいい」
「ういーっす」
レシーバーからは、下卑た忍び笑いが聞こえてくる。
「騎士(笑)とかいう若造は怪我をしているはずだ。治療中かもしれねえが、もしまだ生きていたら、確実に仕留めろ。他にもし男でも女でもいたら、それは始末しろ」
「もし、似た女がいたらどうする?」
「見分けがつかないようなら、それも確保しろ。身代わり役がいたとしても、せいぜい一人だけだろう」
VIPなら、傍に替え玉がいる可能性はある。その場合は本人か替え玉か、どちらかだけが外へ逃げ出そうとするだろう。
「突入のサインは俺が送る。んじゃあ始めるぜ。行け!」
灌木が半端な垣根を形作るだけの、赤茶けた低い丘の上に建つ一軒家を遠巻きに囲むように、総勢二十二人がそれぞれ、ゆっくりと動き出す。
あれ、まだ始まらない……
ゲスな奴らを描いていたら、どんどん文字数が増えちゃってw
次回、食い物の…… やべぇ、すぐうpします。




