♯4 テンプレな展開
『王国・町村』
王国の数は地上が十一カ国、魔界が七カ国、天界が七カ国の合計二十六カ国ある。また、町村は約百以上と言われている。
『ふぃ~。やっと街道に出られた⋯⋯』
メリノと出会ってから約三日。やっと魔樹の森を抜けて街道へと出た。
いや~、まさかとは思ってたけど地図記憶スキルが全く機能してなかったとはな。ゲームと異世界の地形が全然違うみたいだったからデータ全部すっ飛んでやんの。笑っちゃうね、アッハッハ!
《地図記憶》地図を記憶するスキル。記憶した地図は忘れる事は無く、またすぐに思い出す事が出来る。
『はぁ⋯⋯』
長年掛けて作ったデータなんだけどなぁ⋯⋯その努力が水の泡、悲しい⋯⋯。
「何をため息吐いてるんですか? 早く王国へ行きますよ。日も暮れてきましたし」
『へ~い』
サカサカ歩くメリノに、気分が落ち込みながらも着いていく。ああ、メリノのステータスはこんな感じだ。
名称・メリノ
年齢・21歳
種族・獣人《羊族》
職業・家政婦
Lv・94
・装備
魔鉄の鋼糸(暗殺時即死効果)
魔鉄の大針(命中率強化・小)
魔鉄糸のメイド服(防御力強化・小、魔力強化・小)
フォレスト・ウルフの革ブーツ(俊敏強化・小)
・スキル
投擲術3、糸術7
火魔法3、氷魔法2、土魔法5、光魔法1、
強化魔法4、弱化魔法3、時空魔法4、生活魔法、
魔闘魔法4
打撃耐性4、火炎耐性6、氷結耐性4、閃光耐性3、
魔封耐性5、睡眠無効、激昂耐性4、痛覚無効、
精神異常耐性3
障壁3、瞬発2、柔軟4、隠密6、消音7、擬態5、
詠唱短縮1、並列思考3、魔力操作5、集中4、
予見2、睡眠攻撃5、痛倍攻撃1
悪意感知6、気配感知7、振動感知4、音源感知6、
魔力感知5、危機察知6、強者察知7、弱点察知6、
急所察知7、罠察知4
鑑定眼
解体5、軽業3、欺瞞10、宮廷作法8、教導4、
曲芸4、御者6、警戒2、裁縫10、社交4、狩猟3、
窃盗1、地図作成2、跳躍3、追跡5、逃走6、
投擲5、捕縛4、目利き4、料理8、連携2、
罠解除3、罠作成5
MP回復3、SP回復1、MP強化4、SP強化2、
魔力強化4、耐性強化3、五感強化4、氷結強化2、
ビーストハンター1
こんな感じか。メリノには悪いけど鑑定眼で覗かせてもらった。
ん? 鑑定眼なんて持ってないだろって?
ああ、説明してなかったけど俺の聖王の瞳っていうユニークスキルのお陰だな。
《聖王の瞳》所持している者にあらゆる魔眼を与え、その効果が妨害されない加護を掛ける。
《鑑定眼》相手のステータスや物の状態、質を覗く事が出来る魔眼。
まあ魔眼って言っても六種類しかないし、使い道も限られるからそうそう使わないけどな。
しかし⋯⋯メリノのスキルが家政婦よりも暗殺者に近いんだよなあ。隠密系のスキルとか素のLvが異様に高いし⋯⋯一回聞いてみたけど答えてくれなかったし⋯⋯うーん。
「ご主人様? 何をされてるのですか?」
『いや、何でもない。行こうか』
まあ今度考えれば良いか。そういう考えに至った俺は暫く道なりに歩いていく。すると大きな壁が見えてきた。あれだ、巨人が襲ってくる漫画の壁を想像してくれれば良いな、あれ程デカくないけど。大体三十メートルか?
『おー。ありゃあ何王国だ?』
「ゼルガルダル王国です。冒険の国とも呼ばれている王国ですね。付近には多くの迷宮ダンジョンがあるとか」
あー、あの王国か。ゲームだと始まりの国って呼ばれていて、プレイヤーが一番最初に拠点にする国だな。
因みにこの世界の王様なんだが、Sランク冒険者並みのステータス、Lvだけで表すと300は超えてるっていう化け物染みた奴らばっかなんだよなぁ。
特にこのゼルガルダルの王様はヤバい。何がヤバいかって言うとユニークスキルの⋯⋯。
「ご主人様、何をボーッとされてるのですか?」
『ん、ああ。悪い、また考え事してた』
うん、まあ王様の話はまた今度だな。とにかく今は王国に入ろう。
で、入国するらしい人達の列に並びメリノに金の単位とか細かい事を教えて貰うことにした。
『なあ、この世界の金ってこれで良いのか? もし大丈夫だったら単位とかも教えてくれ』
俺はアイテムポーチから銅貨、大銅貨、銀貨等を取り出す。
「⋯⋯はい。大丈夫です。単位としては、銅貨が十フィール、大銅貨が百フィールと十倍ずつ大きくなっていきます」
『ほうほう、この辺りは変わらないな』
ってことは⋯⋯この世界の林檎の基本単価が一個十フィールらしいから銅貨一枚が約百円だな。良し、覚えた。
俺の全財産が約百万フィールだから金銭的には余裕があるな。
「ところでご主人様」
『うん?』
「王国等で人と関わる際の注意点ですが⋯⋯まず、ご主人様の正体がバレるのは防ぎたいと思います」
『うん、まあそうだよな』
俺も魔物ってバレて殺されるのは勘弁願いたい。討伐に来た奴を返り討ちにしても良いけどSランク冒険者とか来たら勝てるかも分からないからな⋯⋯。
「そこでご主人様は、鎧の呪いによって装備が外せず、言葉を奪われたという設定でお願いします」
『お、おう。良くそんなの思い付くな』
鎧の呪いね⋯⋯聖王の鎧なのに呪いって、なんか矛盾してるんだよなぁ。どうでも良いか?
「先程から考えていたので。それとヴォーパルバニーでもそうでしたが、関節部分にも何かしら防具を着けた方が良いかと」
『う~ん、分かった。流石に今は着られないから後でな』
俺の聖王シリーズだが、オリハルコンとミスリルの合金、名を神鋼という金属で作られている。しかし一応弱点⋯⋯というか金属じゃなくて全身鎧の弱点だが、関節部分は防御が低い。俺の鎧も関節部分は単なる布だ。ここを斬られたら魔物っていうのがバレる可能性が高まる。
だから鎖帷子やメリノのメイド服の様な金属糸で作られた装備を着込んだ方が良いだろう。実は聖王の鎖帷子ってのもある。ゲームだと重量で動きが鈍るから外してたんだけどな。
「次の者!」
おっと、俺達の番か。俺達は門番に近付くと入国料を支払う。
そんなこんなで俺達は入国する事に成功した。入国料が少し高かったけど、特に問題なく入国できたな。
『おお! すっげー活気だな!』
王国の中は多くの商店や露天商、国民や冒険者によって活気だっている。商店には異世界あるあるの不思議果物とか売ってて見ていて飽きない。
『さて、最初は冒険者ギルドかな?』
「ここに王国の地図がありますよ。どうやら道なりに進めば見える様です」
『オッケー、じゃあ行くか』
そんな会話をしながら道なりに、偶に商店とかを冷やかしながら歩くと一際大きな建物を見付けた。その入口には冒険者ギルドと異世界言語で書かれている。
今更だけど何で異世界言語が分かるんだろうな? あれか、転生特権ってヤツか。
『⋯⋯まあ良いか? それじゃ入るか』
扉を開けるとガヤガヤと煩いくらいの会話が耳に飛び込んでくる。元々獣人という五感が鋭いメリノは更にキツイのか入った瞬間耳を塞いだ。
『大丈夫か?』
「はい⋯⋯ご心配なさらず」
『うーん、一応人間用だけど耳栓はいるか?』
「はい。ありがとうございます⋯⋯」
人間用の耳栓だし、獣人のメリノだったら丁度良いくらいの音になるだろう。現に耳は塞がなくなったしな。さて、どこで登録出来るんだ?
『おっ、あったあった』
受付窓口的な場所。あそこで冒険者登録できる筈だ。確か手順だと冒険者シートに名前とかを記入して終わりだったか?
そんな事を考えて受付に近付こうとすると、肩をガシッと掴まれる。
『うん?』
「ちょっとアンタ、無駄に綺麗な鎧着てんじゃねえか。なあ? メイドまで連れてよお」
「イヒヒッ。ど、どっかの、き、貴族か?」
肩を掴んだヤツを見ると、無駄に筋骨隆々とした人間と、何かメリノに気持ち悪い視線を向けている鼠の獣人だった。
『えっと⋯⋯何か御用で?』
「なあ、アンタ貴族だろ? どうせ何かの英雄譚に憧れて僕も冒険者に~、とかっていうタイプだろ?」
⋯⋯これはアレか、ギルドでガラの悪い冒険者に絡まれるというテンプレのアレか。
何か俺の事を貴族って勘違いしてるみたいだし、何か目の前で「冒険者は甘くない~」とか、「屋敷に帰ってな~」とかベラベラ喋ってるコイツ⋯⋯多分俺の鎧が欲しいとかそこら辺だろう。俺の鎧、ちゃんと見ないと単なる見た目重視のキラキラ鎧だからな。高く売れるとでも思ってんだろ。
「────って訳で、アンタは家に帰りな。その鎧は俺達が有意義に使ってやるからよ!」
ほらやっぱり。っていうかそろそろやめてくれませんかね? メリノさん何か知らないけど凄い怒ってるんだけど。
「⋯⋯ご主人様」
『はい?』
「殺ってもよろしいでしょうか?」
『待て待て! 何か“やって”の部分に凄い違和感を感じたぞ!? っていうかギルドで殺人を犯すのはちょっと⋯⋯』
「何をブツブツ話してんだ! 言っとくけどな、ギルドはこういう事には不干渉なんだよ。助け呼んでみろよ。どうせ来てくれねぇからな!」
あ、ですよね~。何かテンプレにテンプレを塗りたくった様な状況だわ。やだな~、面倒臭いな~。
そんな事を思っていたら、ハゲ頭のギルド職員らしきおっさんが近付いてきた。
「おいお前等!」
「ああん?」
「な、なんだよ」
テンプレ二人は職員が関わってくるとは思っていなかったのか、少しキョドっている。
「お前等二人はギルドの規則を破った為、拘束させてもらう」
「「ハァッ!?」」
あれ、ギルドって不干渉じゃないの? そう思ってポカンとしているとハゲに呼ばれた数人の冒険者が二人を拘束してギルドの奥へ連れて行こうとした。
「ふ、ふざけんな! ギルドは不干渉じゃねえのかよ!」
「馬鹿かテメエは。ギルドは“冒険者同士”のいざこざには干渉しねえんだよ。コイツら二人はまだ冒険者じゃねえだろ」
「なっ! ぐ、くそがぁあああ!」
二人はギャーギャーと喚いてギルド奥へ連れてかれた。
これは⋯⋯アイツらが馬鹿だったんだな。ちゃんと規則読まなかったんだろうなぁ⋯⋯。
「⋯⋯さて、悪かったなアンタら」
『ああいや、大丈夫だ。俺は気にしてない』
うん。俺“は”気にしてないよ? ただね? メリノさんがね? ちょっと黒いオーラ出してるかなぁ、って⋯⋯。
「アンタら、冒険者登録しに来たんだろ? とりあえずこっち来な」
『お、おう。ありがとう』
俺達はハゲのおっさんと共に受付へと歩いていく。
⋯⋯後から聞いた話だが、あのテンプレ二人はこの事以外にも不祥事が判明して、冒険者ギルドから追い出されたそうです。合掌しとこう。




