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♯31 仲間の思い。新たな地へ

『魔人』

 褐色の肌と禍々しい角を持つ。魔族と言われて最初に思い浮かべる程有名な種族。

 俺は今、猛烈に怒っている。その理由は大きく分けて二つ。


 一つはカルマ達がカトブレパスっていうBランクの魔物と戦って、死にかけてる事。何でここにいるのか知らねぇが、俺やメリノと合流してから倒しても良かった筈だろ。


 そして二つ目は⋯⋯そのカトブレパスが目の前のクソ野郎に召喚されてる奴で、そのクソ野郎がカルマ達を殺しかけた事だ。


 そりゃあ、魔物と戦えば死ぬ事だってある。でもさ、仲間が死ぬのを認められる訳ねえよなぁ?


「何だよ、コイツらのお仲間か? そんな豪華な鎧なんて着込みやがって⋯⋯まあ何人いたって同じか。丹念に育て上げた俺のカトブレパスがそこらの冒険者に負けるわけねえもんな」


『⋯⋯』


「ん? 何だよ黙り込んで。あれか? お仲間助けに来たのはいいけど怖じ気づい─────」


『⋯⋯黙れよ。ベラベラ喋りやがって』


 そう言った瞬間、ゴオッと辺りの空気が一変する。その空気に当てられたカトブレパスとクソ野郎は顔色が真っ青になった。理由は、俺が覇気スキルを使用したからだ。



《覇気》強い殺意を発し、相手を威圧して動きを止めるスキル。確率で恐怖の精神異常を与える。



「ヒッ⋯⋯な、何だよテメェは!」


 おっ、目の前の二匹とも上手く恐怖になったみたいだな。精神系のバッドステータスの一つである恐怖は、恐怖対象から受けるダメージが増加する。更に近付けば近付く程動きが鈍くなるから、かなり強力なものだ。


「カ、カトブレパス! ソイツを殺せぇ!」


「ブファアアアアア!!」


 怯えたクソ野郎の命令で、カトブレパスはストーン・ホーンを放ってくる。だが俺はその場で仁王立ちして、敢えてその魔法を受けた。


 土と岩で作られたトゲは俺の足下から生え、突き刺そうと迫ってくるが頑強な俺の鎧に傷を付けられる訳もなく⋯⋯ボキリと音を立てて折れる。


「なっ⋯⋯」


『アース・ホーン』



《アース・ホーン》大地魔法Lv1の魔法。相手の足下から岩石で作られた巨大なトゲを生やす。



 お返しとばかりに魔法を唱えるとカトブレパスの足下から巨大な岩石のトゲが生え、分厚い毛皮と背中の鱗をものともせずに貫通する。


『アース・フィスト』


 更に魔法を唱え、今度は岩石の拳を二本作り出してカトブレパスの長い首を掴むと、雑巾絞りの様に捻る。ブチブチと筋肉の千切れる音が聞こえ、遂にブチンッと首が捻り切られる。


『丹念に育て上げた⋯⋯何だって?』


「な⋯⋯な⋯⋯」


 目の前で使役していたカトブレパスを殺されたクソ野郎は足をもつれさせながら逃げ出そうとする。もちろん逃がす訳もなく、すぐさま縮地で回り込んだ。


「ヒッ! ヒィイイイイイ!!」


『安心しろよ。苦しませずに逝かしてやる』


 そう言って斧槍を両手に持つと、クソ野郎の首を狙って振り抜いた。分厚い毛皮も堅牢な鱗も持たない人間の首は、いとも容易く胴体とサヨナラした。


 ⋯⋯人を殺すのに、随分慣れちまったなぁ。この世界では必要な事だけど、何だか複雑だ。


『さてと』


 斧槍を振って血を飛ばすと、治療中のカルマ達に近付く。


「ランヴェル、その⋯⋯」


『あー、何だ。後で色々と話聞くから、何でこんな場所にいるのか教えてくれ』


「う、うん」


 で、カルマ達から話を聞いた俺はみんなを連れて例の村へ向かう。そして村に着くとみんなにリカバリー・ポーションを箱で渡す。


『んじゃあこれ、手分けして村人全員に飲ましてくれ。ソロン、カルマ片腕無いから手伝ったげて』


「分かり、ました」


 箱を持ち、手分けしてリカバリー・ポーションを配り始めるのを見た俺は、ストレージから一つの魔道具を取り出した。


『何でも作っとくもんだよなぁ』


 この魔道具は、その名も瘴気浄化装置1号(仮)。ゲームの頃、魔道具作成スキルをカンストさせてはしゃいでた俺が手当たり次第に作ってた時、出来た物だ。


 これの効果は半径1キロメートルの空間に存在する瘴気を吸い取り、綺麗な空気に変えるというもの。カトブレパスの息は瘴気ってよりも毒ガスなんだけど、多分大丈夫だ。


 それを設置して起動すると、淀んだ瘴気が浄化装置に吸い込まれていき、段々と辺りの空気が澄んでいく。暫くすると村中に充満してた瘴気は完全に無くなった。うんうん、無事起動したし効果もあるようで何よりだ。


「ランヴェル~。みんなにポーション飲ましてきたよ~⋯⋯って、何それ~!」


『おっ、ご苦労さん。まあこれは後で教えるとして⋯⋯メリノ、村人の様子は?』


 するとポーションを飲ましていたみんなが戻ってくる。耳を澄ますと村中から聞こえていたうめき声が収まっていた。


「毒は消えたのですが⋯⋯体が動かず数日間何も口に出来てないのか、衰弱している方々が目立ちますね」


『そうか⋯⋯しゃあねえ、乗り掛かった船だ。メリノとレナ、アリスは近場で食い物大量に買ってきてくれ。男共は村の家中の掃除だ』


 そう指示を出して早速行動に移す。さて、男衆の俺らは長い間寝たきりで、ろくに掃除も出来てない村人の家を片っ端から掃除していく。不衛生な環境は、病み上がりには辛いからな。


 幸い、何人かの動ける村人が掃除を手伝いを買って出てくれたのであまり時間は掛からなそうだな。


『⋯⋯で、カルマ。今回無茶した理由をお聞かせ願える?』


 そんな中、俺は掃除をしながら同じ場所を掃除してるカルマに話し掛ける。


「あ、うん⋯⋯その、僕達ってLvが低いし、技術も高くは無いじゃないか。だから、ランヴェルやメリノさんの足手纏いになってるんじゃないかって思ってて⋯⋯」


『⋯⋯それで?』


「それで⋯⋯多分焦ってたのかな。ランヴェルに頼り切りじゃ駄目だと思ったから⋯⋯だから、今回の依頼は良い機会だと思ったんだよ。結局、騙されてたけどね」


『ん~⋯⋯そう、かぁ⋯⋯』


 カルマがそんな事思ってたんか⋯⋯俺はLv低い時期とか技術が低いのなんて誰でもあるし、これから上げていけば良いんだから足手纏いとは思わなかったけど⋯⋯そうかぁ、俺の高いLvが枷になってたんだなぁ。


『⋯⋯何で俺がカルマ達をパーティーに誘ったか、理由分かる?』


「え? い、いや⋯⋯」


『フォモール遺跡の時にさ、事前に話し合った役割でちゃんと動いてくれただろ? だからだよ』


 そう言ったが、カルマはよく分かってないのか頭に『?』を浮かべている。


『俺がさ、転生する前の世界では|世界中の人と繋がって遊べる魔道具《VRMMO》があるって言っただろ?』


「うん」


『でさ、自慢じゃねえけど俺ってLv高いしスキルも揃ってるじゃん。そんな俺とパーティー組んだ⋯⋯丁度カルマくらいのLvの奴らが戦闘全部俺に任せようとするんだよ。お前強いんだから一人で十分だろって』


 俺のやってたVRMMO、シルトナリア・オンラインは結構人気が高くって人口の多いゲームだった。ただその分PK(プレイヤーキラー)とかの害悪プレイヤーが多くて、その中で俺が一番被害を受けてたのが高Lvプレイヤーに寄りついておこぼれを授かる⋯⋯いわゆる寄生プレイヤーだった。そのせいで一時期はパーティープレイをするのが嫌になったもんだ。


『だけどお前らはそんな事無かっただろ? ちゃんと自分の役割やってたし、カルマは絶対勝てない相手でも俺が来るの信じて戦ってくれたし、何より俺が魔物なの知っても普通に接してくれてるしな。だから⋯⋯あー、その、何だ』


 俺はその後の言葉を続けるのが少し小っ恥ずかしくなって、兜をカリカリと掻いた。


『⋯⋯お前らのこと、信頼してるし、足手纏いになってるなんて思ったことねえよ。っていうか、俺のせいでいつも無茶してるんだしさ。頼り切りなのは俺の方だ』


「⋯⋯そっか。お互い様ってこと、なのかな?」


『そういうこったな』


「ハハハッ。そっか、それを聞けて良かったよ」


 そんなことを話し合って暫くした後、丁度掃除が終わった頃に買い出し組が帰ってくると、手分けして料理を作ってそれを村人達に振る舞う。衰弱してた村人達も久しぶりの飯で少しは元気になったようで、俺達に何度も礼を言ってきた。


 そして日が落ちてきて、俺達も帰ろうと支度をしてた所でこの村の村長が声を掛けてきた。


「冒険者様、少々時間をよろしいでしょうか?」


『ん? どうしたんだ?』

 

「蟲人の方の腕についてなのですが⋯⋯」


 ⋯⋯そうだ。村一つ救えたのは良いものの、俺達カリュプスには大きな問題が一つ出来てしまった。それはカルマの右腕についてだ。


 カルマは今、右腕が無い状態だ。片腕だけだと生活に不便だし、何より冒険者業は恐らく続けられない。魔道具で義手作ってそれを付けるってのも手だが、戦闘に耐えられる物ってなると材料が足りない。切り落とされた腕なら回復魔法で最悪くっ付けられるんだが、爆散したらしいしなぁ。


『んで、それがどうしたよ』


「⋯⋯古都の王国についての噂を、ご存じでしょうか?」


 村長の話が少々長かったので要約するとこんな感じだ。


 冒険の王国ゼルガルダルから東に馬車で数日進んだ先に、古都の王国グリシアという国がある。その国にはグリシア神殿という建物があって、その神殿には“聖女”と呼ばれる者がいる。


 その聖女は神がかった不思議な力を複数持っていて、その力の一つに“再生”なるものがあるらしい。その力はなんと切り傷の様な小さな怪我から部位欠損の様な重傷まで何でも治してしまうとのことだ。


『じゃあ、その聖女とやらにカルマの右腕の治療を頼めば⋯⋯』


「恐らく⋯⋯何分、私も数ヶ月前にその国からやって来た旅人から聞いた話ですので本当かどうか分かりませんが⋯⋯」


『いや、十分過ぎる情報だ。ありがとう村長』


「いえ、皆様は我らが村を救ってくれた英雄ですので、これだけやっても感謝仕切れません。いつか時間がある時でもまた寄ってください。いつでも皆様を歓迎します」


『ああ、ありがとな』


 村長に礼を言うと、村の入り口で待っていたみんなの元に走る。そして先程聞いた話を伝えると、特にレナとアリスが喜んだ。


「それ本当ランヴェル~!? すぐにでもいこうよ~!」


「ん。カルマの腕早く治してあげたい」


『そうだな。といっても所属ギルドから離れるから申請が必要だし、出発するのも数日後か』


「⋯⋯メリノさん。僕達、どこかに行くんですか?」


「カルマさんの腕を治すために、古都の王国とやらに行くらしいですよ」


「ちょ、ちょっと待ってよみんな! そんな簡単に決めたって、もう少し考え─────」



『カルマは黙らっしゃい!』

「カルマ、静かにして」

「カルマは黙っててよ~!」



「うっ⋯⋯」


 俺、レナ、アリスの怒濤の三コンボでカルマは言葉を詰まらせる。ったく、お前のことだってのに⋯⋯大体そんな体じゃ不便なのになぁ?


『おっし。んじゃあ次の目標はグリシアでカルマの腕の治療って事で! 異論は認めん!』


「私はご主人様の決定に従います」


「はぁ⋯⋯分かったよ。みんなの優しさが嬉しいね、まったく⋯⋯」


「賛成」


「は~い! 異論はないで~す!」


「え、えと、分かり、ました⋯⋯?」


 で、次の目標が決まった俺らは一度家に帰って、次の日からその準備を始める事となった。

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