11.スピンクス
地球人類が移住するにふさわしい惑星って、この銀河にどれくらいあるんでしょうね。
地球より大きい星と小さい星、どちらがお好みですか?
ドアが開けられ、四人を出迎えたのは、燃えるような赤毛の女性だった。
年の頃はレオンよりも幾つか上であろうか。身の丈はアリスと同じくらいかと思うが、更にメリハリの利いたプロポーションと、それを鮮烈に印象付けるファッションセンスを備えていた。レオンの持つデータマイナーのイメージからはかなりかけ離れていたが、それは単にレオンの偏見だったかも知れない。
「やあ、姫さん、久しぶり。元気だった?さあさあ、今日は賑やかにいくよ!」
賑やかだな、確かに。一人でも賑やかなんじゃないだろうか。
スピンクスの姐さんは、メルファリアさんのことを「姫さん」と呼ぶらしい。
「お互い初対面が多いからね、まずはアタシから自己紹介するよ」
リビングルームに招き入れられたレオン達は、人数分用意されたソファにおのおの腰を下ろした。
「まずは、アタシがエマリー。姫さん以外は初めてだもんね」
派手な女性はエマリーさんか。とても陽気そうな人だ。専用の宇宙船を駆ってチームで活動する、データマイナー「スピンクス」のリーダーだ。
次に、左右に控える男性メンバーを紹介された。
「こっちはマルコ。アタシの頼りになる右腕さ」
「よろしく」
長身の美青年は立ち上がり両手足を揃え、丁寧に頭を下げた。細マッチョである。
「この子はアンソニー。ボディーガードなの」
「アントニオです。よろしく」
もう一人の男 ――いや、少年と呼ぶべきか―― は、はっきりとした口調でそう訂正した。
「この子、こう見えてすっごく強いんだよ? なめちゃいけないよ、アタシ以外はね」
アントニオのささやかな抗議は軽く流された。
見るからに紅顔の美少年だが、彼女が言うには一人前の男なんだそうだ。異議は受け付けられないのだと思う。余計な感想などは述べたりせず、メルファリアたちも自己紹介をして応えた。
「まずはさ、食事にしよう!」
エマリーさんは、お腹が空いているようだ。
ふと窓から外を眺めると、もう日が傾く頃合いだ。レオン達にも異論を唱える者はいない。
「ピザで良いよね?」
勢いはそのままに、エマリーさんが何とも嬉しそうにそう聞いてきた。
世の中には苦手な人もいるかもしれないのに、この姐さんはとてもピザを食べたそうにそう言った。ここで否定的な見解を述べたりするのは、至難の業だろうと思う。そもそもピザ以外の選択肢があるのかどうかも怪しいところだ。
「これから焼くところだから、好きな具材があったら言ってよ?」
もう具材の話題に入った。やはり選択肢はピザ以外にはないのだ。姐さんはとてもピザが好きそうだ。
先程紹介されたばかりの男子二名が厨房へと向かう。腕まくりをしたマルコは早速生地を捏ね回し、アントニオは具材の下ごしらえを始めた。いつも通りの、手慣れた段取り分担と手順のようだった。
エマリー姐さんは厨房には向かわない。
「アタシの船には石窯がないんだよ~」
「ピザを焼くための石窯ですか? それはアストレイアにもありませんね」
スレイプニール号にも石窯はなかったな、とレオンは自分の知り得る一番上等な船の思い出を頭の中で検索した。
「いやー、宇宙船に石窯はまず無いでしょ。場所を取るし重いし。大型客船にもあるかどうか……」
「グロリアステラには確か、ありましたわね」
メルファリアがさらりと言ってのけた。
「あー、そりゃあ、世界一位二位を争う大型豪華客船ですから」
グロリアステラ号というのは、スターズ・アンド・プログレス社所属の最上級豪華客船で、幾つもの審査を通過した者でなければ乗ることはできないと言われている。世の中の大多数の人は眺めることしかできないような敷居の高い船なのだが、メルファリアにその認識は無いかもしれない。
エマリー姐さんの言う通り、このレンタルハウスには、なんとも立派なピザ焼き石窯が設えてあった。
「グロリアステラ号には及ばないだろうけどさ、ここの石窯もなかなか立派だよ」
姐さんはピザが大好きなだけでなく、かなりこだわりがある様子。
これだけ広く人類が散らばった現在でも、殆どの星ではポピュラーな料理としてピザは存在している。だからこんな田舎惑星の片田舎にある別荘にもピザ焼き石窯があったりするわけで、むしろ好物の一つに数えるレオンとしては喜ばしい。
「そりゃあ石窯じゃなくてもピザは焼けるんだけどさ、気分の問題でね」
うんうん、わかります。
「でも、ピザの焼ける石窯があるレンタルハウスがあまり無くてさ」
だからここを指定したんですか。うん、わかります。
その目当ての石窯は、大判のピザが三枚同時に焼けた。ここでレストランでも開業しようとしていたのではないだろうか。そう考えると、この建物の間取りもそのように使えなくもない、と思えてくるから不思議だ。
人数よりも大きめのテーブルに、次々とクリスピー生地のピザが並べられる。それは木製の平らな皿に乗せられ、それをアントニオがこれまた手際よく切り分ける。
リサが茶を淹れようと厨房に向かって、テーブルには四人が残った。
「レオンさん、あなたランツフォート家の騎士様なんだろう? それにしちゃ普通っぽいから気軽に話しかけちゃって、ごめんなさい」
「いいですよ、気軽なままで。俺としてもその方が」
主人であるメルファリアに気軽に話しかけておいて、護衛役には丁寧に話すというのではバランスがとれまい。
「でも、メルファリア様の名誉を損なうようなやり取りはできませんよ?」
「わっかてるってー。姫さん、ちゃんと教育してるんだね。たいしたもんだ」
「ええ、まあ。私も勉強中のようなものですけど」
エマリーが居住まいを正し、真面目な顔でメルファリアを見た。
「今日来たメンバーには、調査結果を伝えても良いということだね?」
「はい、そうです」
とは言ったものの、先ずは腹ごしらえだ。
ピザは熱いうちに食べるに限る。これはピザの為でもあるのだ。
冷めたピザは美味しくないと思います。
温め直してもイマイチだと思うんです。
そして、そう思われるのはピザにとっても不本意だと思うんです。




