19.今度は戦争だ
エイリアンは出てきませんよ?
ええホントに。
到着予定を伝える連絡があって、実際に装輪車がレンタルハウスに戻ってきたときには、もうすっかり日が暮れてしまった。
挨拶もそこそこに、レオンとアリスは黙々と大きなコンテナボックスを幾つか建物内に運び込んだ。
荷物を運び終えたレオンに対し、エマリーが努めて陽気に声をかけた。
「やあ、無事だったんだね、騎士さま。いったいどうなっているんだい?」
「はい、エマリーさん。実はタネも仕掛けもあります。ですがそれよりも今は、事態が切迫しています」
「レオン、私は外の準備をしてきます」
そういってアリスは、大きな荷物を抱えてドアの外へと出て行った。
そのドアが閉まるのを見届けてから、レオンは屋内に居る全員に呼びかけた。
「ガストンが、ここを襲撃します」
つい先ほど、エマリーが関わりたくないと言っていた、その男である。
レオンの現状を問いただすのも忘れて、皆一様に口をつぐんだ。それぞれに思うところがあるようだ。
レオンがさらに続ける。
「奴らはもう、こちらに向かっています。だから、今からここを離れて船に向かおうとするのは、むしろ危険です」
遮る物のない荒れ地を走る車は狙われやすい。そして、こちらに地の利はない。こちらが必死で逃げようとすれば、奴らは多少手荒な事をしてでも止めようとするだろう。
「でも、このまま此処にいても……」
言いかけたリサに、レオンは掌を広げて見せた。
「ここで迎え撃ちます」
また、皆が口をつぐんだ。
「俺は今、儀体を操作してここにいます」
「まあ」
「儀体?」
メルファリアは、レオンと普通に会話できることを素直に喜んだが、リサは疑いの目を向けた。そんなに都合よく、すぐに用意できるものか? と思った彼女の疑問は尤もだ。
「戦闘目的ではなかったようですが、アリスが予め用意しておいてくれたものです」
皆の視線が更にレオンに集まる。
「凄いんですよこの義体。ほとんど違和感もないし、そのくせ力は倍以上です」
「いきなり膂力だけが向上しても、うまく扱えるわけではありませんよ。騎士レオンの勇気は認めなくもありませんが、騎士としての力量はどうなのでしょうか?」
息継ぎをして、リサはさらに続ける。
「メルファリア様の騎士であればこそ、簡単に倒されてしまってはいけないのです。あなたは抑止力なのですよ? 私の場合は能力を隠しておくべきでしょうが、騎士レオンは能力を誇示するべきものなのです。本来、倒れてはいけないのです!」
「ああ、リサさんの言うとおりだ。文字通り、身に沁みたよ」
そのレオンのいつになく真摯な言葉に、リサが意外そうな顔をした。
顔を近づけ、真正面からじーっとレオンを見つめる。
リサはレオンと比べると二十センチほども身長が低いので、少し下から見上げるように睨む。
上目遣いで見つめられる、というのと似たシチュエーションだが、似て非なるものだ。
「……本当ですね、見分けがつきません。抓ってみましょうか」
「断る。むしろ俺が抓ってやる」
リサの握力は侮れないのだ。というか、何故に抓る?
「レディーファーストですよ!」
「ふふふそうか、じゃあ後から思いっきり抓ってやる」
「なんという性悪。呆れてものが言えませんね。しかし、確かにレオンのようです」
どっちが言い出したんだよ。ていうか、ソコで俺であることを確認するな。
「あんたたち、仲がいいよね」
エマリーさんのセリフは、言外に”いい加減にしろ”と言っていたと思う。
「良くはありません」
「へーそうかい。喧嘩するほどなんとか、って古い言葉があるんだけどね」
話がそれてしまったが、問題はガストンを迎え撃つ件だ。
「ところで、アタシ達はどうすりゃいいんだい?」
エマリーはお供二人の顔を順番に見回してから、レオンに言葉をかけた。
「一緒に戦ってくれ、とでも言うつもりかい?」
レオンを見る目は険しかった。彼女たちにとっては、とばっちりみたいなものだ。
「いいえ。巻き込むことになってしまったのは申し訳ありません。しかし、いましばらくはメルファリア様と一緒に隠れていて頂きたい」
「へえ。アタシ達は隠れていればいいのか」
「ええ。こちらに任せてください」
その時、ドアを開けて、ちょうどアリスが戻ってきた。
「外は準備完了です」
「適当にばら撒いたかい?」
「はい。けれど、観測カメラとスピーカーだなんて、面白いですね」
アリスは、そのカメラとスピーカーを運んできた空のコンテナを、部屋の隅に置いた。
「アリスさんは戦うのかい?」
「はい。レオンと私とで撃退します。できれば、ガストンは捕獲したいところですね」
その平然とした言いように驚いて、リサが声を上げる。
「二人だけで? 相手はどれだけなのか、わかっているんですか?」
「はい。ガストンを含めて二十二人です。暗視装置やハンドガンなどで武装しています」
「そんなに。二人だけでなんて無茶です」
そう思うのが普通だろう。ガストン一人にすら手を焼いていたのだから。
「彼らの目的はメルファリア様の拉致誘拐です。ですから家ごと破壊するといったことはありません」
まずは大前提がこれだ。遭遇時のガストンの行動と言動が、これまでの分析結果に加味されて確度が高まった。海賊どもには、より強い立場の依頼人が存在する。その依頼人の意向は、キチンと尊重されるようだ。
「彼らの行動は既にリアルタイムでモニターしています。決して好きにはさせませんよ」
いつになく自信に満ちた表情で、レオンが断言する。
「それに、撃退するための仕掛けも幾つか用意しました。大丈夫。俺達で撃退して見せます」
余裕を見せるレオンを、アリスが補足する。
「レオンの射撃の腕前は、実のところ相当なものなのですよ」
「し、信じられません」
リサ・フジタニは不機嫌そうに言うが、メルファリアには迷いはない。
「わかりました。騎士レオン、撃退してください。よろしくお願いします」
「はい。必ずお守りします。自分の甘さが引き起こした事だ、と今は自覚しています」
少し離れて、感心した様子でエマリーがやり取りを見ていた。
「じゃあ、アタシ達も、ついでに守ってもらおうかな?」
レオンは、返事の代わりにしっかりと頷いた。
レオンとアリスは、装輪車から持ち込んだ幾つかの荷物を開梱する。
二人は無言のまま、その場で着用している服を脱ぎ、下着姿の上に漆黒のプロテクトスーツを着込んでいく。伸縮性の高いボディースーツの上に、要所要所にセラミックや強化樹脂製のプロテクターが付く。シールドグラスの付いたヘッドギアと、頸部から一体化したマスクを鼻まで被せると、もう黒ずくめだ。
更に、小銃を組み立て、拳銃をホルスターに収め、ナイフをシースに挿す。
「レオンは接近戦を極力控えてください。儀体が汚れますから」
「ありがと」
儀体とは言ってるけど、俺のことを慮って言ってくれているのだと思う。
「俺とアリスは食事をしませんが、皆さんはちゃんと食事をして、今後に備えてください」
キッチンの方からは、夕食の支度が進んでいる事を窺わせる匂いが漂っていた。レオンの儀体は匂いを感知して脳に送り込もうとするが、食欲は湧かない。儀体で食事はできないので、そう調整してあるのだ。
一方で水分は必要とするので、補給が必要なタイミングは喉の渇きとして促されるようだが、味覚はどうなっているのか?レオンは少し気になったが、些細な事なので後回しにすることにした。
細工は流々、ってやつですね。
次回、「食い物の恨みは恐ろしいぞコンチクショウ」乞うご期待




