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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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9.はじめてのプロミオン(2)

もしかしたら、数千年後の立体映像には触感も備わっていたりして。

そうしたらインターフェースなしでVRが楽しめます。

もはや魔法ですね。

「デリケートな話題ですから、私一人でお話してきます」

「俺の心も割とデリケートなんだぞ」

 とはいえ、リサはレオンを疑っているわけだから、レオンが話をするよりはマシか。一抹の不安を拭いきれないが、ここはアリスを信じて待つしかあるまい。


 残りの珈琲をカップに注ぎ、よろしく頼むよ、とキザなポーズでレオンはアリスを送り出した。

 アリスは通路を歩きながら、船内通信で予めアプローチする。誰がどこに所在しているのか、プロミオン内であれば探すまでもない。メルファリアにあてがわれた船室内に、アリスの音声が流れる。


「メルファリア様、アリスです。少々込み入ったお話があります」

「はい」

 メルファリアは天面から聞こえてくる音声に短く反応した。


「私一人ですが、入室を許可頂けますか?」

「わかりました。どうぞ、お入りください」

「ありがとうございます」

 アリスは歩みを止めず、その歩くタイミングに合わせて船室のドアが開き、そして静かに閉じた。


 そこでどんな話がなされたのか、レオンはついに教えてもらえなかった。

 結果として、そもそもメルファリアはレオンを疑っていないこと、リサも納得してくれたこと、だけを伝えられた。


「女子同士の会話の内容を、訊こうだなんて思わないことですよ?」

 そう言うメルファリアの目は、完全にいたずらっ子のソレだった。

「そうです」

「その通りですよ、レオン」


 どういうわけか、女子たちの親密度が上がっている。アリスは、ガールズトークは得意なのか。

 分が悪いな、ここは退こう。戦略的撤退ってやつだ。

「はいはい、仰せのままに」


「はい、は一回でよろしい」

 メルファリアが楽しそうに言った。

 ……うん、かわいい。

 もうね、その笑顔ですべて水に流します。

「はい」

 リサが不機嫌そうにこちらを見ているが、スルーしよう。



 結局のところ、プロミオン艦内に絵画や観葉植物が実際に置かれることはなかった。

 ただし、メルファリアとリサの目の届く範囲に限っては、居室の片隅などの特定の位置に、鉢植えの観葉植物が「出現」する。ドラセナという種類らしいが。


 つまり、ホログラム映像だ。

 近くを通り過ぎると空気の流れに合わせて葉が優しく揺れるし、時間経過に従ってちゃんと生育もする、高密度で贅沢なホログラムが配置された。

 映像に合わせて匂いも大抵のものは合成できるそうだが、それは遠慮することにした。


「うん。本物ではなくとも心が和む瞬間があるね、たしかに」

「来週はベンジャミンに替えてみましょうか?」

 レオンは素直に感心した。目的は達成されている。観葉だから、実体に触れて感触などを確かめるのが主たる目的ではない。それを見た人に与える心理的な影響こそが、重要ということだ。


「マンマシンインターフェースの私が、人と同じ外観でここにいます。要はソレと同じことでしょう?」

「……まあ、ね」

「私に対しては、触って感触を確かめてもらっても、一向に構いませんけど」

 自分アピールも忘れない、AI恐るべし。



 乗船者が三人に増えてみると、それだけでやけに賑やかな雰囲気になった。緑も飾ってあるしね。これまでには無かったことで、プロミオンは一旦ラーグリフに収納・ドッキングされて、水や空気の補給をしなければならなくなった。なにせ新たな乗船者二名は、飲料水を遠慮せずに使う。食事も、レオンだけだった時のように即席食ばかりで済ます訳にはいかないのだ。


 まあ補給をするとは言っても、すべてMAYAにお任せで済むので少々の時間を割くだけでしかないが。

 ラーグリフの最後部にある外装甲板が動いて開口部を作り、後部甲板の下部にある専用格納庫にプロミオンは収納される。変形機構を持つプロミオンは地上への降下時と同じ形態をとり、左右の安定翼は収納したままで前映投影面積を最小化して庫内に収まった。


 プロミオンは、収納時にはラーグリフと一体化してコントロールされるよう、データコネクトと人が通れる通路も連結される。いずれラーグリフの内部を見学してみたいとレオンは思うが、通常時は人の活動できる環境を整えていないので、あらかじめMAYAに依頼をしておかなければならないのだろう。


 そして、ここでレオンは意外なことに気付かされた。

 レオンにとっては意外だった、という事でしかないわけだが。


 メルファリアとリサは、プロミオンがラーグリフにドッキングしてから補給を終えて再び離脱するまで、ラーグリフに対して全く関心を示さなかったのだ。今や失われてしまった部分もある先端技術の集合体、人類の英知の結晶たる、この全銀河自動航行探査船ラーグリフのことを、だ。


 彼女たちは、自分の使う士官室をどのようにドレスアップするかで終始盛り上がっていた。いやむしろ、それが全てだった。レオンはラーグリフに関する知識を睡眠学習で溜め込んでいるので、会話のネタとして共通の話題が増えるのではとも目論んでいたのだが、見事なまでに空振りをしてしまった。


「どうしました? 人が増えたというのに、何やら寂しそうです」

 船外を目視できる数少ない船窓から、ぼんやりと遠ざかるラーグリフを見詰めていたレオンは、アリスに声を掛けられて嘆息した。


「女子には、このラーグリフの凄さは解らないのかもね」

 精一杯の負け惜しみを言ってみた。

 が、

「そういうレオンは、女子の気持ちがわからないかも? ですよ」

「……」

 こてんぱんでした。


プロミオンに対して、ラーグリフの全長はおよそ十倍ほどあります。

体積もしくは重量で比較するならば、数百倍以上になります。

プロミオンで使う程度の水と空気ぐらい、いくらでも補給できるのです。

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