♯8 初めての依頼
《人間》
最も数が多く、平均的な能力を持つ種族。これといって突出した能力は無いが、魔力属性の魔法を使う事が出来る。
冒険の王国・ゼルガルダルに、新しい朝が来た。
朝日が昇ると同時に国の住民は店や家の支度を始め、飲んだくれていた冒険者は二日酔いの頭を押さえながら宿へと戻っていく。
『あ~。朝になっちまった⋯⋯』
俺はというと、昨日の夜中から色々な事をメモ書きしていた。
例えば当面の目標。最終目標。ゲームとこの世界の違い等々⋯⋯元々筆は速いほうじゃなかったし、一日の周期が早いから終わらなかった。
この世界。一日の時間が二十時間なんだ。四時間も違えばそりゃあ早いわな。
『⋯⋯まあ、良いか』
そう呟いてベッドの方へ目を向ける。そこにはメリノが穏やかな寝息を立てて眠っていた。
宿を取る際、出来るだけ金の消費は抑えようというメリノの言葉で相部屋にする事になった。
メリノは疲れが溜まっていたのかすぐに寝てしまい、暇になった俺はメモを書いていた訳だ。
メモはこの世界の人間に読まれない様に、日本語とローマ字と英語を混ぜて書いている。あれだ、用心に越したことはないって事だ。
んで、メモの内容だが⋯⋯。
一つ目は当面の目標。目指すのはSランクだ。王族からの依頼を受けられる様にはなりたい。
王族はゲームだとシルトナリアの大半の事象を知る人物、という設定だ。この世界の王族も同じだろう。ゲームと殆ど酷似してるからな。
二つ目は最終目標。これは自分の身体、記憶も取り戻して元の世界に帰る。恐らく王族がこの方法を知っていると思われる。
自分の身体がどうなってるか分からないし、記憶も取り戻せるか分からない。もしかしたら元の世界に帰る事すら出来ないかもしれないが、その時はその時だ。まずはこれを目標とする。
三つ目はゲームと世界の違い。昨日メリノに聞いただけでもかなりの数があったが、その中でも特に気になるのがあった。
それは三界大戦と呼ばれる戦争だ。俺が今いる地上。魔族や魔王が住んでいる魔界。天人や天使が住んでいる天界の三つが戦争を起こしているらしい。
しかも一番驚いたのが、地上と魔界が同盟を組んで天界を打倒しようとしている事だ。
何でも、天界は偶像の神を信仰していてそれを地上や魔界に強制的に信仰させようと戦争を仕掛けたらしい。良くある宗教戦争が大きくなったものみたいだな。今はどちらも消耗していて冷戦に近い状態で、時々ちょっかい出し合う程度に留まってるらしい。
昨日のワイバーンの襲撃。もしかしたら支配していたのは天界の誰かかもしれない。今後も注意していかないとな。
「⋯⋯う」
『んあ?』
「ん~⋯⋯おはようございます、ご主人様」
時間も時間なのでメモをストレージにしまうと同時にメリノが起きる。
『おう。おはよう。良く寝られたか?』
「はい」
『じゃあ飯食って少し買い物してギルド行くか』
「分かりました」
その後、メリノが飯を食い終わるまで俺はストレージとアイテムポーチの中身を整理した。
朝食が終わると商業ギルドで、もしもの時の為にポーションを数種類。メリノのアイテムポーチ。武器として黒鉄の巨大針を十本程買った。
ちなみにポーションなんだが、大体の人は自動効果スキルでHPやら何やらは回復出来るからポーションを使う人はあまりいない。
勿論需要が低い訳じゃないが、少し休めば回復出来るんだからわざわざ金を使う人はいないだろう。まあ即座にMPとか消費無しで色々回復出来るから俺は良く使うけど。
因みにゲームだと、スキルの習得には三つの方法がある。
まずは修練。Lv上げも含まれていて、自分の腕を磨けば自ずと手に入る方法だ。大抵の人はこれで手に入れる。
次は職業登録。職業を登録をすると同時にスキルが手に入る場合がある。一番手っ取り早いし、確実性も高い。
最後は技能水晶という特殊な魔道具を使う。これは魔物の核⋯⋯つまり魔石を加工した物で、その水晶を壊すとスキルが入手出来る。
ただかなり高価なのと、何のスキルが手に入るか、どのくらいのLvなのか分からないというギャンブル染みた物なのであまり人気は無い。まあ、鑑定眼を使うとどんなスキルなのか分かるっていう裏技があるんだけどな。
メリノにこの事を聞いたら同じ様なものらしい。ここら辺は変わってないみたいだな。
そんなこんなでギルドに着く。中に入ると早朝だというのにガヤガヤと騒がしい。
『さてと、受付はどこだ?』
「恐らくあちらだと思います」
メリノが指差した先にはカウンターがあり、そこではガルスと受付嬢が忙しそうに冒険者の対応をしていた。俺達は冒険者の列に並び、順番を待つ。
『⋯⋯そういえばEランクが受けられる依頼ってどんなもんだろうな?』
冒険者が受けられる依頼はランクによって分けられる。
例えば俺のランクがEなので、Eランク以下の依頼は受けられるがDランク以上の依頼は受けられない。
ランクを上げる為の特殊依頼の場合のみ、一つ上の依頼を受けられる。といった仕組みだ。
「Eなので⋯⋯恐らくバーサーク・ベアやトレントの辺りかと」
『ああ、あの辺りか。面倒な敵が多いんだよなぁ⋯⋯』
トレント辺りの敵と言うと、状態異常等の搦め手型や擬態を使う奇襲型、スキルによる強化を使う魔物が多い。例で言うと先程メリノが言ったバーサーク・ベアや毒爪を使うコカトリスだ。
俺は耐性スキルが充実してるがメリノはそうじゃない。注意しとかないとな。
「次の⋯⋯って、兄ちゃん達か」
『よっ!』
「おはようございます」
俺達の順番になり、受付の前に立つ。この受付はガルスが対応していた様で、何かの書類を捌きながら顔を向けてくる。
「早速依頼か?」
『おう。何か無いか?』
「兄ちゃん達が受けられる依頼だと⋯⋯この辺りか」
ガルスが出したのは三枚の羊皮紙。どうやら王国の周りにある町村の住民が出した依頼が書かれている様だ。
『えーっと?』
一枚目はコカトリス一匹の討伐。村の結婚式でコカトリスの肉を使いたいらしい。報酬はそこそこ。
二枚目はオークの群れの討伐。町の周りの森で出没し始めて町民が怯えているらしい。報酬は普通くらい。
三枚目はマンドラゴラの採取。村の薬剤師がポーション作りに欲しいらしい。周りに魔物が出るため、自分じゃ怖いらしい。報酬はこの中で一番高いな。
『どれもまあまあだな』
「オークはどうでしょうか? この魔物は巣穴に様々な物を貯める習性があるので、もしかしたら有用な道具が手に入るかもしれません」
『報酬の値段で言ったらマンドラゴラだけどな⋯⋯なあおっちゃん。依頼の魔物ってどの辺りで出るんだ?』
「全部ここの森に生息してるぞ」
ガルスはカウンターの下から地図を出し、それを広げて一点を指差す。
そこはEランクエリアである奇声の森。特異な形状の樹木が、名前の通り奇声の様な音を上げる。
気が弱い者はここの声を長時間聞くと気が狂うとも言われていて、その不気味さからゲームでも殆ど寄りつかれなかった場所だ。
ただしその森の中心には奇樹の短弓と呼ばれる武器があって、その武器はかなり優秀だったからオークションで高値で売れてた。
もしかしたら残ってるかもしれない。見つけたら即座に売っとこう。
『んじゃあ、これ全部受けるわ。出来る?』
「全部って⋯⋯いや、ワイバーン倒したお前らだ。こんくらい余裕だろうな」
そう言ってガルスは依頼票を渡してくる。どうやら簡単な魔法言語によって討伐した数が勝手に表記されるらしい。
魔法言語というのは、魔力で書いた特殊な文字の事だ。何かに書いたりする事で能力を付与する。
一番簡単ややつだと⋯⋯例えば適当な魔石を埋め込まれただけの腕輪があったとしよう。それに魔法言語で『火炎』『守護』という文字を魔力を込めながら書く。そうするとその腕輪は火炎属性の耐性を上げてくれる魔道具となる訳だ。
文字自体は難しくないし、余裕で覚えられる。ちなみに俺も魔法言語は覚えてるから、色んな付与を施す事も可能だ。
「それじゃあ、油断せずに行ってこい!」
『おう! さっさと終わらせてくるわ!』
「行ってきます」
数分後。ロング・ジャンプを使用して奇声の森にやって来た俺達は目的の魔物を探し始めた。
『えっと? コカトリスとオークとマンドラゴラだっけか』
「そうですね。マンドラゴラなら日の当たらない湿地に群生してた筈です」
『オッケー』
暫く歩くとジメジメッとした湿地に出る。地図記憶スキルによれば森の南側。中央に近い場所の様だ。
「蒸しますね⋯⋯」
『そうか? 俺はこの奇声が気になるんだけど』
キーッ! ともキェーッ! とも聞こえる奇声が耳に響く。相変わらず五月蠅いな⋯⋯やっぱりここは嫌いだ。
「そうでした。ご主人様はリビングアーマーなので温度や湿度は関係ありませんでしたね」
『なんか嫌味を言われた気がするけど気のせいって事にしとく』
湿地の中央には深緑と紫のまだら模様の草が何本も生えている。
この気持ち悪い色の草がマンドラゴラだ。ヒール・ポーションやマナ・ポーション等の材料になる。
『さて、早速採取するか』
「耳栓付けるので待ってください」
『おっ、そうだったな』
マンドラゴラは確かにポーションの材料になる優秀な薬草だ。見た目は先程の葉っぱに人の様な形の根っこが生えている。
しかしマンドラゴラには一つ罠がある。それは引っこ抜いた瞬間、人の様な形をした根っこから奇声が発せられるんだ。
ただの奇声なら良いんだが、聞いた者を混乱状態に陥れる。ちゃんとした対処を行わないと全滅の危険もあるんだ。
『それじゃあ、引き抜くぞ』
「はい」
『せーっの!』
俺はメリノが獣人用の耳栓をつけ、更に耳を塞いだのを確認すると一気に引っこ抜く。そして次の瞬間
「キィイヤアアアアアアアアアア!!」
『ギャアアアアアアア!』
「⋯⋯っ!」
滅茶苦茶高い金切り声でマンドラゴラが叫んだ。俺は耳栓をつけられないので諸に声を聞くことになり、ついつい俺も叫んでしまった。
暫くするとマンドラゴラは声を潜め、遂には叫ばなくなる。
『ハァ⋯⋯うるさかった⋯⋯』
「これで一本目なのであと四本ですね」
『うっそだろ!? あの奇声をあと四回も聞かなきゃならないのかよ!』
でも依頼達成しないと金が⋯⋯Sランクも遠のくしやるしかないか。
『っていうか一度に全部引き抜けば良いんだよな! 影分身!』
俺は影分身スキルを発動。すると少し黒ずんだ俺が三人生み出された。
《陰分身》HP10固定の分身を生み出す事が出来るスキル。Lvが高い程生み出せる分身の数は増える。
分身を含めた俺はマンドラゴラを一斉に引き抜く。
「「「キィイヤアアアアアアアアアア!」」」
『うるせぇええええええ!』
「⋯⋯」
先程とは違い、奇声が四倍になって聞こえてくる。混乱は効かないとはいえ、この奇声を聞くのは二度と御免だ。
『さ、さあ⋯⋯次に行こうか』
「大丈夫ですか?」
『あんまり大丈夫じゃない⋯⋯』
う~、気分的に気持ち悪い⋯⋯耳を塞げないってこんなに辛かったんだな。
『⋯⋯よし、もう大丈夫だ。次行こう、次』
「分かりました」
俺は影分身を消すとコカトリスが生息してるらしい森の中央に向かう。その道中に依頼にあったオークの群れに出会ったので全滅させといた。
『さて、この辺りの筈なんだけど⋯⋯』
森の中央は先程の湿地と違い、薄暗い森が続く。
「ご主人様」
『おん?』
「見つけました。コカトリスです」
メリノの指差す方向には巨大な鶏に蛇が尻尾の様に生えている魔物がいた。何やら木の実を食っている様だ。
奴がコカトリスだ。毒の蹴爪を持つ鶏に、猛毒の牙を持つ蛇の尻尾を持っている。
『どうする?』
「コカトリスの羽毛は高級寝具の素材として高く売れるのであまり傷付けたくはありません。なので炎や土の魔法はよろしくないかと」
『じゃあ風の魔法が良いか⋯⋯』
「いえ、私に考えがあります」
そう言うとメリノは針を二本取り出して睡眠攻撃スキルを発動。針は薄い水色の魔力を纏った。
《睡眠攻撃》武器に睡眠属性を付与するスキル。通常よりも状態異常に掛かる確率が高い。
「クイック・スロー」
その針をコカトリスの鶏の頭と蛇の頭に、投擲術のクイック・スローで攻撃。針は見事に頭部に突き刺さった。
「クエッ⋯⋯!」
睡眠効果のついた針を刺されたコカトリスはそのまま倒れて眠りに落ちる。
メリノが使ったのは属性攻撃スキル。属性攻撃と言っても状態異常系の属性しか無いんだが⋯⋯このスキルを使えば武器を当てなければならないが魔法や道具よりも即座に効果が発動するメリットがあるんだ。
『⋯⋯眠ってるな』
「そうですね」
俺達は一応消音スキルを発動して近付く。コカトリスは睡眠攻撃の効果によってぐっすりと眠っていた。
《消音》自らの出す音を消すスキル。発動中はSPを持続的に消費する。
『で、どうすんの?』
「二つの首を同時に落とします。コカトリスは片方の首が残っていると暫く暴れるので」
『はいよ。じゃあお前は細い蛇の方を頼む』
「分かりました」
俺は斧を上段に構え、メリノは糸を蛇の首に当てる。
『じゃあいくぞ? せーっの!』
斧を振り下ろすとドンッ! と音を立てて鶏の首が飛ぶ。メリノは糸に体重を掛けて蛇の首を切り落とした。
断面からは鮮血が流れ出し、ドサリと音を立てて首が落ちる。
『うっし、討伐完了っと。じゃあメリノ、帰る⋯⋯』
ストレージにコカトリスを収納し、メリノに帰るぞ、と言おうとして振り向くとメリノは地面から岩の拳を作り出して攻撃する魔法、ストーン・ナックルで蛇の頭を執拗に潰していた。
《ストーン・ナックル》土魔法Lv4の魔法。土と岩で作り出した拳を作り出して自由に操る。
《土魔法》四属下級魔法の一つ。範囲性のある土の魔法を覚えるスキル。
『おまっ、メリノ!? 何してんだ!?』
「はい?」
『はい? じゃなくて、何で蛇の頭潰してんの!? 気でも触れたか!』
「蛇の頭は切断しても数時間は動いて危害を加えてくるので潰しています」
そういえば⋯⋯元の世界で、外国の料理人が数時間前に落とした蛇の首に噛まれて死んだ事件があったな。コカトリスもそうなのか。
だったら危なかったな。コカトリスのランクはEだけど毒だけならCランクには入る程強力だ。メリノが噛まれたら大変な事になってただろう。
『なら良いけど⋯⋯せめて何か一言くれ。心配するわ』
「分かりました。今後気をつけます」
その後、俺達はロング・ジャンプでギルドに戻ると依頼の報告をして報酬を受け取り、メリノは日用品や道具の調達を。俺はメモを書き終えて暇になったので適当な魔道具を作って時間を潰した。
はいどーも、作者の蛸夜鬼です。
今日は今まで書き溜めていた話を一気に投稿しようと思います。楽しみにしていてください。
今回はこれだけですね。ではまた今度、お会いしましょう!