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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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13.気分転換(1)

銀河を縦横に飛び回れるようになっても、人体が紫外線からダメージを受けるのは変わらないです。

宇宙船内の方がよほど快適、なのかもしれません。

 惑星ザルドスに季節感はあまりない。それは地軸の傾きが僅かでしかないからだ。

 観光資源が乏しいのには、そういった理由もある。


 低緯度地域は一年中暑く、高緯度地方はいつも寒い。赤道上でもなんとか過ごせる程度にテラフォーミング調整したからか、南北極付近の氷結面積は大きめだ。レオン達が訪ねた別荘のある地域は中緯度のやや南寄りだが、標高があるため暑さはそれほどでもない。ただ、夜間は思いのほか冷えて寒暖の差は比較的大きい様子だった。


 眠る必要のない身体をもつアリスは、夜明け少し前に外に出て、曙を眺めながら周囲を散策して歩いた。散策というよりは、偵察だ。上空に滞留するドローンよりも、アリスが歩いたほうが地上の情報は豊富に収集できる。


「朝日が昇る光景はなかなか良いですね。記録しておきましょう」

 そう呟いた後、アリスは自分たちの乗ってきた装輪車両へと足を向けた。この星のGPSとのデータリンクを調整しておかなければならないと判断したからだ。


 周囲には常時数機の観測ドローンを飛ばしているので、観測範囲内ではそれらの情報を統合してGPSよりも正確にナビゲートすることは可能だ。だが当然、MAYAは装輪車両の不調をそのまま看過したりはしない。


 やがてアリスが別荘内へ戻るころ、他の者たちも起き出して二日目が始まった。

 アリスの次に早く起きたのはマルコとアントニオのコンビで、彼らは建物内外の掃除を行い、朝食も全員の分を用意してくれた。香しい焼きたてクロワッサンまでもがお手製だと知らされ、レオンは素直に二人を尊敬することにした。そして、エマリーさんは何を基準にメンバーを選んでいるのかと、少し疑問にも思った。

 緑黄色野菜たっぷりのスムージーが出されたが、皆それぞれ色が違っているという凝りようだった。


「昨晩は、あまりよく眠れませんでした。気分を切り替えたいのです」

 メルファリアが、少しだけ控えめに皆に願い出た。

「ええ。それが宜しゅうございますね。具体的には?」

 リサが速やかにハンディ端末を取り出してリズミカルにタッチ、或いは指を滑らせる。

 実体画面のあるハンディ端末を使うのは、不特定多数に対して情報を周知するためだ。リサの口から説明するよりも、表示された画像や動画を皆に提示する方が手っ取り早いのは、白板に手書きしていた遥か過去から変わらない。


「ショッピングに出かけようと思います」

「ブラウンヒルですね? 承知しました」

 装輪車両で三十分も走れば、ブラウンヒルという町がある。プロミオンを降下着陸させている荒野とは反対方向だ。町へ向かうには、舗装はされていないが道路と呼べる程度に踏み固められたルートが存在していた。


 ブラウンヒルはどうということのない地方の小都市だが、他には近くに見当たらないのだから仕方ない。リサが早速、訪ね先の候補をリストアップする。手際よく操作する手元端末を、メルファリアが顔を寄せて覗き込む。

「姫様はここのところ、……具体的に言えば騎士レオンに出会ってからというもの、嫌なことが続いているのではないでしょうか」


 その繋げ方には、悪意がありませんかね、リサさん?


「一面ではありますが、事実ですね」

「おいおい、アリスまで」

 そういえばここまでのフライトの途中、ミリセント星系のあたりだったか、メルファリアが熱を出して寝込んでしまったことがあった。ウィルスの増殖も認められず、原因不明のまま二日ほどで熱は下がり、三日目には回復してしまった。それこそ冤罪だと思うが、リサはメルファリアの体調不良の原因をどうにかしてレオンのせいにしようとしているフシがある。


 するとメルファリアが、おどけた顔をレオンに向けた。

「なるほど~、興味深い考え方ですね?」

 と首をかしげる。その仕草はとても可愛らしいのだけれども。

「メルファさんまで!」

 ひどいじゃないですか。


「ふふふ、冗談です」

「もう。……けど、俺も気分転換したくなってきたかな」

「そうでしょう? では、行きましょう、早速!」

 メルファリアが両手を胸の前でぐっと握り、力を込めた。


 早速、とは言ったものの、レオン以外はみな女性だ。身支度にはそれなりの時間がかかる。というか掛ける。これだけの時間をかけてどれほどの化粧を施すのかと思いきや、レオンの目からは皆あまり印象が変わらない。が、それを口にしてはダメ、絶対に、だ。


 あとからアリスに聞かされたところでは、メルファリアとリサは肌荒れ防止が主目的の基礎メイクのみなのだとか。

 まあもともと、メルファリアさんに化粧なんて必要ないけどな。

「レオンも、と言いますか男性も、UV対策くらいはしても良いのではないでしょうか」


 そう言うアリスにとっても、ベースメイクによる紫外線の遮蔽は表層保護にメリットがあるのだそうだ。アンドロイドのくせに生意気な、とは言わないでおく。助言に従って、レオンも紫外線遮蔽クリームを顔や首筋に塗ってみることにした。


 化粧などと共に出かけるための身支度として、皆それぞれににラフな格好に着替えた。レオンとアリスはジーンズ姿である。メルファリアはハイウエストのスカートに白いブラウスとベレー帽。レオンは、ワンショルダーの小ぶりなバッグの中に短剣と護身用拳銃を忍ばせた。


 そんな中、なぜかリサが頑なに給仕服に拘った。リサの給仕服はかなり質の良さそうな生地を使って上品なデザインに仕立て上げられており、コスプレのような安っぽさは無い。でもやはり、目立ってしまいそうではある。


「目立つのではないですか?リサもラフな格好をなさい」

「ですが……、わかりました」

 メルファリアの指摘を受けて普段着に着替えたリサは、アースカラーのゆるふわ女子風だった。割と地味目な色彩でシルエットをぼかしていたが、レオン以上にアリスの目は誤魔化せなかった。


「推定Gカップかと。レオンはどう思いますか?」

「おい、それはハラスメント案件だぞ?」

 アリスからそんな問いかけがあることに、レオンは普通に驚いた。

「私と同じように、目測しているのかと思いましたが」

「俺が? そんなに注視してないだろ?」


「では、何秒間見つめていたか、お答えしましょうか?」

「……すみません、反省しています。許してください」

 自覚は無かったんだが。俺はそんなに見ていたのか。

 うーん、気を付けよう……。


 実際レオンの視線がその付近にあったのは一秒未満だ。アリスと違って目測するに十分な時間ではなかったが、謝ってしまった後では、そんな事実はもはや意味がなかった。

 アリスは着実に駆け引きを学習しているようだ。


 §


 町までの移動手段である装輪車両には、当然のようにレオンがドライバーズシートに乗り込む。それに合わせてこれまた当然のように、アリスがナビシートに乗り込んだ。メルファリアとリサは二列目シートに並ぶ。


「昨日もそうでしたが、レオンは運転ができるのですよね、素敵ですね」

 メルファリアの言う素敵ですね、にはレオンだけでなくリサまでも敏感に反応した。

「ま、まあ、こんな田舎でもないと使い道のないライセンスですわね~(棒)」


 気にせずレオンは上機嫌で装輪車両を動かし始める。アリスは横を向いて微笑んだ。

「私は有効なライセンスを持ちませんが、運転はできますよ」

 この装輪車両のGPSリンクについては既に再調整を済ませたので、道路と定義されていれば今はもう完全な自動走行が可能だ。けれどもアリスはそのことは話さず、レオンの運転に任せたままにした。


「各惑星のGPSとリンク出来なくてもこうして移動できますからね、UNP職員は取得している奴が多いんですよ」

 レオンが装輪車両の運転ができるのは、UNPにおける業務の一環として小型装輪車両操作のライセンスを取得したからだ。アームローダーもそうだが、職業柄義務的に取得したものなのだ。


 もっとも、小型車両のライセンスなど、どこの星でもそれほど厳密に取り締まりなどの管理がなされているものでもない。人類域じゅうを見渡しても、各可住惑星には大抵数億人程度しか住んでいないのだ。ザルドスもそう。だから例えアリスが運転しても、それを咎める者に出くわす可能性はかなり低い。地上は目の届かないところだらけなのだから。


 プロミオンから地上に降ろした装輪車は、泥濘地用タイヤを装備した六人乗りの不整地走破用電動車だった。三列目を折りたたんでカーゴスペースとしても使用できる。満充電時の航続距離は五百キロメートルほど。GPS任せの自動運転も可能だが、日々地形が変化する可能性のある砂漠地帯とその周辺では最適に動けないこともあるし、レオンはそもそも運転するのが嫌いではない。

 素敵ですね、なんて言ってもらえる可能性がある限り、レオンはいつまでもハンドルを握りたがることだろう。はっきり言って単純である。


どの惑星も、地上には電波を遮る様々な障害物がありますから、やはりGPSは人工衛星的なものが担うでしょうね。

或いは高高度飛翔体か。


赤道上に一つながりのリングを浮かべるのもいいかもしれませんね。直径十万キロくらいで。

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