♯2 奴隷の元メイドさん
『月の呼び方』
月の呼び方は最初から『牡羊月』『牡牛月』『双子月』『巨蟹月』『獅子月』『乙女月』『天秤月』『巨蠍月』『射手月』『山羊月』『水瓶月』『巨魚月』となっている。
今は夜。ただでさえ暗い夜だが、大量の木々の枝が天然の屋根となって月光を遮り、辺りは完璧な闇に染まっている。
時折魔獣の類いであろう狼の遠吠えが聞こえ、気を休める暇もない。
⋯⋯って言うか夜中の森怖すぎだろ! 俺は暗いとこ苦手なんだぞ!
『⋯⋯まあ、一人じゃないだけマシか?』
焚き火に枝を投げ入れながら、俺が用意した毛布に包まっている羊獣人をチラ見する。
この羊獣人、相当疲労が溜まっていたのか俺がここまで連れてくる間も野宿の準備をしている間も全く起きなかった。
ってかアレだ。あの布を適当に縫い付けた様な服は本当どうにかしてほしいな。何がとは言わないけどチラチラと見えてるんだ。こちとら健全な大学生だぞ! SAN値が少しずつ削れてるんだ!
「んぅ⋯⋯」
『おっ?』
なんて馬鹿な事を考えていると羊獣人が目を覚ました。
「ここは⋯⋯?」
『よっ、おはようさん』
「っ!?」
念話で話し掛けると凄い勢いでその場から離れた。えっ、話し掛けただけでこんな反応されるとか⋯⋯少し傷付いたんだけど。あ、念話っていうのは会話用のスキルだ。
《念話》相手の脳に直接話し掛けるスキル。対話タイプとスピーカータイプの二種類に切り替える事が出来る。
念話は対話タイプ、スピーカータイプの二種類が選べて、俺はスピーカータイプに設定している。
「⋯⋯貴方は?」
『しがない旅人です』
「嘘ですね?」
『ハイ、すみません』
いや、まさかこんな早くバレるとは思わなかった。まあ元から騙せるとは思ってなかったけど。
すると羊獣人は警戒を解いて先程の位置に戻ってくる。うん? 何で戻ってきたんだ?
『⋯⋯』
「何ですか?」
『いや、まさか元の位置に戻るとは思わなくてな』
「強者察知が異常な反応をしてるので。こんな強い反応を起こすなんて、相当高いLvなんでしょうね。それなのに逃げるなんて無謀な事はしませんよ」
《強者察知》自身より高いLvの者を察知するスキル。Lvが高い程強く正確に反応する。
強者察知はあくまで自分よりもLvが高いのが分かるだけだが、戦術的には有効なスキルだ。因みに最大スキルLvは10で、上がっていくたびに強く正確な反応を示す。
「それに悪意感知も発動しませんから」
《悪意感知》相手から向けられる悪意を感じ取るスキル。Lvが高い程強く正確に反応する。
『ふ~ん。まあ警戒を解いてくれたなら良いんだけどさ』
「まあ一番の決め手はあんなバレやすい嘘を吐いた事ですけどね。騙すにしてもおかしいですから」
『なっ!』
こ、コイツ⋯⋯地味に心にキタぞ?
『ま、まあ自己紹介でもしようじゃないか。俺の名前はランヴェル。アンタがバーサーク・ベアに襲われてたから助けてここに連れてきたんだ』
「そうなのですか、ありがとうございます。私はメリノと申します。以後、お見知りおきを」
『おう。ところで一つ良いか?』
「はい?」
『その服装、どうにかならん?』
メリノが動く度にチラチラと見えるんだよ。何がとは言わないけど。って、さっきも言った様な気がすんな。
メリノは俺の言葉を聞くと胸を隠す。
「⋯⋯見ないでください」
『アッ、ハイ』
うーん。でもコイツ着替え持ってないだろうしなぁ。俺も服は持ってないし。どうしようかなぁ。
と、思っていると後ろで魔力の流れを感じる。振り向くとメリノの手元に小さな魔方陣が現れていた。
『えっ、ちょ、何それ?』
「ストレージですが?」
《ストレージ》時空魔法Lv1の魔法。あらゆるものを無制限にしまう事が出来る空間を生み出す
《時空魔法》特殊属性魔法の一つ。時間や空間を操る魔法を使う事が出来るスキル。
ストレージって、習得が結構難しい時空魔法のヤツじゃねえか。メリノが時空魔法持ってるとは知らんかった。この魔法はゲームの設定だと持ってる奴は数少ないらしいのに。
そんな事を考えているとメリノはストレージからメイド服を取り出す⋯⋯いや、なんでメイド服?
『なあ、なんでメイド服なんだ?』
「私、とある貴族のメイドをしていたので。少しミスをしてつい先日奴隷に落とされましたが」
メリノはそう言って奴隷服を脱ぐ。その褐色の肌はきめ細かく、豊満な胸は─────
「見ないでください」
『ハイ、スンマセン』
ギロッと睨まれたので速攻で後ろを向く。あれ、本当に俺の方がLv高いのかな? 何かメリノの威圧感に負けてる気がする。
で、メリノが着替えてる間ボーッと森の方を眺めているとガサガサと音がした。
『⋯⋯』
いつ何が来ても良いように、斧槍と大盾を構えておく。暫くすると気配が目の前で止まり、殺気が飛ばされる。そして次の瞬間
『あ?』
「えっ?」
視界がグルグルと回転し、ゴトッと音を立てて止まる。その時、視界には着替えが終わったらしいメリノのメイド姿と、長い牙を持つ一匹の兎、そして─────首の無い俺の姿だった。