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プロローグ


白いひざ丈のワンピースにあしらわれたレースをひるがえし、週末の街中を軽い足取りで歩く。

今日は待ちに待った週末。

日頃の仕事のストレスを、ウインドウショッピングでもして発散をしようと須藤 あきらは次の目的地へ向かう。


午前中に入った店には自分の眼鏡に叶うものは見つからなかった。

買い物に出る度に欲しいものを買っていたら多くない給料ではやっていけないのだから、こうやってたくさんのものを見て回るだけでも楽しいし、自分にとっては必要なことなのだ。


電車に乗り隣の街へ行こう。過ぎ行くショーケースに反射する自分の顔をちらりとチェックする。よし、ばっちり。今日も可愛くできた。



ホームに着いた瞬間見計らったように電車が来る。昼過ぎの休日、車内は100%越えの乗車率。

仕方ないのだけれど、これに乗り込む。たった数駅なのだから少しくらいは仕方ないのだ。

「ドアが閉まります」

プシューという音と共に扉が閉まる。


電車に揺られて10分は過ぎただろうか。目的の駅まではあと数分。太ももに違和感を感じた。


「(あぁ、これは…)」


不快感を感じつつも、あと数駅だから少しだけ我慢をしようと思っていた矢先、太ももに触れていたであろう手は離れて同時に声がした。


「痴漢ですよね、次の駅でおりましょうか。」

捕まえられた男は喚く。自分は俯いたまま喋れずにいた。


「(ヤバいヤバいヤバい…)」


助けてくれた人はその様子を、恐怖から怯えているのだと思ってくれたのか、大丈夫だから、と優しく声をかけてくれた。

確かに不快だった、恐怖こそ感じないにしてもやめて欲しかった。

でも、違う。そんな事ではなくて…

困惑した様子を見せた須藤あきらは、女性ではない。


週末に女装をして出かけるのが趣味の男だったのだ。




間もなく電車は駅に着いた。促されるままホームから駅員室へと足を向けた。

終わった、こんな奇異の目に晒されるくらいならあと数分程度我慢したのに。この後のことを考えると涙も出そうになる。

このまま女として通せないだろうか、何を聞かれるのだろうか、この場で逃げたらなんとか…ならないよなぁ。


そういえば、さっきの男は電車を降りてからもずっとうるさい。喚いてもどうにもならないんだからさ、さっさといこうぜ?

俺ももう覚悟を決めたよ…俺も男だ、腹を括るしかねぇ。

階段に落とした視線を上げた、途端、視界が揺れた。


あの痴漢野郎、懇親の力で逃げようとしやがった。拍子で突き飛ばされた俺は転倒。

うそだろ、こんな所で。せめて登りきってからにしてくれよ。

階段を転げ落ちる俺。体のあちこちは痛いわ、お気に入りのワンピースは汚れるやらで散々だ。

走馬灯なんかも見えてきた。

そういえば走馬灯って今まで生きた中で、どうしたらこの現状を打破できるのか脳が全力で考えているから見えるって何かで見た気がする。

あぁ、でももう無理だ。全然体に力が入らねぇ。


頭でも打ったのか、床には血が流れていた。

頭ってキレやすいっていうもんな…ていうかあの痴漢野郎絶対許さねえからな…

道行く女の叫び声が聞こえる。俺も1度くらい黄色い歓声を受けたい人生だったなぁ。

うすぼんやりと考えながら目を閉じた。



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