♯30 瘴毒の魔獣
《魔族》
主に魔界に住み、子供ですら人間の大人並という高いステータスを持つ種族。爆発魔法を操り、三種の種族に分けられる。
さて、戦うのは良いとしてまずはステータスを強化して基礎を固めていかないと。
「レナ、弱化魔法をお願い! アリスは精神魔法が効くか試してみて!」
「ん。フィジカル・ダウン」
「はいは~い! フィア~!」
《フィジカル・ダウン》弱化魔法Lv1の魔法。相手一人の筋力を下げる。
《フィア》精神魔法Lv1の魔法。一体に『恐怖』の精神異常を与える。
《精神魔法》異常系魔法の一つ。精神に関する異常を引き起こす魔法を覚えるスキル。
二人はそれぞれ筋力を下げる弱化魔法と恐怖の状態異常を与える精神魔法を唱える。でも弱化魔法は利いたけど、精神魔法は効果が無いみたいだ。
「マティア、マジカル・フィード!」
僕は魔蟲魔法を使い、マティアに魔力の餌を与える。マティアはそれを器用に食べると、体格が少し大きくなる。
《マジカル・フィード》魔蟲魔法Lv1の魔法。契約した魔蟲にMPで作り出した餌を与え、全ステータスを強化する。
「マティア、行くよ!」
マティアに合図を送ると、僕達は魔獣を挟む様に立って同時に鎌を振り下ろす。さっきは背中の鱗に防がれたから、今度は胴体に攻撃した。
「⋯⋯えっ!?」
でも、僕の鎌は毛皮に防がれて刃が通らない。どうやら見た目以上に毛が多く皮が厚い様で、それが刃を防いでるみたいだ。マティアの方も同じで、何度も鎌を振り下ろしているけど傷一つ付いていない。
「ブファアア!」
「っ⋯⋯! ゲホッ、ゲホッ!」
僕達を遠ざけるためだろう。魔獣は煙幕の様に瘴気を吐き出した。急いで離れたけどちょっと吸ったのか、大きく咳き込む。
「キーポイント・アロー」
するとレナが弓術のキーポイント・アローで攻撃の通りそうな眼を狙った。背中は鱗で守られているし、足や顔も分厚い毛皮で武器が通らないから妥当な判断だろうね。
その矢は一直線に魔獣の眼球へと迫り、遂に突き刺さろうとする。だけど⋯⋯
ガィンッ!
「⋯⋯弾かれた」
魔獣は素早く瞼を閉じ、矢を弾いた。そんな⋯⋯瞼だけで矢を防ぐなんて、どれだけ耐久が高いんだ?
「ブファアアアア!!」
攻撃された事に怒ったんだろうか。魔獣は瘴気を撒き散らしながら雄叫びを上げる。それと同時に僕の足下に危機感知スキルが発動した。
「うわっ!」
後ろに跳ぶと同時に、僕のいた場所に巨大な土のトゲが生えた。多分土魔法のストーン・ホーンだね。危なかった⋯⋯僕の危機感知スキルはLvが中途半端だから、反応が遅れる事があるんだ。反応して良かった。
《ストーン・ホーン》土魔法Lv1の魔法。相手の足下から岩と土で作られたトゲを生やす。
「トライ・ボム~!」
魔獣の注意が僕に向いている隙を突いてアリスがトライ・ボムを放つ。三発の爆発は魔獣に直撃。だけどものともしてないのか、身体に付いた埃を払うかの様に身体を震わした。
「あはは~。一応、僕が習得してる魔法で一番威力があるんだけどな~」
「耐性が高いみたい。カルマ、どうする?」
物理攻撃は鱗や毛皮で防がれ、魔法は耐性が高くて効かない⋯⋯唯一攻撃が通りそうな瞳は、今は閉じられていて⋯⋯。
「⋯⋯どうしよう」
どうすれば良いのか分からない。今の僕達の手で、どうすればダメージを与えられるのか。どうすれば⋯⋯この魔獣を殺せるのかが分からない。
「⋯⋯考えろ」
考えろ。僕だって馬鹿じゃないんだ。考えれば、きっと打開策が⋯⋯そんな事を考えていると、突然として魔獣の目が開いた。
「ブァアアア!!」
魔獣が雄叫びを上げると、目から謎の光線が放射された。咄嗟に避けたけど、光線に当たった鎌の先端が石に変化した。
「これは!?」
「バジリスクみたいに石化の魔眼を持ってるみたいだね~。でも、バジリスクと違って光線に当たった部分だけみたいだよ~」
アリスがそう話していると魔獣はまた目を閉じた。どうやら光線は長い時間使えないみたいだ。
「ブファアアアア!」
「うわっ!」
「あっぶな~い!」
すると魔獣はまた魔法を唱え、僕達にストーン・ホーンを放ってきた。僕達はそれを跳んで避ける。
「カルマ、危ない!」
「っ!? しまっ⋯⋯」
レナの声に気が付くと、避けた先を予測していたのか魔獣が首を振り抜いて僕に攻撃を仕掛けてきていた。鎌で防御しようとしたけど間に合わず、強烈な一撃が直撃した。
「ガッ─────!!」
その攻撃を食らった瞬間視界が何度も点滅して、喉の奥から鉄臭い液体が込み上げてくる。呼吸がし辛い。体が痛い⋯⋯苦しい。
「ガハッ! ハッ、アアッ⋯⋯!」
「レ、レナ~! カルマに回復魔法を掛けてあげて~! 魔獣は私とマティアで抑えとくよ~!」
「分かった!」
霞んで目が見えない中、二人の声だけが聞こえてくる。そんな中、僕はろくに働かない頭でどうすれば魔獣を倒せるのか考えていた。
僕達は、かなりバランスの良いパーティーの筈だ。僕とマティアが前衛を担って毒と物理攻撃で戦い、レナとシルフィが弓と魔法で後衛から援護を、アリスが鞭と魔法で中衛を担っている。
僕達はお互いをカバーしあって、そこそこ強い相手にも対抗出来たんだ。今回も、きっとそれが出来る筈なんだ。でも、その方法が⋯⋯。
「⋯⋯分から、ない」
「カルマ!」
霞んでいた視界が戻ってくると、僕に回復魔法を掛けているレナの姿が目に映る。どうやら治癒眼も使っている様で、彼女の右目が優しい深緑の瞳に変わっていた。
《治癒眼》視界に入っている味方のHPを徐々に回復させる魔眼。
「ご、めん⋯⋯ぐっ⋯⋯」
「動かないで。私の回復魔法じゃまだ治しきれない」
見ると、僕の右腕が変な方向に曲がっている。でも痛みは感じない。そういえば怪我が大きすぎると痛みを感じないなんて話もあったっけ。
「かった~い! 毛皮が厚すぎるよ~!」
「毛皮は身を守る為の鎧だから硬いのは当たり前。本当なら目とか柔らかい部分を狙わなきゃだめ」
「柔らかい、部分⋯⋯そうだ⋯⋯!」
レナの言葉で、一つの作戦を思い付く。これが上手くいけば⋯⋯でも、もしこれが失敗すれば、次はない。これは一発勝負だ。
「二人とも、聞いてくれ! 魔獣を倒す方法を思い付いた!」
「えっ」
「何々~?」
「説明してる暇は無い! 僕の言うとおりに動いてくれ! アリスはピンにトラップ・ボムを付けて僕に渡してくれ! レナは奴の耐久を下げて!」
そう言うと、アリスは腰に下げているジャグリング・ピンの一本にトラップ・ボムを仕掛けて僕に渡し、レナは魔獣にガード・ダウンを掛けた。
《トラップ・ボム》爆発魔法Lv5の魔法。小さな魔力の玉を接着し、任意のタイミングで爆発させる。
「よしっ⋯⋯これで⋯⋯」
僕は使えなくなった鎌を投げ捨てると、ピンを持って魔獣へと走り出す。多分この距離なら、奴は魔法を放ってくる筈だ。
魔獣は魔法を放つ時、いつも雄叫びを上げていた。口の中なら、魔獣の厚い毛皮も鱗も無い。耐性が高いのは不安だけど、それでも十分ダメージは通る筈だ。
「ブファアアアア!」
「今だっ!」
魔獣が雄叫びを上げたと同時に、僕は瞬発を使用して敏捷を上昇させる。グンッと速くなった僕は魔法を避け、あっという間に魔獣の目の前までやって来た。
「これでも喰らってろ!」
そして雄叫びを上げてぽっかりと開いた口にピンを強引に詰め込んだ。よし、これでアリスに爆破してもらえれば─────。
「ゴボブァアア!」
腕を引き抜こうとした瞬間、魔獣が勢いよく口を閉じて僕の腕に食らい付き、このまま石化させてやると言わんばかりに目を開いた。
「しまっ─────」
瞬間、目から光線が放射された。顔を逸らしたけど間に合わなかったのか僕の右側の視界が真っ暗になる。
「カルマ!」
「う⋯⋯あ⋯⋯」
しまった⋯⋯多分、僕の右側の頭部を石化したんだろう。早く治さないと⋯⋯でも、今はそんな事よりもやることがある⋯⋯!
「ア、リス⋯⋯! ピンを爆破、して⋯⋯くれ!」
「で、でもカルマが~⋯⋯」
「早く!」
「っ⋯⋯分かった⋯⋯!」
アリスがトラップ・ボムが仕掛けられているピンへ手を伸ばし、握り締めると轟音が鳴り響いて魔獣の口が爆発する。
魔獣は顔の大半が消し飛び、頭を失った体を地面に倒す。魔獣を倒した事で、僕達三人に経験値が入ってきた。
「カルマ⋯⋯!」
「あ、あぁ⋯⋯そんな⋯⋯」
「ぐっ⋯⋯うぅううう⋯⋯!!」
レナとアリスは近付いてくると、僕の姿を見て絶句する。当たり前だろう。魔獣に食われていた僕の右腕が⋯⋯肘から先が無いんだから。
「と、とにかく止血をしないと駄目。アリス、ポーションを飲ませてあげて」
「わ、分かった~」
「⋯⋯リペア」
《リペア》生活魔法で覚える魔法。負傷箇所を止血する。
レナがリペアを掛け、腕の止血をすると包帯を巻き、アリスが僕の口にヒール・ポーションを運ぶ。何とかそれを飲み込むと、少しだけ痛みが和らいだ。
「ご、めん⋯⋯ありがとう⋯⋯」
「謝るのは後で。早くここを離れて回復しないと。この怪我は私の回復魔法じゃ治しきれない」
「そうだね~。マティア、カルマ運んであげて~」
そう言って二人は僕をマティアの背中に乗せる。そして、取り敢えず村に戻ろうとすると─────
「なぁんだぁ? カトブレパスやられちまったのかよ」
いつの間にか、魔獣の近くに依頼を持ってきた男性が立っていた。
「結構頑張って召喚したのになぁ⋯⋯まあ良いか。後はコイツらから身包み剥ぎ取りゃあ良いだけだし」
⋯⋯彼は、何を言っているんだ? 彼はあの村の住人で、この魔獣の退治を依頼したんじゃないのか⋯⋯?
「貴方、何を言ってるの」
「あ? えっ、もしかしてまだ気付いてない? この状況で?」
「質問に答えて」
「はぁ⋯⋯分かった分かった、答えてやるよ。まあ簡単に言えば⋯⋯」
そう言って男がパチンと指を鳴らすと魔法陣が現れ、そこから一体の魔獣が⋯⋯僕達が倒したのと同じ魔獣が召喚された。
「お前らは、俺に騙されたってことだ」
「そん、な⋯⋯」
やっとの事で倒した魔獣が、もう一体⋯⋯? しかも騙されていたなんて⋯⋯もしかして、彼は冒険者狩りってやつなんじゃ⋯⋯。
冒険者狩り。盗賊とか、冒険者崩れが主に行っている盗賊行為。あまりランクの高くない冒険者を狙って襲撃し、所持物を身包みを金にするんだ。
「みんな、逃げるよ!」
「させねえよ! カトブレパス!」
男に命令され、カトブレパスと呼ばれた魔獣が雄叫びを上げると足下からストーン・ホーンが放たれた。マティアに乗っていた僕は何とか避けたけど、反応が遅れた二人は大きく上に吹き飛ばされる。
「二人とも!」
「やっちまえ、カトブレパス!」
すると上に飛ばされている二人へと魔獣が近寄り、勢いよく首を振るった。それは避ける事の出来ない二人に直撃し、大きく吹き飛ばした。
「そんな⋯⋯レナ、アリス!」
「う⋯⋯ぐ⋯⋯」
「ゲホッ⋯⋯ウエェ⋯⋯」
よ、良かった⋯⋯まだ生きてるみたいだ。でも遠目から見ても分かるほどに血を流している。早く治療しないと⋯⋯でも、コイツらから逃げられるのか?
「へぇ、これ喰らっても耐えるか。まあ良い、動けないなら簡単に当たるからな。やっちまえ!」
男の声と共に、カトブレパスは目を見開き光線を放射する。それは真っ直ぐと僕達を石化させるために飛んできて⋯⋯そして、遂に僕達に当たりそうになった次の瞬間─────
『させるかぁああああああ!』
僕達の目の前に一つの人影が飛び込んできて光線を防いだ。その人影は僕達のよく知る人で、その人は僕達に顔の見えないフルフェイスの兜を向けた。
『何がどうなってんのか知らねぇが⋯⋯お前ら、良く頑張った』
「ランヴェル⋯⋯はは、ありがとう⋯⋯」
そう言うと、ランヴェルは明らかな殺意を男と魔獣に向けながら武器を構えた。
『メリノ、ソロン!』
「はい」
「何で、すか?」
『ソイツらの治療を頼む』
「ご主人様は⋯⋯いえ、お聞きする必要はありませんね」
『おう、分かってんじゃねえか』
メリノさんとソロンは僕たちに駆け寄ってくると、ポーションや魔法を使って傷を治療する。僕の吹っ飛んでる右腕を見たメリノさんは言葉を飲んだ。
「⋯⋯無茶しましたね」
「ははっ、ごめん⋯⋯メリノさん、僕よりも二人の治療を優先してほしいんだけど⋯⋯」
「お二人はソロンに任せています。と言うか、貴方が一番重傷なのですから自分の心配をしてください」
「わ、分かったよ⋯⋯」
僕はそう言って視線をランヴェルへと向けた。きっと彼なら、あの魔獣にも簡単に勝てるんだろうね。
「⋯⋯迷惑、掛けちゃったな」
「全くです⋯⋯貴方達が何を思ってこうなってるのかは知りませんが、これが終わったら一度ご主人様と話したらどうですか?」
「⋯⋯そう、だね。そうするよ」
メリノさんの説教を聞いて苦笑しながら、この後自分の思いをランヴェルに話してみようと、そう考えながらメリノさんの治療を受けた。
「⋯⋯メリノさん、包帯がキツい様な気がするんだけど」
「止血の為です。我慢してください」
「いや、それにしてもイタタタタタ!」
はいどーも、作者の蛸夜鬼です。投稿が遅れて申し訳ありません。
さて、この小説なのですが一部を大きく編集しました。編集点は以下の通りです。
・武術、魔法、自己発動スキルの効果を追記。
・一部妙な事になっている文章を編集。
・メリノの感知、察知スキルが抜けていたのを編集。
以上です。大きく編集する事になって申し訳ありません。
それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!




