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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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18.今夜はパスタ

マルコ・ガリアッティとアントニオ(アンソニー)・ビアンキはラテン系です。

民族の混血は進んでいるでしょうが、どういった形質が色濃く出ているか、ということです。

分類しにくい人が増えていくでしょうが、○○系ですね、と言える人もやはり存在しているのです。


 スピンクスの待つレンタルハウスへと戻ってきたメルファリアとリサの二人は、事の顛末を簡単に彼女たちに伝えた。憔悴した顔で戻ってきた女子二人を迎えて、さすがのエマリーも何事かと身構えたのだった。

「なんだって? アシッドクロウのガストンが……」


 一緒に聞いていたマルコが、エプロンを身につけようとしながらもエマリーに声をかける。

「奴らも、自分の縄張りであるチェリルジュ星系方面へ帰ろうとしているなら、この星系を通ることは十分あり得るんだが……」

「けど、同じタイミングでこの町にいるだなんて、偶然だろうけど、なんだか怖いものを感じるね」


 自分がまだ狙われているだろうということは自覚していたメルファリアだが、例の海賊に関してはもう対処は済んだと思っていたのだが。

「やはり、海賊たちは逃げ延びていたのですね……」

 偶然なのだろうか? と疑ってしまう。なにせ彼女こそが標的なのだから。

 出航前には強がってみせた彼女も、いざ件の海賊が再び現れてみると、言いようのない重苦しさを感じる。


「また、彼を命の危機に晒すことになってしまいました。……二度目です。彼に対しては申し訳なく思います」

「姫様、サー・ウィリアムズはその職務を遂行したまでです。気に病む必要はありません」

 リサは意識的にサーの呼称を付けた。騎士なら、身を挺して姫を守るのは当然のことだ、と思っている。


「そもそも、悪いのはあの海賊どもです」

「ですが」

 歩み寄ったエマリーが手を伸ばし、メルファリアの頬をそっと撫でた。

「で、あんたは怪我をしていないんだね?」

「はい……」


「じゃあ、あの騎士サンは自らの責務を、まがりなりにも果たしたって事だね」

「そう、ですね」

「死んじゃあいないんだろう? なら、後でちゃんと労ってあげればいいじゃないか」

「はい」

 しゅんとしていたメルファリアは、この時ちょっとだけ元気が出た。

 エマリーが、今度はメルファリアの頭をぽんぽん、と優しくたたいた。



「とりあえず今夜は早めに食事にしよ? お腹が空いていると良い考えが浮かばないよ」

 そう断言した。そして、キッチンに向かって呼びかける。

「マルコ、アンソニー、食事の用意は?」

 呼びかけに素早く応えて、マルコがその長身を覗かせる。

「今夜はパスタにするぜ。リクエストがあるんなら、早めに言ってくれよ、姉御」


 左手には、パスタの束が入った透明な筒状のストッカーを握っている。引き締まった肉体のこの男は、エプロン姿も様になる。腕前もなかなかのもので、昨日振る舞われた窯焼きピザは、どれもみな絶品だった。

「姫さん、リクエストあるかい? 大抵のものは作れるよ? まぁ、アタシが作るんじゃないけどね」


 メルファリアは食べ物の好き嫌いは少ないほうだ、と自分では思っている。ただ、ひとつ苦手なものがある。

「私はなんでも良いです。……か、辛くなければ……」

 少し恥ずかしそうに伝えるメルファリアにウインクして、エマリーはマルコに伝えた。

「マルコ、レディーに似合うメニューにしな。わかったね?」


 マルコは白い歯を見せて笑顔を作り、空いている右手でOKを意味するハンドジェスチャーを見せた。

「まかせてくれ」

 少し遅れて姿を見せたアントニオが、やはりエプロン姿でほぼ同時に声を上げた。

「まかせてくれ」

 ジェスチャーも一緒だった。


「あのお二人は仲が良いのですね~。兄弟でしょうか?  眼福です」

 少し緩んだ顔でキッチンの方を見ながら、リサが呟いた。

「まあ、兄弟みたいなものかな。……貸さないよ?」

エマリーは、リサに面と向かってどこまでジョークかわからない言葉を返した。

「……」

 リサは瞬きをしただけで、何も言えなかった。


§


 少女二人が落ち着いてきた頃合いに、レオンからレンタルハウスへ合流します、とだけ連絡が入った。軽傷だったはずもないのだが、メルファリアはそのことを失念したまま素直に喜び、涙をにじませた。

「良かった……」

 早々に復帰できるとはどういうカラクリなのかとリサは勘ぐったが、すぐに分かることだろうからと、それ以上は考えなかった。


「そうだ、姫さんには世話になってるからね。ちょっとサービスするね」

 そういってエマリーは、アシッドクロウに関する手持ちのデータを幾つかメルファリアに渡した。有用な情報を見出して高値で売る、それがデータマイナーだ。だから、普通は情報の安売りや無償提供はしない。

「今回は特別だよ。あんたとは今後もいい関係でいたいから、トラブルに遭ってほしくないのさ」

 と、そうエマリーは言った。


 チェリルジュ星系まで遠征してスピンクスが得た情報からは、海賊アシッドクロウが二隻体制である可能性が高いことが示唆されていた。

「どうやら、あと一隻は電子戦闘に重きを置いたステルス艦らしい。これはもう、海賊船なんかじゃない、完全に軍艦だよ」

 旧式の改造船をこれ見よがしにしておいて、裏ではステルス艦が動き回っていたって訳だ。


「つまり、そのステルス艦がトーラスではガストンを救出して、今はこの星にいる可能性が高いって事になるね」

「だからあの時は、消えてしまったように見えたのですね……」

「相手がステルス軍艦じゃあ、アタシらが電子戦で優位に立てるとも思えないね」

 両掌を上に向け、関わりたくはないねえ、とおどけたように言ったのは冗談ではなく本音だろう。


 程なく陽が傾き、乾いたザルドスの空にささやかな夕焼けがきれいなグラデーションを描いていた。夕食の準備が整ったことをマルコがひとこと報告して、またすぐキッチンへと消えていった。


 もう夕方なんですね、とメルファリアが窓の外を眺めると、リサが短く相槌を打った。

 同じ時、同じ景色を見ながら、プロミオンの装輪車はレオンとアリスを乗せ、またレンタルハウスを目指して砂礫ばかりの不整地を西進していた。


ピザ同様、パスタも永遠に不滅です。(断言)


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